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ビー玉越しの、九夏とラムネ

作者: 彩海
掲載日:2026/01/20

初夏、昼下がりの晴天、いつもと変わらない景色

心地良い風がふわりと髪を撫でる

学生鞄を軽く蹴りながら、のどかな帰り道をひとりじめする。


ふと、風鈴の音色に耳をくすぐられ、音のなる方角に目をやる

見たことの無い抜け道


「 こりゃ行くしかないでしょ ! 」


お得意の一人言を零して、すっかり衣替えの済んだ制服を少し汚しながら草木をかき分けていく。



道をぬけた先にあったのは、あまり状態が良いとは言えない水色の屋根の建物。

かき氷の旗が静かに靡く


幼い頃からこのド田舎を探検しつくしてきた私ですら見つけられなかった穴場。



…最高にワクワクする。



迷わず軋む扉に手をかけ、建物の中へと足を踏み入れていく

古臭い木製の本棚、大昔の映画のポスター、曇ったガラス窓…

小さな机には、埃被った参考書が大量に積み重なっている。


あまりの埃っぽさに少しむせ込みながら奥に進むと、水色の瓶が目に入った


ラムネ瓶だ。中のビー玉が、桃色と薄い水色を軽く混ぜたような…なんとも言えない、綺麗な色味をしている


少し悪い考えを抑え込む。

…でも、どうせこんなところにもう人は住んでいないはずだ。

せっかくこんな面白いところに来れたのだ。持ち帰って宝物箱にでも入れ____



「 ストーーップ!!!!! 」


「 うわっ?! 」



ラムネ瓶を手にした瞬間、大声で誰かに止められる

前を向くと、黒髪の髪の短い女の子が居た


「 それ持っちゃダメ…うわあ!!!! 」


そう言い放つや否や、こちらに倒れ込んでくる黒髪の子

何が起きているのかさっぱりわからないまま、押し倒される形で床に倒れ込む


「 痛ぁ…… って、うわー!!!! 」


「 何!?!? 」


その子の指さす方向を見ると、さっきのラムネ瓶が盛大に割れて粉々になっていた。

再びそいつの顔を覗いてみると、この世の終わりかのような顔をしていてぎょっとする


「 うわすみませ……って泣いてる?!そんなに?!?! 」



私の体の上に乗ったまま、ばか、あほと小学生レベルの暴言を吐きながら泣きじゃくる黒髪。


少し落ち着いたところで、確かにとても綺麗ではあったが、泣くほどまで大切なものだったのか、と、問いてみることにした



「 …嘘じゃないって、信じてくれますか? 」



自分は14年前に亡くなっていること

あの綺麗なビー玉は、「 持ち主がいた最後の夏 」 だけを映すものだったこと

それが割れたということは、その夏が完全に終わる合図だということ。



「 …つまりは、あんたが居た夏だけをこの世界は繰り返してるってこと? 」


「 そういうことになります 」



ですが、と黒髪は続ける



「 あのビー玉と同じものが見つけられて、それに私が触れることができたら 」


「 またこの夏が繰り返される… か? 」


「 その通りです。 だから… 」



「 一緒に探してもらえませんか? 」



勝手に家に入り込んで、大切なものを壊してしまった手前、断ることもできない。

何より面白そうだ、と少し興味を抱いてしまっている自分が居る


「 …わかった、手伝う 」


本当ですか?!と安心したような顔をする黒髪


「 私、蛍っていいます! 」


「 わたしは楓 」




蛍の手を取ったその瞬間、割れたはずのラムネ瓶の中で、ビー玉が転がる音がした。



「 …聞こえた? 」


「 …はい。でも _____ 」










「 ちょっと 、 楓さんの方が割合多いじゃないですか!! 」


「 ちょっとくらい良いじゃんかよー 、 蛍のケチ。 」


仲夏、蝉の声、橋の上

半分こしたソーダアイス


「 なあ、 ちょっとあっち行ってみない? 」


「 いいですけど… 、楓さん、タイムリミットあるって忘れてないですか?! 」


ソーダアイスを美味しそうに頬張る口と、焦った蛍の表情が、なんだか不釣り合いで少し面白い


「 忘れてないって。もしかしたら、寄り道した先にビー玉転がってっかもしんないだろ? 」


「 それはそうですね… 」







「 蛍ー、もっとこっち来いよー 」


「 日焼けするのでイヤです!! 」


朝凪、潮風、カモメの声

人気の少ない小さな海岸


「 見て!!シーグラス!! 」


「 わー…きれい… 」


蛍の座る日陰の方に走って

これ繋げてブレスレットにしようぜ、と何気なく言うと

おそろいですね!と明るく微笑む蛍。



ずっと大切にしたいな、って







「 うわー、派手に降られた… 」


「 びちょ濡れです… 」


薄明、夕立、雨の音

早足で駆け込む数少ないバス停


「 …こんなに濡れたならさあ 」




「 おりゃー!!! 」


「 やりましたねー!!!仕返しです!!! 」


ほのかに感じる塩味は

雨か、塩素か、それとも








東雲、瑞風、雀の声



「 楓さん…ねむいです… 」


「 …ほら、水飲んだら。 」



「 ありがとうございます…!!あっ、見てください、楓さん!!あっちに… 」


「 蛍!!こっちにあるかも。早く行こう 」


少し、寂しげな目をしたあいつの顔は

見ないフリをして足を進めた













蛍火、星雲、可惜夜、爽涼






「 蛍!!!! 」



あいつの名前を呼ぶ声は、自分のものとは思えないほど荒々しくて、焦っていて、震えていて




「 …なんで触んないんだよ!!!見つけたんだぞ?!?! 」



23:58分


タイムリミットまであと、2分



「 早く触れよ… 」


「 楓さん 」





「 私、すごく幸せです 」


「 この夏で、良かったです 」


「 でも、生きたい、だけじゃダメだったんです。 」




あと、1分




「 楓さん 」




「 」




息が苦しくなるほど泣く、喉が張り裂けるほど叫ぶ、


それでも、届かない




からん、と、あの日の音がした







古臭い木製の本棚、大昔の映画のポスター、曇ったガラス窓、

埃被った参考書




割れたラムネ瓶 、 瑠璃色のビー玉








晩夏、昼下がりの快晴。いつもと少し違う景色

心地よい風がふわりと髪を撫でる

学生鞄を軽く揺らしながら、のどかな帰り道をひとりじめする。




「 大丈夫 」




「ちゃんと覚えてるよ 。」




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