怪傑! お下劣ババァ!
俺のババァはお下劣だ。
「トモアキ~!!パイしゃぶらんか!?」
「のわ~!」
ババァは既に垂れ下がっているパイを振り回し孫のトモアキに迫り来る。
「くんな~!」
トモアキはおもいっきりババァをブン殴る。
「ババッ!!」
ババァは鼻血をだして倒れた。
「なにすんじゃい!!」
ババァは逆ギレする。
トモアキは更に逆ギレ。
「いきなりパイを振り回して迫り来たら殴るわ!てか、怖いし!」
「許してワン。うふん。」
ババァはアイドルの真似をする。
「きめ~わ!てか、俺の嫁の真似すんな!」
トモアキはそのアイドルの熱狂的なファンである。
それを知っての愚弄。
下条トモアキ。
現在二十歳。
今は就活で忙しい時期。
ババァにかまっている暇はない。
そしてババァの名はフサ子。
御年八十歳。
なぜ孫のトモアキに執着するかというと孫が可愛いと言うこともあるが、死んだおじいさんに似ているからである。
「トモアキはワシの生き甲斐じゃて…。」
ババァはもの悲しそうに語りだした。
昨年他界したじいさんのことだ。
「トモアキはじいさんに似とるじゃよ…。」
トモアキがババァの横顔をみる。
ババァは涙を流していた。
トモアキはそんなババァに慰めの言葉をかけた。
「おばちゃん…俺、思うんだけど。いくら俺を追いかけたって死んだじいさんは戻ってこないよ。それに何時までも引きずっていたら報われないよ?」
ババァは涙を拭いトモアキにお礼を言う。
「ありがとう…。」
「いいんだよ。おばあちゃん。」
トモアキは笑顔で答える。
「じゃあ、俺、就活行ってくるね。」
「行ってらっしゃ。」
ババァと両親が手を振る中トモアキは就活のためハローワークへと出かけた。
「おばあちゃんあまりトモアキをからかわないで下さい。」
母親の和美がババァに一言。
しかしババァはパイを振り回し和美にパイではたく。
「生意気言うようになったのぉ?この腐れ嫁がぁ!」
「お母さんそれをやめろって言うんだ。」
ババァの息子である俊也が止めに入る。
「ふん、どいつもこいつもワシを邪魔者扱いじゃ。」
ババァはふてくされ部屋に籠もる。
夕方になりトモアキが帰ってきた頃ババァはまた家の中で大暴れ。
「トモアキ~おかえり~のぉ~!」
ババァはパンツ一丁でトモアキをお出迎え。
「のわ~!!近よんじゃねぇ~!」
またもやトモアキの鉄槌がババァに炸裂。
「トモアキ最低。」
後ろから冷たい視線が。
「ユリちゃんこれ違うんだよ。」
慌てふためくトモアキ。
島崎ユリ(しまざきゆり)トモアキの一つ年下の彼女である。
「ユリちゃん…?」
「帰る!二度と会わないから!」
トモアキはババァのせいでフられてしまう。
「このハンバーグ美味しいね。ト・モ・ア・キ。」
ババァはトモアキがフられたのを楽しむかのようにちょっかいをかける。
「クソババァ!!お前なんか死んでしまえ!!」
トモアキはご飯の半分残し部屋に閉じこもった。
「くそ、あんなババァ本当に死んじまえ!」
トモアキは怒りのあまり壁を殴る。
その手は血で滲んでいた。
「ちと、やりすぎたかのぉ?」
「お婆ちゃん謝ってきたら?」
こんなババァでも罪悪感あある。
和美に促され誤りに行く途中のことだった。
「うう…。」
ババァは倒れ意識を失った。
十一月の夜だったーーー
「お婆ちゃん、お婆ちゃんしっかりしてよ。」
病院でババァの事を必死で呼ぶトモアキ。
トモアキはなんだかんだでババァの事が好きだったのだ。
(お婆ちゃんがいなくなる。)
トモアキの脳裏にそんな最悪の事態が思い浮かぶ。
ババァは手術室にタンカーで運ばれる。
医師からババァの家族に告げられたのは最悪の病名だ。
「急性の心筋梗塞です。」
下条一家は愕然とする。
一年前におじいさんもその病気で亡くなっていたのだ。
「先生、お願いします、どうかお婆ちゃんを治して下さい。」
トモアキは涙を流し土下座までして医師に頼み込む。
「落ち着きなさい。トモアキ。」
俊也はトモアキを立ち上がらせ診察室から連れていく。
絶望という文字だけがトモアキの心によぎる。
「お婆ちゃん…ごめん、俺が死ねなんて思ったせいで。」
手術室の前で涙を流し祈る家族たち。
「トモアキ、あなた明日面接なんでしょう…帰って寝たほうがいいじゃない?」
「大丈夫面接はいつでもできるし…それに今はお婆ちゃんの事が心配なんだよ。」
ブワっと溢れる涙。
止まらない。
「トモアキ…。」
どこからともなくババァの声がする。
「ここじゃここ。」
「え?」
トモアキは川の前にいた。
ババァは向こう岸にいる。
「裸!?」
ババァは全裸だ。
「ちょ、ババァ何やってんの!?」
「ふふふ、トモアキお前のつっこみもこれで見納めじゃわ。」
ババァはいわゆる『三途の川』に立っていた。
「ここは?」
「おそらく三途の川だろうよ。」
ババァは自分の垂れたパイをチュッチュと吸いながら平然と言う。
それは死を覚悟していた。
「だめだよ。お婆ちゃん。死んじゃダメだよ。」
トモアキは顔を崩して泣きじゃくる。
「じゃあな!」
「待ってよ!」
トモアキは三途の川を泳いだ。
泳いでババァの元へと走り手を取り、ババァをこの世へと連れ戻した。
「まったくあんたって孫は…ありがとう。」
ババァは泣いていた。
そして泣き疲れて寝ているトモアキの頭を撫でた。
「ん?」
トモアキが目を覚ますとババァは上半身裸でトモアキのズボンのファスナーをおろしていた。
「何やってんだクソババァ~!!」
病室中にトモアキの声がこだまする。
「やっぱ最低。」
冷たい視線が再び。
「ユリちゃんこれは誤解だって…。」
トモアキは再びフられる。
「ババァ貴様ぁ~!」
「許してワン。」
ババァはウインクしクネクネしながら許しをこう。
「許さん!」
トモアキとババァ…今は楽しい一時だ。