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002 降服

 《迷宮創造者》の仕事は最近はいたって単純だ。

 前回の攻略で見つけた欠陥点を補強するだけ。

 例えば、この前、第九階層までやって来た勇者たちにゴーレムがいとも簡単に倒されていた。

 だから、ゴーレムの強化を行ったりね。


「姉上。第二階層の改修、順調に進んでおります。予定では大工ゴーレムを総動員して二日ほどと思われます」

「分かったわ。それに、今は誰も居ないじゃない。いいよ、敬語じゃなくて」

「では遠慮なく。最近は勇者が強くなってて、俺のアンデッドコレクションが増えて楽しいよ」


 俺が《不死者召喚》で召喚できるアンデッドは、この魔王城内の第九階層で死んだ者のみ。

 第九階層までやって来るのは指折りで強い冒険者や勇者のみ。

 つまり、俺の抱えるアンデッドは全て超高位勇者の軍勢という事だ。

 イングヴァルも、エリシアも、アリシアも、全て過去の英雄たちだ。


「良かったじゃん。私が戦えないからって、第九階層とかに無理させちゃってゴメンね」

「いや、それが俺達階層守護者の役目だから、何も気にすることは無いんだけどね。俺よりも絶対姉さんの方が強いのにさー」

「で、でも、戦いたくないし」

「あー、うん。そうだったね。もう《終焉魔法》とかは使わないと心に決めてたしね」


 《終焉魔法》。魔王族の長————つまり、魔王のみが使用できる最強の魔法。人類の最強属性魔法と呼ばれる龍属性魔法をはるかに上回る空間魔法だ。


「それに比べてクロノはすごいよね。その力を上手く使いこなしてるんだから」

「いやいや。只々、使える魔法や能力が少ないだけだよ。姉さんとかは沢山能力を持っているからすべてを網羅し、満遍なく、無駄なく使うことは難しいかもしれないけど、俺が使うのはたったの三種類だからね。その分覚えるものも少ないってわけだよ」

「それでも」


 そう言って姉さんは俺の手を取った。

 その黒の手袋は、分厚いけど、その姉さんの暖かさは十分伝わってくる。


「それでも、それを完璧に使いこなせるクロノもすごいよ」

「いやいや、まだまだだよ。師範に追いつくにはまだ百年はかかるね」

「いやいや。私の目にはあと六十年で行けると思うけどねー」


 転生前の視点であれば、どういう事だ? ってなってたけど、もう慣れた。

 それほどまでに、転生後長い時間を生きたのだ。実際体感時間としては前世とあまり変わりは感じられなかったけどな。


 その時、木戸の外からノックされた。


「魔王様、クロノ様。御客人が第五階層でお待ちです。第五階層・骨と謁見の間でお待ちと、第五階層階層守護者・ヴァルドレイン様が申されておりました」


 黒執事が報告に来たようだ。

 第五階層階層守護者・ヴァルドレインとは、死を統べる黒騎士・ヴァルドレインの事だ。

 第五階層・冥界の宮殿の守護者で、デスナイト族。アンデッドの軍団を操る高い指揮力を持つ将軍だ。


 それよりも客人とは誰だろう。

 この様子だと、姉さんにも当てが無いようだし、ますます分からないな。


「とにかく移動しましょう。姉上」

「そうね。転移門は直ぐそこね」

「ええ」


 急に俺が敬語になりだした事に驚いたようにも見えたが、黒執事が居るのだからこうせざるを得ないことは明白な事実だ。


 姉さんをエスコートし、第五階層に降り立つ。


「ヴァルドレイン。誰が来た?」


 出迎えをしたヴァルドレインに聞いてみた。

 跪いていたヴァルドレインは俺と姉さんが通り過ぎたところで立ち上がり、語り始めた。


「どうやら周辺のデミ・ヒューマン族の国家の王が数名やって来ていると」

「デミ・ヒューマンなら四カ月前に一国崩壊させた筈だな。何だ?」

「なら、降服の可能性もありますね。話を聞いてみましょう」


 移動してきた謁見の間には三人のデミ・ヒューマンが居た。

 ハイエルフ、ドワーフ、ハーフリング。どれも典型的なデミ・ヒューマンの種族だ。


 奥に長い骨と謁見の間の中央奥に、姉さんが構える玉座。その右に俺の席、左にヴァルドレイン。

 そして、部屋の左右には黒騎兵が微動だにしない様子で衛兵をしていた。


「魔王・リリア・ヴァル=ノクティスである」


 玉座に座り、一拍おいた姉さんは畏怖のオーラを出しながら語りだした。

 少し怯えたようにエルフが「ルナ=エルディア王国女王・アストレリア=シルエリヴェ。今回のような機会を頂き恐悦至極」と挨拶した。

 ここまで畏まり、遜ったという事は降服をしに来たと取るべきなのだろうか?


「グランバルト・アイゼンハルト。鉄山王国・ドゥルガ=バルム国王。御尊顔を拝謁させて頂き、感謝の極み」

「ピピン=グリーンヒルと申します。自由都市連邦グリーンヒルの盟主をしております。この度は謁見という誠珍しい機会を与えて下さり、真に感謝の言葉しか浮かびません」


 ドワーフのグランバルトと、ハーフリングのピピンか。名前は何度か聞いたことがある。


「して、何用であるか? 貴様ら」


 姉さんはこんな高圧的な態度を取ることが得意な人間ではない。

 今も内心、嫌々やっていることだろう。


「此度は、我ら三か国、魔王様に降るお許しを頂きに参りました」

「つまり、我等に降服するという事で間違いないな?」


 アストレリアが肯定を返した。

 エルフは賢いため、魔王軍と戦っても勝機が無いと気付いたか。

 ドワーフ自体も、負け戦を好まない習性がある。エルフに流された可能性もあるか。

 ハーフリングは言ってしまえば、俺らと戦っても意味ないと気付いたか。小人族の一つであるハーフリングは利がある方につく日和見主義だ。なら、今は魔王についた方が利が有ると思ったのだろう。


「許す。全領土を我らの傘下に加え、庇護することを約束する。今後もその領土は貴様らで安堵させてやる。心配するな」


 了解した、ということだ。だが、所領安堵は完全に丸投げしたな。

 新たに手に入れた領土を治めることほど難しいことを俺は知らないし、姉さんも知らないだろう。




「これで南部の人間領攻略への足掛かりが出来たか……」

「ああ。南部の人間領へは、どの道でもあと一国滅ぼせば南部と繋がる。そしたら歴代の魔王様の悲願である大陸統一が叶う」

「だから頼んだぞ。南部戦略長官レギオ・ドラコ」

「分かってる」


 レギオ・ドラコ。竜人族で南部方面への軍を指揮する戦略長官の任についている。

 俺よりも十くらい年上の同期だ。


「人間族はデミ・ヒューマンとの抵抗と比にならないだろうな。必要であれば階層守護者を一人動かすから安心してくれ」

「そうか。でも大丈夫なのか? 階層守護者を動かすなんかして」

「俺を誰だと思ってる? 防衛総括のクロノだぞ。守護者を動かす権限くらい持ってるよ」

「そうか。なら大丈夫だな。ま、俺もそろそろ時間だ。次会うのは大陸統一してからだな」

「あいよ」


 軽く挨拶を交わし、部屋を出ていくドラコを俺は見送った。

 仮にも親友だからな。


「建設長を呼んでくれ。第五階層の宮殿を少し改造する」




 俺が手をかざした先に壁が生える。一時的ではあるが、足場として使うには十分だ。

 その上に載っているのはドワーフだ。

 今はゴーレムに加えてドワーフを追加して第五階層の改修工事を行っている。

 それにしても、ドゥルガ=バルム国の技術力には驚いたものだ。

 工房での鍛冶働きのみならず、建設までこなすとは想定外だ。


 先日に第五階層へ行ったときに、城壁のアップデートが未だだったことを思い出した。

 第三次改修と俺は呼んでいるが、第二次改修の窓付き城壁に胸壁を付けた状態からのアップデートであり、第三次改修はこれにフルオートで侵入者を発見した際に自動で矢を発射するシステムを追加したもので、他の城壁のある階層には敷設していたが、この第五階層への敷設が遅れていた。

 窓付き城壁と胸壁で弓兵の損害を小さくし、弓兵が配置につくまでの間に発射システムを動かす。

 これはまあ、まだまだだ。まだ矢だからな。

 第四次改修では魔法弾の火球や電磁球、氷球を飛ばしたいな。

 その魔法技術と労働力は今回降服してきたルナ=エルディアとドゥルガ=バルムに頼めばいい。そして、その賃金はグリーンヒルの交易税から取ればいい。

 今回降服してきた三か国は、俺の痒い所を上手く突いた感じだ。

 

 第一階層から報告が入った。


『第一階層を抜け、第二・三階層へ突入した冒険者のパーティーを確認。第五階層の改修工事の一時中断を具申する』


 ゲルムからの報告を受け、俺は各地に退避命令を出した。

 改修中で少し防備が甘くなってしまっているかもしれないが、そもそものポテンシャルが高い第五階層なら大丈夫だろう。

 俺はそう思い、第九階層へ登って行った。


「さーて。今日のお客さんはー誰だろう」


 入城してきたパーティーの姿を見た俺は、少しばかり驚いた。


「嘘だろ?」

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