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「では勇者候補様、あなた様のお名前を教えてください。あ、私はフマルと言います」
「木津川アキラ、アキラでいいよ」
「アキラ様ですね。え~と、あった。この紙に書いていただいても」
と言われ、役所や病院などでよくある問診票みたいなものを出される。
書いてあることは分かるが、異世界の文字を書けるわけがない。
漢字を読めるけど書けない感覚に近いと思う。
「読めるけど書けないと思う。代筆を頼めますか?」
「ええ、もちろん。でも勇者候補様ってその辺りの力は頂いていないのですね。実はこの街でアキラ様のような勇者候補様の受付は初めてなもので。」
そこからは問診表のとおりに聞かれたことに答えて代筆してもらった。
名前、木津川アキラ、年齢、30歳、髪の色、少し白髪交じりの黒、眉の色、黒、瞳の色、黒。
「あとは身長ですね」
そういってフマルはカウンターの後ろから巻き尺のようなものを持ってきて、カウンター横から出てきてこちらに来る
「端を頭のところで持っていてくださいますか?」
「はい」
カウンターは少し高くなっていたのだろう、俺の身長は170㎝くらいだがフマルは145㎝くらいしかないようだ。
フマルの見た目は20代前半くらい先ほどの門番と変わらず金髪に緑の目、髪はフィッシュボーンだったかの形に編んでいる。
服は長袖ブラウスっぽいのにロングなスカート、短めのケープを羽織っていた。
「はい、測れました。ありがとうございます」
一通り終わったようだ。
「あとは冒険者カードの作成なのですが、これは勇者候補様専用のものがあって・・・・・・あー、あれはラベンさんに聞かないとわからないや。すみません。ちょっと上司に聞かないと出てこないですね」
「なにも急いでないし、わからないので全部お任せしますよ。」
「多分、隣の食酒所にいるのですぐ呼べると思うんですが、せっかくですしアキラ様も行きますか?きっとしばらくの間はそこでお食事なさると思うので。」
「ではついていきます。すぐそこならそんなに寒くもなさそうです。」
そういってフマルと一緒に外に出てすぐ横にある食酒所とやらに向かった。
受付に誰もいないが特に問題ないだろう。
食酒所の入口からは煌々と灯りが漏れている。
というかこの寒いのに、入り口は西部劇に出てくるあのドアだ。たしかスイングドアとかいう。
フマルが、キイ、という音がするドアを開けて先を譲ってくれる。
中に入ると左手に厨房、正面にカウンター、その後ろに2階への階段、右手側はテーブル席になっていた。席の数は全部で50人分くらいだろうか。
カウンター席にもテーブル席にも少ないが人がいる。何やら獣の耳も見えるがそういう世界なのだろう。
フマルはカウンターに座っていた少し髪の薄い小太りの男に声をかけた。食事中のようだ。
少し酒の匂いもする。




