9、決意
「お前も、そんな顔をするんだな。アンネローゼ」
そう言って二人の部屋に入ってきたのは、この城の姫シンデレラだった。
彼女の言葉に、アンネローゼは怒った顔で少し頬を染める。
「なっ……!貴女こそ、盗み聞きなんて趣味が悪いわね、シンデレラ」
「何を言ってる。ここは私の城だ。城内にいる部外者を監視して何が悪い」
「……まあいいわ。それより、もう少し部屋の外で待っていてくれないかしら。まだ貴女に入ってこられては困るのよ」
「悪いがそれはできないな。お前が次に何を言おうとしているかくらい分かる。私の前でそれを言えばいい」
「わ……分かったわよ……」
そしてアンネローゼは、一度大きく深呼吸をして、それから再びセトに向かって口を開いた。
「セト、貴方を計画に巻き込んでしまったこと、今でも本当に後悔してる。ごめんなさい……。それで……その、貴方をあんな目に合わせておいて、こんなお願いをするのはとても傲慢なことだとは分かっているのだけれど……もし良ければ、もう一度、この私に仕えてはくれないかしら。貴方の力が……いいえ、貴方という一人の騎士が、今の私には必要なの」
彼女は言いながら手を差し出すが、セトは暫くの間何も答えることができなかった。その暫くの間に、今度はシンデレラがセトに近寄り口を開く。
「セト、先ほどのお前の過去、聞かせてもらった。それと、お前の剣の腕がどれほどのものかもよく分かった。その上で、改めてこの先も私について来て欲しい。ココロとココルの二人もお前のことを心配している。どうか、正式にこの私に仕えてはくれないか」
そしてセトに手を差し出すシンデレラ。
セトはそこからかなり長い時間悩み続けたが、その末にシンデレラの手を握り返す。それが、彼の答えだった。
「宜しくお願いします。シンデレラ様」
セトの出した答えに、アンネローゼは今にも泣き出してしまうのではないかというほどに悲しげな表情を見せたが、しかしそれはほんの一瞬のことだ。
すぐに彼女はいつもの凛々しい表情に戻る。
「……今回だけは、貴女に譲ってあげる。セト、もしもシンデレラが貴方のことをいいように使うようなら、すぐに私の所へ来なさい。私はいつでも貴方を歓迎するし、いつでも、マッ……」
彼女は突然言葉を詰まらせると、慌ててセトに背を向けた。
「……待って、いるからッ……!」
そのまま部屋を出て行くアンネローゼ。言い残した最後の言葉は、本当に彼女のものなのかと疑いたくなる程に震えていた。
「アンネローゼは、確かめに行ったんだ」
アンネローゼが部屋から立ち去った後、シンレデラがその口を開く。
「え……?」
「クリムゾン・サイスが生き延びていることを知り、もしかしたらその弟も生き延びたのではないかと思ってな」
「それで、一人クリムゾン・サイスに会いに行ったということですか……?」
「ああ……恐らくな」
ここでシンデレラは、一本の白色の剣をセトに差し出した。
「これは……?」
「フフフッ、アンネローゼからだよ。私も流石に驚いたんだが、あいつ、お前が生きていてくれて相当嬉しかったんだろうな……フフフッ」
「そう、でしたか……。お礼に行かなければいけませんね」
「怪我が治ってから、な。それと、別にシュネーケンへ行くのは構わないが、お前は私の騎士だからな。変な気を起こすなよ?」
「ええ、分かっています」
こうしてセトはシンデレラに仕える騎士となる。
そして同時に、彼は兄エトの討伐を静かに決意するのだった。