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「勇者様たちが魔王を倒したってよ! 勇者様たちが魔王を倒したよ!」
そういう声と共に通りへ新聞が撒かれていく。
ついに異世界での暮らしも終わりがきたのかもしれない。
身支度を整えて急いでギルドへ向かう。
どうやって元の世界へ戻されるのだろう。
せめてフマルやマレイン、ラベン、ダン、アイフェくらいには礼を言いたかった。
クロも気がかりだ。一応俺がいなくなっても生活できるくらい金は渡しているが、何も言わないで別れたくはなかった
ギルドの中に入ると既に3人はいた。
流石に冒険者ギルドだ、とっくに情報は掴んでいたのだろう。
「アキラ様、ここからどうなるかは私たちも存じあげません。いつ元の世界に戻されてもいいようにしておいてください」
マレインにそう言われる。
「もし、俺が急に消えたらクロとダン、アイフェに伝えて礼を言っておいてくれ。」
「かしこまりました」
「もっとお話ししたかったのに残念すぎますよ~」
「まあまあ、めでたいことなんだから湿っぽくならずにいきましょうよ」
ドアが開いてフードを被ったクロが入ってきた。
その後ろからはずいぶん昔に見た司祭服の人と付き人のようなのが数人いた。
司祭服を着た人は俺が前にあった女性とは違う顔だった。
「黒髪、あなたがアキラ様ですね? 私たちの崇拝する神ゼレ様がお呼びです。あなたを報酬と共に元の世界へ返すとのことです。私たちについてきてもらいたい。」
司祭服はそう言った。
「報酬が貰える、そう聞こえたがいいのか?」
「はい、他の勇者と同じ3つの願いを叶えて元の世界へ戻す、とのことです」
「じゃあクロを俺の世界へ連れて帰る、というのは可能か?」
「その方がこの世界の人間ならばできるのではないでしょうか? それは聞いてみないことにはわかりません」
一緒に行けるのならばこれからずっと一緒がいい。
俺はクロに目配せした。
クロは笑顔で頷いてくれた。
「それでは別れの挨拶を済ませてください。あまり時間がないので」
俺は3人に言う。
「今まで無能力の俺を世話してくれて、本当にありがとうございました。皆さんと過ごした日々は元の世界に戻っても、一生忘れない思い出になりました」
「こちらこそ、私たち3人もあなたの世界の話を聞いているだけで楽しかったですよ! クロさんと元気に、そして幸せに暮らしてください」
フマルに明るく言われる。
まるで卒業式のようだ。
「では、行きましょう」
司祭服に促され俺たちはギルドを後にしてついていく。
横に並んだクロの手を握る。
報酬が貰えるのならばそれで絶対にクロとは別れるつもりはない。
たとえ帰れなくてもいいと思っていた。
あっという間に目的地、教会についた
「そこに二人で立ってください。ゼレ様のもとにお送りいたします」
「わかりました、ありがとう」
足元には魔法陣のような複雑な記号の書かれたものがある。
クロの手を握ったまま二人で立つ。
フードのせいでクロの横顔は見えない。
「この者らを我らが神ゼレのもとへ導き給え」
その言葉と共に俺の体は急に浮遊感に包まれた。
頭がぐらぐらして目を開けていられない。
それでもしっかり手は握っていた。クロも同じようで、力強く握り返される。
浮遊感が無くなり、目を開けると神殿のような静謐に包まれた場所に立っていた。
目の前には耳のとがった、頭に天使の輪のようなものがついた男がいた。
「勇者アキラよ、お前に3つ褒美を取らせたのち元の世界へ返してやろう。お前は何を望む?」
「1つ目は俺の隣にいるクロことクロウフォルトを一緒に元の世界へと連れて帰りたい」
「許可する。2つ目は?」
「これからの生活に困らないくらい金が欲しい」
「許可する。3つ目は?」
俺は少し迷ったが、
「クロが不自由をしない世界にしてほしい。俺のもとの世界には獣人はいないんだ」
「許可する。その3つで相違ないか?」
「ああ。その3つとともに俺を返してくれ」
「よかろう、承知した」
男が近寄ってきて俺の頭に手をかざす。
男のつけていた指輪が光る。
その瞬間、俺の意識は暗転した。




