CHAPTER1【小さな世界】
十代の少年少女の苦悩や葛藤を書いています。
もし、いきなり戦争に巻き込まれたら?
闘う理由があったら?
それを、成す力があったら――。
僕等はこの島で大人になっていく。
生きたいと叫びながら
傷つけ合って生きていく。
15歳・夏
CHAPTER1【小さな世界】
空が蒼かったら
何時間も仰ぎ見る
薫る草木の咽びに
目眩を感じる
そんな日常
――平凡な僕等の日常
某市立中学校
「何やってんの、弥くん」
突然かけられた言葉に、俺は少しキョトンとする。
此処は、何の変哲もない、何処にでもある田舎の中学校。
少し珍しいと言ったら、在設場所が離島と言う事と、全校生徒が5人だと言う事だろう。
何、少し所じゃないって?まぁ気にすんなよ、小せぇ事にこだわってちゃデカくなれねぇぜ。俺は昔から細かい事は気にしない質何だ。
世の中はこういう奴を、無気力人間と言うらしい。
ま、そんな事は流すに越した事はない。
今みたいに、トイレの水と一緒にサヨナラだ。
「何してんの?って小便っちゃけど」
水を流す片手間に軽く返す。
その行動は些か彼の意にそぐわなかったと見える。
彼、同級生・横峰 翔一は、少し呆れた様な顔をすると言った。
「HRの後、写真撮影だって聞いてなかったの?もう皆待ってるから、早く来なよ」
そう言うとトイレのドアは閉まった。
少しの溜め息を残して。
分かってないな、俺は急ぐのは嫌い何だよ。何か人生急いでるみたいじゃね?
それも時と場合である。実際、彼のマイペースさには皆が参っていた。
そう彼は明らかに自己中心的な自分論を心の中でぶち上げ、全く急ぐ気配等見せずに、明らかにダルそうに頭を掻き、のさのさと歩き出した。
「やぁ皆、遅くなってすまない。実はさっき其処でお年寄りを…『はい嘘ッッ!!』
春に吹く風ね様に爽やかな笑顔を貼り付けた彼に、後輩2人の手厳しいツッコミが冴え渡った。彼の明らかに嘘な言い訳は、後輩2人には今更通用等する筈がない。
「毎度毎度、懲りないよね!弥くん」
そう口を尖らせるのは、2年・上田 庸介である。彼は中2にしてはかなり小柄な身長に、かなりの童顔。それで目一杯頑張って"怒ってんだぞ"と主張している。
怖いと言うより可愛い。寧ろ頭を撫でたい位だ。
無理な努力はしない事だと常々思う。
「ホントったい!仲間とは信じ合ってこその仲間ですよ!!」
俺は、見ている人が軽くムカつく様な三文芝居をする。乙女ポーズで言った俺に、周りの学友は軽くどころか、明らかに青筋を立てていた。
俺の乙女ポーズはそんなに不愉快ですか。あぁそうですかコノヤロー。
気紛らわしに庸介の低い位置の頭をワシワシと撫でる。と言っても、自分も3センチしか変わらないチビである…いや、俺は認めてないけどね?
それを再確認し、"はは…"と乾いた笑いが飛び出した。
「大体、校内に年寄りが居る訳ないっしょ!ねぇ、郁恵ちゃん」
まだ少し幼さ残る女の子の声に顔を上げる。元気に文句を言うのは、少し団子っ鼻の1年・中原 恵だ。
その隣で、可愛い顔をした女の子が頷く。
「しかも毎回言ってない?その言い訳。ボキャブラリー少なすぎ」
ボキャ…?よく舌かまないね、それ。意味は分からんが、何か馬鹿にされた気する。絶対馬鹿にしたろ。分かるよ弥さん、敏感肌だから。
今これ読んでる奴も馬鹿だと思ってるだろチクショー。
この少し言葉の辛辣な可愛い女の子は、同級生・佐野 郁恵。
可愛い顔には棘がありますよ、皆さん。俺のガラスハートは粉々ですよ、ええ。
けども、実際話せば頭の回転の早いいい子だ。しかも完璧な天然だったりする。
この前も、カタツムリは英語でマダガスカルだって言い張ってた。それどこぞの国ですから、郁恵さん。そう突っ込んだら、じゃあそこが生産国だ、って。言い切っちゃったもんよこの子。素晴らしい天然さ。
「やっと全員揃いましたね!撮りますよ、並びなさい」
チャキチャキ現れた先生は、既にカメラ位置にスタンバイO.K.。
"何これ明らかに俺のせいみたいじゃん?"て呟いたら"お前のせいだから"と後輩2人に突っ込まれた。
マジでか。
5人全員が一塊に集まる。
俺は3年だから一番前。決してチビだからじゃない。
何?同級生の2人は後ろにいるって?心の目で見てみ?多分それ老眼だから。弥さん眼科進めちゃうよ。
隣に庸介ちゃん。
後ろには、郁、メグ、翔一。
空は見渡す限りの蒼窮。
眩しさに目を細めた。
全員が肩を組んで
ハイ・チーズ
軽いシャッター音と
はちきれる程の笑顔。
―――最後の。
「ねぇ、あの後撮った個人写真、何に使うんだろ?」
放課後の3年教室に、郁の言葉が響いた。
「アルバムか何かじゃない?」
本のページを捲り、興味なさげに翔一が返した。
「え?でも僕達も撮られたよ」
と、俺とキャッチボールをしたがら庸介ちゃんが言った。それにメグも頷く。俺も激しく同意だ。
「確かにおかしいとって。皆も見たやろ?後ろの壁にタッパ計るメモリが印刷してありよったけん」
俺は手の中でボールを弄びながら、一番怪訝に思っていた事が口から出た。
アルバムの写真にしちゃ趣味が悪すぎる。
俺の言葉に皆が深刻な顔で黙り込んだ。
ぶっちゃけ俺は、今みたいな雰囲気は嫌い何だが、流石に明るい空気は流れない。だって、明らかにおかしいだろ。
全員が全員、何か考えているのか、教室の中は酷く静かだ。
沈みかけた太陽が、オレンジ色に染まって、校庭に影を伸ばしていた。
それを見詰め、一度静かに目を閉じた。
俺達は全員、この島が地元ではない。
所謂、難有りのぶち込まれる中学校で、親や親戚は厄介払いが出来、尚且つ多額の金も手に入るらしい。何て美味しい話何だろうね、アイツらにはだけど。
その結果、俺は方言が違うし、他の皆も訛りはバラバラだったりする。
しかしいくら難有りと言っても、あれじゃまるで囚人扱いだ。刑務所ならまだしも、生徒に対してあれは酷いんじゃないだろうか。
室内はまだ静だった。
誰もが言葉を発するのを躊躇っているのだろう。
「まっ、考えても分からんかろーもん。やめようや」
俺のユルい言葉に全員がホッとした様に頷いた。
また、楽しい喧騒が始まる筈だった――。
平凡で少し退屈
切り離された離島
家族はいないけど仲間がいる
そんな
僕等の日常
愛してやまない
僕等の日常
――だった。
この瞬間までは――
ドッゴォオオオオオンッツ!!!
瞬間、凄まじい爆音と地鳴り
「うわぁああぁぁああぁあッ!!?」
「きゃあぁあああああああ!!!」
皆の耳を裂く様な叫び声
まだ微かに揺れる校舎の床に、転がる俺達。
頭を打ったのか、耳の奥でキィイイインと音がする。
クラクラする頭に軽く手を当てて起き上がると、転がったボールを拾った。
おかしな事に気付いてしまった。耳の奥の音は止む気配はない。
寧ろ、それどころか増えて、オマケに近付いている気さえする。
人間って凄い。嫌な予感に体が勝手に動き出す。
反射的に飛び出した体は、少し歪んだ窓枠に体重をかけ、パラパラとコンクリートの小さな破片を降らせた。
広がる眼前には、平凡な見慣れた田舎風景―――
―――等無かった。
少し崩れた家々に
澄み渡った蒼窮に走る―――
「……戦…闘…機…?」
俺の呟きに
「な…に…これ」
唖然とした郁の声
「何だよ…あれ…」
力ない庸介ちゃん
言葉が出て来ない翔一
震えるメグ
「戦……争……?」
誰かの呟きは全員の思考回路を麻痺させた。
いくら待っても答えは返って来ない。
ドッゴォオオオオオンッツ!!!
「きゃぁあああぁあッッ!!!」
又、爆音が響いた。
さっきより、もっと強く校舎が揺れる。
今度のは近かった様だ。
「……ッ行こうや!!」
「何処に!?」
悲鳴じみた女の子2人の声に振り返った。
只、此処に居ても意味がない気がした。
「職員室ったい!!此処に居てもどうしようもなかろーもん!!」
俺の怒鳴る様な声に、女の子2人は身を強ばらせた。しょうがない、俺にも余裕がないんだから。
それは、皆が動き出そうとしたと同時だった。
―――ピンポンパンポーン…
突然の放送音に、動作を止め、意味もないのにスピーカーを見た。
《諸君、今から出す命令を洩らさぬ様、よく聞け》
流れる音声は、酷く無機質で
《たった今、我等の住むこの島は攻撃の最中にある。
よって、第一級戦闘発令。
君達に―――》
誰もが望まぬ
《―――出撃してもらう》
言葉だった。
「何…何やそれ…っ!!意味分からんけん!!」
絞り出した抗議の言葉
「君達に拒否権等存在しない」
切れた放送
「…何…なの…!?」
雪崩れ込む自衛隊
「やだ!?離してぇ!!」
腕を強い力で掴まれ、メグが悲鳴に近い声を上げた。
「抵抗するな」
――ガツッ!!
ソイツは、メグを機関銃の様な厳つい銃で渾身の力で殴った。
鈍い音を発してメグは床を滑り、郁の足元に雪崩れ込んだ。
「きゃああ!?メグッ!!」
郁は悲鳴を上げ、メグを慌てて抱き起こした。無理矢理女の子2人を掴む、自衛隊の奴らに、
「止めろよ!!」
止める間もなく庸介ちゃんが掴みかかった。
――バキィッ!!
頬骨が軋む音がした。体格のいい大人に殴りつけられ、小柄な庸介ちゃんは少し吹っ飛び転がった。
「庸介ちゃん!!大丈夫か!?」
俺の呼びかけに、顔をしかめて頷いた。左頬骨の上が赤紫に腫れ上がっていた。
メグは鼻が折れたんじゃないかって程、鼻血を流してる。
――唇を噛んだ
直ぐに口内は鉄の味に支配された。
「全員、配置に着かせろ」
言葉は嫌に耳の奥にこびり付いた。
CHAPTER1【小さな世界Fin,】