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「は、はい。すぐに焼きますんでお待ちくだせぇ!」
まだ火起こしすらしていなかったダンが慌てて準備し始める。
偶然か?
一応聞いてみよう。
「マレインさん、フマルさんから言われてきたでしょ?」
「まあ、流石にアキラ様はお見通しですよね。そうです、フマルに頼まれました」
ちょうど近くを、荷物を木の棒に吊った獣人が通っていく。
横目で見られているのがわかる。
俺の黒髪に美人のマレインの銀髪、目立つ組み合わせだろう。
人が食べてるのを見せられるのはとても効果があるはずだ。
フマルには感謝してもしきれないな。
「とても美味しくて量も多いですね。看板に偽りなしでしょうか」
焼きあがった串焼きを食べてマレインは言う。
「ありがとうございやす。兄貴、店開いて初めて褒められました」
ダンはこちらを向いて言う。
「うん? 兄貴って俺のこと?」
「はいっす! 勇者様は兄貴も同然です!」
少し恥ずかしいけどまあいいか。
そういえば俺は言葉に出して褒めてなかったんだな。
「私はもう仕事をしに行きますね」
「ありがとうマレインさん」
「また来てくださいっす」
マレインを見送る。
しばらくするとまた見知った顔が来てくれた。
武器屋のガリバだったか、会ったのがずいぶん前な気がしてくる。
「よう勇者候補様、マレインから聞いて応援にきたぜ」
マレインは仕事ついでに宣伝してくれているみたいだ。
「戦いがなきゃ俺の店も暇なんでね。それでも腹は減るしな、肉と野菜1本ずつくれや」
今度は体格の良いガリバが食べてくれている。
昼も近づき、人通りも多くなってきていた。
大男でも満足できる店、そんな印象ができるのも良い効果が出そうだ。
「こりゃあ美味いな。店からちょっと遠いが来る価値はあるかもしれねぇ」
食べ終わったガリバもいい感想を言ってくれた。
俺の舌は確かだったらしい。
ガリバを見送り、ちょうど昼の鐘が鳴る。
ちょっとすると、一気に人が来て満席状態になってしまった。
まだ並びこそできていないが、この調子なら今日は売り切れ間違いなしだと思う。
「ダン、俺は邪魔になりそうだからまた後で来るよ」
ダンは頷いてくれる。
全部で5席しかないが、注文は途切れなくて余裕がなさそうだ。
空いたそばから客が座っている。
俺はいつもの食酒所でアイフェと昼食を摂る。
「あれ? アキラ様、串焼き屋やってたんじゃなかったの?」
ずいぶん話が飛躍している。
「いや、俺は宣伝だけ。繁盛したら少し金を貰う約束はしてるけどな」
「へー、働くってのも色々だねぇ」
表立って働くのが難しいから仕方ない。




