新第9章 『夢の扉』
どうも、リーン・バルガスです。15歳。一応、転生者ってやつです。
私にとって、この世界は人生二周目のゲーム盤みたいなもの。チート能力? 残念ながら、そんな都合のいいものはありません。あるのは、大人としての思考力と、この世界の基礎知識だけ。でも、それだけで十分でした。努力と効率を追求すれば、この世界の凡庸な天才たちなんて、すぐに追い越せる。
史上最速で王国騎士に成り上がった? 当たり前です。時間の無駄は嫌いなんです。
ただ、一つだけ誤算がありました。
この「騎士ごっこ」の初任務、どうやら私の思い通りにはいきそうにない。皮肉屋の隊長、氷の副隊長、そして――私の運命の踏み台。
そう、貴族の坊ちゃんが、私の前に立ちはだかった。
あぁ、最高に胸が躍る! 退屈な人生二周目、やっとまともな「敵役」が出てきてくれたんだから。
これは、騎士としての私のファーストステップの物語。そして、邪魔をする奴らを、容赦なく踏み台にしていく快進撃の記録です。
どうぞ、最後までお付き合いください。
私の名前はリーン・バルガス、15歳。
王国騎士になる、転生者だ。
ついにこの時がきた。晴れて王国騎士団に入団できる日が。
いや、まずは見習いからなんだけどね。
「1ヶ月後だとちょっと時間もないですし今回は見送りますか?」
「いえ、受けます。そちらの手続きもお願いします」
受付の女性職員の気遣いを丁重に断り、私は見習い入団と同時に叙勲試験への参加を申請した。先生から聞いていた通り、この試験の本番は当日の筆記試験ではない。見習い期間中の講習における日々の評価こそが全てだ。ならば、無駄な時間を過ごす必要はない。
この一ヶ月、私は全ての講習でトップの成績を維持し続けた。元々、大人としての思考力と集中力がある上に、先生にみっちり仕込まれた基礎がある。他の見習いたちがようやく型を覚える頃には、私は既に応用までこなしていた。
そして試験当日。結果発表の掲示板に私の番号「48」が張り出された時、周りの見習いたちから驚きと、わずかな嫉妬の混じった囁きが聞こえてきた。
「おい、48番ってあのバルガスの……」
「入団して一ヶ月だろ?嘘だろ……」
史上最速。前例のないスピード出世。だが、私にとっては当然の結果だった。これが私の運命の第一歩なのだから。
そして今日、新人騎士たちの配属先が発表される。私の名前が呼ばれたのは、騎士団の中でも特に実戦経験豊富だが、皮肉屋で知られる隊長が率いる部隊だった。
「バルガス、隊長室へ挨拶に行け。副隊長もいるはずだ」
上官に促され、私は指定された扉の前に立つ。深呼吸を一つして、扉をノックした。
中から聞こえてきたのは、不機嫌そうな男の声。中に入ると、そこは汗と鉄の匂いが染みついた、殺風景な部屋だった。仏頂面の男と、氷のように冷たい表情の女性が、値踏みするような目で私を見ている。
「リーン・バルガスです。本日付で当部隊に配属となりました」
敬礼する私を、隊長――リム・タッカは、椅子にふんぞり返ったまま顎でしゃくった。
「ほう、お前があのバルガスのお嬢様か。騎士ごっこはもう飽きたのかと思っていたがな。その綺麗な手で剣が振れるのか?」
「副隊長のマリン・ヒューバだ」
隣の女性が短く名乗る。彼女は私の試験成績が書かれた書類に目を落としながら、冷ややかに言った。
「成績は結構。だが、実戦は訓練とは違う。任務の足を引っ張るようなら容赦はしない。覚えておけ」
最悪の第一印象だった。だが、感傷に浸る間もなく、団長室からの呼び出しがかかる。しかも、タッカ隊長、マリン副隊長、そして私、という奇妙な三人での呼び出しだった。
重厚な扉の奥、広々とした団長室で私たちを迎えたヘルト団長は、開口一番、とんでもない任務を告げた。
「リーン君にやってもらうのは王太子妃様の護衛だ」
私が耳を疑うより早く、タッカ隊長が噛みついた。
「団長、ご冗談でしょう。王族の護衛は近衛の奴らの仕事だ。なぜ我々騎士団が、それもあいつらの子守りなんざしなきゃならねえんですか」
「これは王太子殿下直々のご指名だ。特に、妃殿下のご友人であるリーン・バルガス君の同行が絶対条件とな。それに法で定められているだろう。近衛の護衛権は市街地に限られる。一歩外に出れば、街道の警備は我々騎士団の管轄だ」
団長の有無を言わさぬ口調に、タッカ隊長は「……ちっ」と舌打ちしながらも黙って引き下がる。どうやら決定事項らしい。
こうして、私の騎士としての初任務は、犬猿の仲である近衛との共同護衛任務という、政治的で面倒極まりないものになることが確定した。
そして出発の日。
王都の民衆の歓声の中、きらびやかな行列が進んでいく。私は騎士団の隊列に加わり、馬上で背筋を伸ばしていた。すぐ近くでは、上官であるマリン副隊長が、氷のような表情で前を見据えている。その厳しい視線は、常に私にも向けられている気がした。
護衛対象であるカテナの馬車に、話相手として同乗しようとした、その時だった。真っ赤な鎧の騎士が一人、私の前に立ちはだかった。近衛だ。
「失礼、リーン・バルガス嬢ですか?」
「はい、私がリーン・バルガスですけどなにか?」
「いや失礼。伯爵家のおてんば令嬢が騎士団に入り、騎士のマネゴトをしてると聞いてね。一目見にきたんだよ。物好きもいたものだな」
うぉぉぉおおお、まさかこいつは。こいつは!
やった、やっと来てくれたか。
異世界転生者のテンプレ、意地悪な貴族の坊ちゃん。そうだ、お前を待っていたんだ。私は込み上げる喜びのあまり、自然と笑みがこぼれるのを止められなかった。
「失礼ですが、貴方はだれですか」
私の満面の笑みに押されたのか、男は一瞬たじろいだ。
「え、いや、私は近衛兵オーレ・サイクスだ。まあ君に覚えてもらう必要もないけどね」
オーレ・サイクス。最高だ。君はもっとだ、もっと私に燃料をくれ。
「まあ騎士ごっこも、ほどほどにすることだ。本物の戦場で泣きべそをかく前にな」
オーレ・サイクスは毒気を抜かれたのか、そんな捨て台詞を吐いて去って行った。
彼が去った後、馬に乗ったマリンさんがすっと隣に並ぶ。その目は呆れるほど冷ややかだった。
「バルガス、気にするな。近衛の連中はああやって吠えることしか能がない。いちいち相手にするだけ時間の無駄だ。任務に集中しろ」
「はい、副隊長」
私は力強く頷いた。だが、心の中はまったく別の感情で満たされていた。
マリンさんの忠告はもっともだ。だけど、私にとっては違う。この任務は、ただカテナの話相手をするだけの退屈な旅だと思っていた。だけど……。
あぁ、つまらない任務だと思っていたが。
ありがとう神様。
オーレ・サイクス、私の踏み台。
オーレ・サイクス、私の引き立て役。
オーレ・サイクス、私の添え物。
あぁ、いまからその時が楽しみでしょうがない。
あのお上品な顔を、はやく、ぶんなぐりたい。
お読みいただきありがとうございます。リーン・バルガスです。
どうでしたか、私の騎士としての最初の一歩は?
我ながら、最速で華々しいスタートを切れたと思っています。まあ、上官が皮肉屋と鉄仮面という最悪の組み合わせだったり、初任務が近衛の子守りという面倒極まりないものだったり、不満がないと言えば嘘になりますが。
特に、あのオーレ・サイクス。
彼が私を「騎士ごっこ」と罵った瞬間、私の第二の人生の目的が、また一つ増えました。
あの男、まさしく私のための燃料です。
さて、次話からは、いよいよ王太子妃護衛任務が本格化します。カテナ様との友人としての再会、近衛の連中との張り詰めた空気、そして、私の踏み台の運命やいかに。
物語は始まったばかり。この先、私が何を企み、何を成し遂げるのか、どうぞご期待ください。
面白かった、続きが読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークと評価をお願いします。それが私の最高の燃料になります!
それでは、また次話で。




