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06.あかり


 そらは大丈夫かしら?

 胸の内に不安を抱えつつ、私は蒼穹を背景にモニターの中を疾走する漆黒の機体を目で追っていた。

「敵機接触まで18秒、カウント、17、16……」

 オペレーターの声が響く。

 歌姫に会ったのはつい昨日の事、双子の相方に依存した彼女は、かぐやにりくをとられてしまった、と悲しんだ。

 なんとかなだめてはみたけれど、彼女の瞳の奥に巣くってしまった暗い影を取り去ることは出来なかった。

 りくがかぐやに惹かれたのは事実だし、それは誰にも責められない。そして、人の心は誰にも強制することは出来ない。それは分かっていても、まるで閉ざしてしまった私の心をそのまま素直に爆発させたようなそらを見ていると、どうしても胸が痛むのだった。

 RV-00(ルヴィ)の動きは、いつもと変わらないように見える。

 インカムから流れてくるそらの唄声も、いつもと同じように鋭く、力強かった。

 それなのに心のどこかに不安が巣くうのはいったいなぜなんだろう。

「念のため、第二部隊の出撃準備を」

「了解」

 指示を出してから再び蒼穹を駆ける道化機械(コーラス)に視線を戻した。

 数年前の大洪水で大地を失い、人々は海上に逃れた。ロサ・ファートゥムは住んでいた都市の上に要塞を重ね、生き延びた。そしてヤマトが歌姫を創り、現在に至る。

 海に逃れた人々は海上連合軍を組織し、このロサ・ファートゥムを守る歌姫を求めて攻撃を仕掛けてきた。

 その攻撃は日増しに激しくなっている。

 カウントが0になると同時に、RV-00は敵機と遭遇、りくの操作でRV-00は鋭い動きを見せる。

 そらの力強い歌声、そして正確で鋭い旋律は機体に多大なエネルギーを供給する。あの鋭い攻撃と、音速を可能にしているのはそらの歌。

 そして、その歌を原動力にして最大限、RV-00の能力を引き出すのはりく。

 大洪水の折、親を失って路頭に迷ったところを私が拾ってきて育てた双子の兄弟。

 大切な大切な、私の弟と妹。

 本当なら、あんな戦場に出すつもりはなかった。

 しかし、二人は自ら申し出た。


――この街を守るために、ボクらは戦う


 そらは誰より巧く、誰より速く、誰より強い歌を歌えたから。

 道化機械(コーラス)に乗るようになってすぐ、彼らは頭角を現した。

 彼らの為にRV-00が造られ、それに乗った二人が最強と呼ばれるようになるまで時間はかからなかった。

 それでも。

「敵機殲滅、RV-00が帰還します」

 オペレーターの声にほっとした。

 本当は二人に戦場に出てほしくなんかない。

「そら、りく、お疲れさま。ありがとう」

 インカムに向かって言うと、元気な双子の声が帰ってきた。

 私の心配は、杞憂であってほしい。

 心優しいそらは、きっとかぐやの事も受け入れてくれると信じていたい。

 だから、私のように歌姫を嫌いにならないで――



 ロサ・ファートゥムはいつも守りの歌姫の歌に充たされていた。当たり前になりすぎて気づかないほどに、朝も夜も、眠っている時も起きる時も、ずっと私たちを歌声が取り巻いていた。

 当たり前に流れるそれは、世界の崩壊を止める歌。

 RV-00が無事帰還したのを確かめてから、私はいつものようにそらの部屋へと向かった。

 戦場から帰ってきた後、いつも二人は並んで大きな窓から落ちる星を見ているのが日課だったから。

 そして私はいつも二人をねぎらうために部屋を訪れるのだった。

 しかし、部屋の扉をノックしたが、返答がなかった。

「そら? りく? いないの?」

 そのままがちゃりと扉を開けると、そこには一人ぽつりとベッドに座ったそらがいた。

 私が入っても振り返らず、いつものように駆けてきて抱きついてくることもなかった。

 あまりにか細いその背中に、焦燥が心の中に湧き上がってきた。

「そら……?」

 呼んでも振り向かない。

 私はそらの傍まで寄った。

「あかりちゃん、りくが帰ってこないの」

「そら?」

 白いリボンがふわり、と揺れた。

 私をまっすぐに見上げた蒼い瞳にどきりとする。

 まるで硝子玉のように透き通って美しいその瞳には、何の感情もなかった。悲しみも、怒りも、楽しみも、苦しみさえ――

「あたしはりくと一緒にいたいのに」

「……!」

「りくが帰ってこないの」

「そら……!」

 たまらなくなって私はそらを抱きしめた。

「あかりちゃん?」

 幼い声が耳元に響く。

 ああ、この子はこんなにも双子の片割れを求めているんだ。

「どうしたの、あかりちゃん?」

 どうして私にはなにも出来ないのかしら。

「あかりちゃん……?」

 不思議そうに何度も何度も私を呼んだ妹の声に、答えられなかった。


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