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「この黒以外の色の絵の具というのは高価なものなんですよ。一般では手に入りにくいのです」


 魔法協会では虹色のインクを使って印刷をしていたのを知っているので驚きはしない。

 それよりも俺が気になったのは正面の絵だ。

 そちらに目をやる。


「そちらの絵が気になりますか?」

「ええ」


 男が灯りをつけてくれた。

 見たことのある顔だった。

 忘れもしない、あれはこの世界に来た時に初めて見た顔だ。

 俺をこの世界へ呼んだやつ。


「ゴース様の絵ですね。といっても教会から伝聞したものを描いたものですが。もしかして勇者様はお会いになったことがあるのですか?」


 なんと答えたらいいのだろう。

 もうこの世界には存在しないであろう人物?の絵のはずだ。

 少なくとも男に正確な情報を与える必要はないと思った。


「俺をこの世界へ呼んだ人? ですね」

「そうでしたか。憎いですか? それとも・・・・・・他の?」

「わかりません」


 こいつへの感情はよくわからない。

 退屈な日々から異世界へ送り込まれて楽しくはないが普通に暮らせている。

 どちらの生活が俺にとって良いことなのかわからなかったから。

 どうせなら魔物と戦ってみたかったかと言われればそれはそうだが。

 

「複雑そうなお顔ですな。観ていてもいい気にはならないでしょう」


 灯りが消される。

 手をかざしている間だけ付く魔石のようだ。

 他の絵も一応見せてくれた。が、


「ふむ。私たちの絵ではアナタの心を打つことはないかもしれませんね」

「いえ。そんなことはなかったですよ」


 他に10種類くらいの様々な絵を見た。

 すべて見たことのない風景や人物だったが、思うところはなかった。


「アナタの美的な何かが欠けているわけではありませんよ。これは絵描きである私たちの問題だと思っています」


 この男、かなり鋭く心を読んでくる。

 芸術家でも自分の描きたい絵を描くタイプではないようだ。

 礼をいって絵描きの家を出る。

 少しぼうっとして地図を見ながら帰り道を歩いていたら、すれ違いざまに肩がぶつかってしまった。


「すみません」


 ぶつかったのはフードを被った人だった。

 フードを被っているのは寒いからだろう。

 そう思って寮へついてから気づく。

 ズボンのポケットに入れていた部屋の鍵を紛失している。

 どこでなくしたのだろう?

 とりあえず、まだギルドが開いているのでフマルへ相談する。


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