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「まあ、10年前くらいはこの肌に生まれたのが運の尽きだと思ったにゃ。あんにゃに勉強して、そろそろいいところに行けるかにゃ、と思った矢先だったにゃ」
「一気に貧民以下に転落にゃ。幸いというべきか、にゃあは殺されはしにゃかったけど」
「にゃんとか働き口を探してはやめさせられて数年、もう疲れてたにゃ」
「でも今はこうして別の世界でちゃんと暮らせているにゃ。それは女神様にもアキラにも感謝にゃあ」
全然そんな感じがしないけど、クロは凄まじい半生を送っているんだよな。
「これから先は何にも辛いことはないよ。たぶん」
適当な自販機横のゴミ箱に空き缶を2つ入れて、俺たちは帰路をたどる。
俺たちには辛いことはない、これから普通の日常を送っていくのだから。
帰ってしばらくすると石渡から連絡が入ってくる。
ちょうど実家から10分かからないような場所に空いている部屋があるそうだ。
明日の夕方に話したいとのことだった。
「クロ、明日の夕方、俺はちょっと出かけるけど一人で大丈夫か?」
「部屋にいればいいんにゃ? ご飯はどうするにゃ?」
「多分飯は食べるんじゃないかな、クロの分は買って帰ってくるよ。流石にまだ1人でみんなと食べるのはきついだろ」
「それは助かるにゃ。アキラがいにゃいとにゃに話していいかわからにゃいし」
じゃあ明日は石渡に会って飯を買って帰ればいいんだな。
時間は飛んで、次の日の夕方、
俺は石渡と会って、マンションの1室を借りることになった。
もちろんクロの夕飯も忘れずに買って帰る。
ことは、とんとん拍子に進んでマンションに引っ越すことになった。
といっても、ほとんどの物はそのまま実家へ置いたままなのだが。
何でも、前の人が処分が面倒だからという理由で、生活に必要な家電はそのまま置いてあるそうだ。
初期の金がかからないのは助かるのでよかった。
「ついに2人だけの家にゃ」
「そうだな」
3LDKのマンションだ、2人では広すぎるくらいだと思う。
今はともかく、子供が生まれる予定ではあるからどうなるかわからんが。
「ちょっと川沿いを散歩しに行かないか?」
「いいにゃ」
2人揃って近くの川の河川敷まで行く。
もうすぐ年越しだ。寒くなってきている河川敷には人は見当たらなかった。
「誰もいにゃいにゃ」
世界で2人だけな気がする空間だ。
クロの横顔が目に焼き付く。
俺はこの異世界から来た彼女が好きだ、たぶんこれからもずっと。




