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001 魔王城

 結論から言おう。

 俺、クロノ・ヴァル=ノクティスは転生者だ。

 だから何だっていう話ではあるんだけどな。

 別に前世の記憶があるだけで、転生者特典(特別な能力)がある訳でもない。つまり、チートはない。


 ただ一つ。

 他の転生者と比べ、違いがある部分があるとするならば、俺の転生した場所だろうか。


 禍々しい石の城壁。黒と紫の瘴気を纏い、四隅にそびえる鋼鉄の塔。

 最奥に構える影と一体化したかのような黒い塊。


 魔王城だ。


 俺は三百八十年前、この城で生まれた。

 そう。俺はもう三百八十歳。人間ではもうとっくに死んでいる年だが、魔族は違う。魔族や魔王族は二十年で人間の一歳分の年をとる。しかも寿命は人間年齢で五百歳と長いので、魔族年齢では一千歳を超える。

 そして俺の人間換算の年齢は十九歳という事になる。


 それでも十の階層に分かれる魔王城の、奥から二番目の第九階層の階層守護者を任されるのは、俺の異質な立場にある。

 魔族とは本来、魔族の中でも最強の種族となる魔王族の生み出す瘴気から生まれてくるため、親兄弟という考えには疎い。

 だが、魔王族の身は別であり、血縁関係というものがある。

 その中で俺は魔王の姉を持つ、魔王の唯一の親類という事になる。


 そして、魔王の姉は討たれるべき存在である。

 悲しいことだけど、これが世界の(ことわり)だ。

 あの世界のラノベでも、ゲームでも、漫画でも、魔王とはそういう存在だ。

 この大陸でも、それは神が計らったのか、魔王は悪であり、討たれるるべきであるという風潮がある。

 勇者が現れ、魔王を倒し、世界に安寧を(もたら)す。


 勇者が生まれ、仲間を集め、魔王城に挑み、魔王を倒す。


 物語としては、英雄譚としてはよくある話だ。


 ただし、中身を知ってしまえば笑えない。

 理由? 至極簡単さ。意図的に魔王城は攻略されやすいように作られている。

 一本道、弱すぎるモンスターやボス、甘い罠。

 その理由だって簡単だ。

 魔王は、勇者に倒されるために存在するよう、神に作られたのだから。


 その仕組みには抗えない。

 いや、抗おうとする人が居なかったのだ。


 何れにせよ、魔王は倒されるべき存在。

 だから、この城も陥落し、姉さんも殺される。


 仕方が無いと諦めていた。それが世界が決めた決まり(ルール)であり、魔王と魔王城の運命(定め)なのだから。

 姉の成長した姿を見るまではそうなれと思っていた。


「クロノ?」


 数年ぶりに、彼女に会った。

 長い赤紫の髪。

 俺と同じ深紅の瞳。

 均整の取れた顔。

 白い肌。

 肌との対比が目立つ黒いドレス。

 側頭部から小さく生えた、山羊型の角。


 一瞬戸惑ったが、間違える筈もない。

 いや、間違えてはならない。

 彼女こそ、まごう事なき俺の姉で、魔王、リリア・ヴァル=ノクティスだ。


「あ、姉上。お久しぶりです」

「畏まらないで。今は執事も、他の人の目も無い」


 この五十年くらい会ってなかったが、彼女はいつの間にか見違えるほどの美貌を手に入れていた。

 いや、もとからとても可愛かったんだけど、それが五段くらい跳ね上がったような気がする。


「五十年ぶりくらいね。元気にしてた?」

「してた。姉さんは心配性すぎるの」


 他愛のない話が続く。こんな時間が永遠に続けばいいのに。

 そう思っていたのも束の間。

 直ぐに第一階層からの報告が入る。


『噂にあった勇者と見られるパーティーを発見。第一階層で肉と戦力を削ぎ落とす』


 第一階層守護者。森を喰らう魔狼・ゲルムが報告を入れた。

 大抵の場合、下級から中級と見られる冒険者は、ゲルムの独断で第一階層又は、討ち損じた敵を第二階層で処理するため、防衛総括の俺に報告は入らない。


 第一階層守護者の魔狼ゲルムは魔狼王族と呼ばれる魔狼族の王族で、第一階層の守護者を務め、人語を話す彼はその魔狼族の中でも、高位の知性を持ち、他に類を見ないほどの武を持つという事だ。


 噂にあった勇者パーティー。この言葉が引っかかった。

 この大陸は北部が魔王領、中部がエルフやドワーフのデミ・ヒューマン領、南部が人間領と別れており、中部と南部には大小それぞれ百以上の国が構えている。

 その中でも人間領は魔王討伐に積極的であり、勇者を派遣してくるのも中部の比較的規模が大きい国となってくる。

 噂の勇者パーティーは南部最大の国家で、冒険者や勇者の養成に力を入れる帝国から派遣されている。

 ならば、否が応にも第三階層以降に侵入してくることは考えなくてはならない。


「防衛総括として、第九階層から指揮を執る。姉さんは第十階層・玉座の間で構えていて!」


 そう言い残し、第八階層・魔軍都市を出る。

 第八階層守護者に顔を少し合わせ、転移門を超える。


 第九階層の俺の定位置に着いたとき、防衛網を確認したところ、第一階層のゲルムが怪我を負い、なおも奮戦していた。


『離脱しろ。第二階層に通せ』

『仰せのままに』


 思念を伝えあい、第二階層・断罪の洞窟に勇者パーティーが進む。

 第二階層は迷路型の洞窟であり、モンスターを極力使わず、罠とゴーレムのみで動かしている。

 第二階層も含めた第一階層から第五階層は、所詮は戦力削りと足止めであり、特に第二階層はその足止めに特化した階層だ。俺がそのように作らせた。

 第二階層の少数しか湧かないモンスターは、全てがゴーレム。

 ゴーレムは攻撃は弱いが、その尋常ならざる防御力と、尽きることを知らない無尽蔵の体力とスタミナでタンクや足止めとして使われる。


 だが、そのゴーレムが一瞬で一体撃破された。

 確かに撃破されたのは第二階層に涌く中では最弱のモンスターである銅の守護者(カッパー・ゴーレム)だが、それでも早すぎる。

 熟練の冒険者パーティーでも一体を倒すのに、十分は掛かる。だが今はたったの数秒。


 第二階層守護者である、鋼鉄の処刑執行人・グラディウスも同様だった。

 ゴーレムだから移動が遅い部分を考慮しても、足元をすくわれるようなことは前例が無かった。


 順調すぎる程に進んだ勇者パーティーは第九階層までやって来た。

 ここまで来る敵を見るのは数十年ぶりだ。


「……ここまで来たその運と勇気は称えるよ」


 俺が言うとリーダーらしき男が一歩前へ出た。


「運じゃね……ッ!」


 俺が指を鳴らしたその時、一番近い壁から、その男へ向かって柱が一直線に伸びた。

 これが俺のジョブ・《迷宮創造者》の能力の応用だ。

 本来は建設に使われるこのジョブも、俺の手にかかれば戦闘魔法へと早変わりする。


「人がまだ喋りきってないのにねー」


 俺が一歩踏み出した。俺のブーツと床がぶつかり、コッコッと奇麗な音が鳴る。


「これまでこの城に挑んだ人間は数えきれないし、たとえ数え切れたとしても君たちが頭を抱えるだけだ。それに、この第九階層まで到着したのは君たちでやっと十パーティー」


 また一歩。

 男が立ち上がり、俺と距離を取り、その剣を構えた。


「でも、この第九階層を突破できたのは一人もいない。現にこの百年間、魔王が倒されたという文献はない。何でだと思う?」


 俺は大剣を軽々と持ち上げ、大剣を振りかざし、魔法使いに問うた。

 口籠った魔法使いは、俺に答えることが出来なかった。《畏怖のオーラ》を魔力として出しているのもあるが、それよりも自らの行く末を察してしまったからかもしれない。


「答えられないなら教えてあげるよ。全員、俺の前で死んでいるからね」

「ふざけんな!」


 そう叫ぶように俺に俺に魔法の詠唱を開始した魔法使い。

 俺はその魔法陣が完成しきるタイミングを待って、この一言を発した。


「守れ」


 その瞬間、魔法使いと俺の間に鋼鉄の壁が出現した。

 これが俺の能力の一つ。《障害物生成》。さっきの《迷宮創造者》の付属品みたいなものだ。

 そして俺を狙った魔法はその壁に反射され、意味をなさなかった。


 手に魔力を集め、俺の横に発動させたこの技は、俺の能力《不死者召喚》の能力だ。


「踏みにじれ」


 俺の横に出来上がった黒い霧から現れた鎧。

 ガシャリ、ガシャリと重たい金属の音を立て、斧槍(ハルバード)を握った姿をした騎士。

 鋼の黒光りする鎧。

 斧槍(ハルバード)の他に剣を腰に差している。

 そしてその印象的なトレードマークの赤の羽飾りを付けたヘルム。


「全てを殺せ」


 何も喋らない。それこそが、無言の圧を増強させた。


「《失墜せし栄光の騎士・イングヴァル》」


 コンマ一秒と刻むよりも早く、その姿は消えた。

 轟音、爆音。

 リーダーらしき戦士の男が後方に大きく吹き飛ばされた。

 石の床が砕ける。


 後衛の魔法使いが詠唱を始める。

 小声で「龍属性魔法」と聞こえた時、俺はピンときた。

 魔力にも余裕があるし、イングヴァル一体には荷が重い。

 ならば、呼び出す不死者は決まってる。


「出て来い」


 俺の左右に出現した黒い霧。

 それが渦巻き、中から人影が一つずつ現れる。


「君たちも知っているんじゃないかな。まだ十年ほど前に死んだ彼女らを」


 紺碧のドレスを纏い、月桂冠を身に着けたその二人は同じ顔。


「かの龍属性魔法を使った双子の天才を」


 魔法使いが息を呑んだ。理解したか。


「《双竜の魔導姫・アリシア》」

「《双竜の魔術姫・エリシア》」


 やはり無言。瞳は虚ろ。

 次の瞬間、虚空から龍の咆哮が聞こえた。


 霊魂や知を司る翼を持つ青の龍と、力や暴力を司る翼を持たない赤の龍。

 それはここまでの力の差を見せつけられた上で、更に差を分からせる強大な存在となった。

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