後編。というよりエピローグ?
あれ、何で私これ前編と後編に分けたんだろ? 意味無くね? 全く意味無くね? まぁいーや、これはエピローグって事で。はい。ョ→ロ→(☆´д`★)シ→ク→
俺達が留置所、に入れられてから、早一月が経とうとしていた。最近、度重なる取り調べや検査の末、漸く俺達が犯人であるという判断が下され、現在裁判をする手続きを進めている所らしい。本当、社会というのは面倒なものだ。俺達はそこまで生きられそうにないというのに。向かいに座っている那由多も、最近急に出てきた皺が目立ち始めている。俺の方も、徐々に身体を動かすのが怠くなり、今は座っている事さえ困難な状況だ。
「……ねぇ、時雨君、いる?」
「……あぁ、いるぜ」
「……よかった」
最近は、こんな意味のない会話を、続けるばかりになっている。
「……なぁ、那由多、いるか?」
「……いるよ」
「……そうか」
でも、それだけで何か安心できるのだ。
そして、とうとうその日は来た。奇しくもその日は、俺達の裁判が予定されていた前日の事だった。その頃にはもう、那由多は見るに絶えない姿となり、遠目に見るとミイラと勘違いする程生気を失っていた。もう、どう見てももう長くないと分からされるような、そんな姿だった。
「ねぇ……、時雨君……、いる……?」
今にも擦り切れてしまいそうな声で、那由多は言葉を紡ぐ。
「……いるぜ。だから……安心しろよ」
「そう……。ねぇ……、私は、時雨君の事……ずっと好きだったよ」
「……今更なんだよ。その言葉……もう、飽きる程聞いて来たぜ」
「そう……だね。でも……、何か、改めて、言わなきゃいけない……気がして」
「……そうか」
「……ねぇ、時雨君は……、私の事、好きだった?」
「……好き、だとは言わねぇ。でも、お前の存在が、俺によって暖かなものであった事は間違いねぇよ。だから、何だ……。これでも、かなり感謝してるんだぜ……?」
那由多から、返事は無かった。
俺は溜め息を一つつくと、床に寝そべってぼんやりと天井を眺めてみた。既に焦点の合わなくなった目が、ぼんやりとした明かりを映し出す。あぁ、今から俺は、彼処へ旅立つのか。身体が徐々に動かなくなる。背中から伝わっていた冷たく固い感触が、段々と感じられなくなっていく。それにつれて、身体が浮き上がっていくような奇妙な感覚が、俺の全身に拡がってゆく。不意に、俺は自身の心臓が鼓動を止めた事を知覚した。あぁ、これが死か。然し、それは想像していたよりもずっと穏やかで、いっそ心地良ささえ感じられる程のものだった。
「俺は、ちゃんと終われたかな……?」
急速に薄れ行く意識の中で、俺はそんな事を思っていた。
「あーぁ、終わっちゃったねぇ……」
どこかで、赤い髪の少女が嘯く。
「報われないってなら、ボクだって同じなんだけどねぇ……。一体、これからどうしろというんだろう?」
血濡れたメイスを片手に、少女は呟く。
「まぁ……終わってしまったものは仕方ないなぁ。ボクはボクで、この世界に相応しい最期を飾るとするかぁ」
よいしょっと。
そんな可愛らしい声と共に、少女は歩き出す。そして、色を失った世界の中で、少女はまた、紅い花を咲かせる。