《歪愛‐落‐》
皮膚を裂き、肉を突き破る感触。
根元まで埋まった包丁から伝う、生温い液体。
直前までとまるで別人のように、とても穏やかにかつての彼氏が微笑む。
何事もなかったかのように、あの頃に戻ったかのように、彼は優しく私を抱きしめる。
「恐がらせてごめん。でも、近づけなくなっちゃったから、もうこれしか思いつかなくて……」
言って茫然とする私に口付けして、抱きしめる腕に力を込めると、鉄錆の臭いを残して離れた。
彼は立ち尽くす私の手を引いて、リビングへと移動させると自分はベランダへと移動する。
「しっかりと×××の中に、僕を焼きつけてくれ」
そして彼はお芝居のように両手を広げ、
「いままでも、これからも」
私の目を最後まで見つめながら、
「いつまでもずっと、心の中で愛を囁き続けるよ」
ゆっくりと、まるでベッドに倒れ込むように、
「永遠に愛している、×××」
手すりの向こうへと、姿を消した。
イメージ的には、別れて数年経過していて、既に結婚している女性への想いが抑えきれずにストーカー化した男性が、一度逮捕されて接近禁止命令を出された結果、忘れられないように女性の記憶に自身を刻み付けるために暴走したって感じデス。
拙作を読んで頂き、有り難うございましたm(_ _)m