1、舞踏会
「お、お母様……さすがにこの状況では……」
「シンデレラ、いつも言っているでしょう。心に余裕を持ちなさい。それに、例の騎士狩りも、セトさんのお陰で一旦は退いた筈です」
「し、しかし……ヴィルジナルの件がなくなった訳ではありません。やはり準備の為に防衛から人手を割くのは……」
ルヴェール城内では、シンデレラが彼女の継母であるアマーリエとなにやら言い争っていた。
そんな光景を心配そうに眺める眼鏡の女性が一人。
「あの……ココロさん、シンデレラ様は一体何の話を?」
そんな女性──ココロに声をかけたのは、全身白の装備で統一した青年、セトだ。
「せ、セトさん……!あ、あの、怪我はもう大丈夫なのですか……?」
突然声をかけられ、ココロは頬を染めて少し慌てる。
「ええ、すっかり良くなりました。貴女のお陰です」
「そ、そんな……!」
セトの言葉にココロがさらに頬を赤くしていると、もう一人若干小柄な女性が二人に近づいてきた。
「なんか舞踏会のことで揉めてるっぽいよー。お姉ちゃん顔赤すぎ」
「こ、ココル……!?」
若干小柄な女性──ココルの言葉を聞き、セトはシンデレラの方へと近寄っていく。
「あの、シンデレラ様。怪我はもう治りましたので、自分を是非街の護衛として使ってください」
「せ、セトか……。お前がそう言うなら……そうだな……いやしかし、お前にばかり頼るというのも……」
「自分は大丈夫ですよ。それに、ヴィルジナル様が直接この街に攻め込むということも無いのではないでしょうか」
「ん……何故そう思う?」
「以前シェーンヴェントでの戦闘で、結局最後に終止符を打ってくれたのはヴィルジナル様でした。自分は、あの方があまり悪い人間だとは思わないのです」
「そ、うだな……確かに、あの時はヴィルジナルが正しかった。だが、近頃シェーンヴェントの魔物が増えているのは彼女がけしかけているからだという噂もある。ここで油断しては──」
「シンデレラ」
ここで彼女の言葉を遮るように割って入ってきたのは、彼女の継母アマーリエだ。
「セトさんがここまで言ってくれているのですよ?そんなに気を張らずに、ここは彼を頼ったらどう?」
「お母様……」
彼女の言葉にシンデレラは一度フゥッと息をつき、そしてようやくゆっくりと頷くのだった。
「……分かりました。舞踏会、今年も行うことにします。ただ……セト、一ついいか?」
「はい……?」
「当日は、是非お前にも参加してもらいたい」
「え……じ、自分は護衛に──」
「護衛は、他の騎士に頼んでおくから安心してくれ」
「で、ですが──」
「大丈夫。きっとお前も楽しめる」
「か、考えておきます……」
舞踏会開催が決まったところで、再びアマーリエが口を開く。
「シンデレラ、あの件のこともセトさんに頼んでみたらどうかしら」
「あの件……ですか。そうですね……」
シンデレラは少しの間考え込むが、しかしすぐにセトに向き直って言った。
「セト、実は最近シェーンヴェントの草原を抜けた先で、凶悪な魔物が出現したとの報告があるんだ。もう何人もの騎士達が怪我を負って帰還している。お前に討伐を頼んでもいいか……?」
「はい、もちろんですよ」
「し、シンデレラ様!私たちも行きますッ……!」
近くで話を聞いていたココロとココルの二人も、ここで口を挟んできた。
「ああ、すまないな。じゃあまた三人で頼むよ。セト、お前はまだ怪我が治ったばかりだ。無茶はしないように」
「はい、分かりました」
こうしてセト、ココロ、ココルの三人は、雪原地帯ルイヒネージュへと向かう。