02.あかり
果てしなく続く蒼穹を裂くように、澄んだ歌声が響き渡った。
道化機械の出動。
海の真ん中にぽつりと浮かぶ、漆黒に塗り固められた都市の中央部から人型戦闘機械が射出された。それも、たったの一機。敵国から放たれた道化機械は数体だという情報が入っており、纏めて相手にするのは分が悪すぎると思われた。
海上に投げ出された人型戦闘機械――通称、『道化機械』は、射出のため縮めていた手足を大きく広げ、さらに背に当たる部分から翼のような金属板を張り出した。その姿は、あたかも空を駆ける一羽の鳥のようだった。
漆黒と緋色を基調にデザインされ、重く固められた装甲。頭部に当たる部分は半透明で、目を凝らせば生身の人間が二人、並んで搭乗しているのがかろうじて確認できる。
その時、装甲から美しい歌声が響き渡った。
時に高く時に低く、時に大きく時に小さく、海の波が寄せては引くように心地よいリズムで奏でられるその歌は、聞いている者すべてを虜にする不思議な響きを持っていた。
その旋律に合わせるように、道化機械は大きく翼を広げ、風を掴んだ。
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「RV-00、飛行開始しました」
「思考、制御、共に脳波異常なし」
「思考からの通信、正常」
「制御の十戒、飽和を確認」
「敵機との接触予定時刻は現在より389秒後、カウント開始します」
389秒前から、という長いカウントダウンに耳を貸さず、この場の司令塔である赤の将軍は、管制室最大のモニターに映し出された道化機械の姿を見つめた。
モニターの中では、漆黒の体に緋色の装飾を纏ったかのような力強いデザインの人型戦闘機械が、真っ青な海原を背景に高速で飛行していた。
終焉の都市『ロサ・ファートゥム』において、この道化機械は最強だった。機体の性能はもちろんのこと、搭乗者を含め、何もかもが桁違いなのだ。『RV-00』という識別コードを与えられた道化機械は、これまで数えきれないほどの敵を崩壊に導き、その戦果は一度に複数の敵機を相手にしても変わらなかった。
「そら……りく……」
深紅の服に身を包んだ女将軍は、RV-00に多大な期待を寄せていた。そして、彼らの乗る機体がその期待を裏切らない事も知っていた。
迎撃を失敗するわけにはいかない――たとえ、命を賭けて戦場へと向かう搭乗者に任命されたのが、未だ10代も半ばという若さの二人だったとしても。たとえ自身にはモニター内を駆ける道化機械をただ一心に見つめる事しか出来なかったとしても。




