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クロを連れて異世界から帰ってきた。
現代で見たことのない服装でそのままだ。もちろん靴も履いたまま。
ベッドの横に足を下ろして足を浮かせたまま靴を脱ぐ。
隣で眠っているクロの靴も脱がせて一緒にベランダへ置いた。
クロをゆっくり揺さぶって起こす。
「にゃ? おはようアキラ」
やっぱりだ。
クロは異世界での言葉を話していた。
俺は異世界へ行った後遺症でどんなことを言ったか聞き取れるが、確実にわからない言語だ。
「クロ、ちょっと出かけてくる。静かに部屋で待っててくれ。たぶん君の言葉はこの世界では伝わらない」
「そうにゃのか? わかったにゃ」
スタンドに充電していたスマホを見る。
2023年11月24日、現代に帰ってきている。
寝たときと同じ、次の日だ。
ほぼ確実にもうあの世界ではないと思って行動することにしよう。
とりあえず前と同じような行動をする。
じいちゃんに言って、ショッピングモールへ向かう。
ATMで金を引き出す、残金は10億を超えていた。大金持ちといって過言ではない数字だろう。
だが、今の俺には金がどれだけあっても心配はあった。
金を引き出し、買い物を済ませ、着替えさせてからクロをじいちゃんに紹介する。
やはり言葉が通じなかったので通訳する。
外国人で田舎なまりがキツイということで通した。
俺がなぜ聞き取れ、喋れるのかという当然の疑問には、前の仕事で知り合って交流があったという無茶な理由にした。
取り急ぎやることがあった、クロの戸籍がないと何もしてやれない。
今のままではクロを隠すことしかできない。
あの世界とは違って、せめて出産くらいきちんとさせてやりたかった。
俺は裏の情報をネットで調べる、さらに元上司の探偵にも裏の戸籍の入手方法を聞いてみる。
今できる手は尽くしたと思う。
夜になって両親も帰ってきたので通訳して紹介する。
親も大人になったのだから任せると言ってくれた。
母にクロの服を調達してくるように頼んでおく。
あっという間に時間が過ぎ2週間後、俺は2000万と引き換えにクロの偽の戸籍を手に入れていた。
何も聞かずに方法を教えてくれた元上司には感謝しかない。
それを持って、俺は変装? 仮装? したクロを連れて、ある大学病院へと向かった。
受付で医者の方に見てほしい、絶対に外部へは秘密でという条件で、そしてクロについてわかったことは独占してもらってよい、それで検査してほしいと伝える。
ただし、不可逆な検査は絶対に許さないとも。
クロを診た医者は当然驚く、耳も尻尾も獣そのものなのだから当然だ。
ある日突然、起きたら耳と尻尾があった、そういうことにした。
話は進み、風呂やトイレなどの設備が整った病室を貸し切って入院になった。
もちろん言葉の通じないクロ1人で入院させることはできないから、俺も一緒の部屋に入院だ。
そこからのクロは検査の毎日だった。
初めての採血が怖いらしく、怖くないよう手元が見えないように抱きしめてやったり、腹が出てきて前が見えないというので一緒に風呂へ入ったりもした。
検査の合間には俺が外へ買いに行ったひらがなドリルをやらせたり、テレビを見せて喋り方も勉強させた。
流石にペラペラに喋れるとまではいかなかったが、意思の疎通くらいはできそうなくらいになった。
ある時、買い物から帰ってくると病室にクロがいなかった。
テーブルにひらがなで、
「のみもの かってくる」
と書置きがあった。
もう言葉も心配なさそうだ。
クロの出産のときが近づいてきていた。
俺もついに親になるらしい。
全く実感がないがそんなものなのだろう。
幸い、金銭に心配がないのが救いだ。
ついに子供が生まれた。
子供が生まれたその日から、世界中に獣人になった人が現れ始めたとニュースがあった。
結局、俺のもう一つの願い、クロの暮らしやすい世界というのも叶うらしい。
大きなウイルスとも戦った人類はこのあと来る獣人との共存世界にも対応できるのだろうか。
俺はこの先のクロたちとの生活が楽しみだ。
~完~




