第36章:夜明けの攻防
この章は、地獄の最深部、「最も長い夜」を描きます。完全に包囲され、絶望に支配された丘の上で、転生者モディが闇魔法という規格外の力と天才的な指揮で奇跡を起こします!
闇のチート無双:モディが放つ精神攻撃は、屈強な帝国兵たちを幻覚と恐慌で打ちのめし、戦場を無血の地獄へと変貌させます。
究極の選択とロマンス:マリンとの命がけの軽口から飛び出した**「結婚フラグ」!しかし、シムの指摘が示唆するように、王太子妃カテナとの修羅場**は避けられないのか!?
一矢報いる奇策:座して死を待つことを拒否したモディの決死の奇襲作戦。絶望の中での一点突破に、リーンは最後の力を振り絞ります。
全てが尽きた、その瞬間。東の空が白み、王太子の軍旗が地平線に現れる!
絶望からの夜明けと、ジョウによる奇跡の救援。そして、モディとマリンの未来をかけた戦場ロマンスを、どうぞお楽しみください!
夜の闇は、死者の魂を弔う黒い弔いの布のように、パーム平原を静かに覆い尽くした。だが、その静寂はすぐに引き裂かれる。丘を包囲する帝国軍の陣から、無数の松明が掲げられ、第二波攻撃の開始を告げる角笛が不気味に鳴り響いた。
火矢が夜空を焦がし、赤い流星群となって丘の上へと降り注ぐ。
「光に惑わされるな!音を殺せ!敵は我々がどこにいるか分かっていない!」
丘の頂上から響くモディの冷静な声が、恐怖に駆られそうになる兵士たちの心を繋ぎ止める。彼は闇そのものを味方につけていた。丘を登ってくる帝国兵の目に、仲間が不気味な怪物に見える幻影を、その耳に、背後から味方の裏切りを告げる幻聴を囁きかける。敵は実体のない恐怖と戦わされ、暗闇の中で同士討ちを始め、その士気を削がれていった。
その間、最も激しい攻撃が集中する正面では、私が光の魔力をその身に纏い、防衛線の象徴として立っていた。私の剣が放つ輝きだけが、この絶望的な夜の戦場で、味方にとっての唯一の灯台だった。
◇
どれほどの時間が経っただろうか。敵の波状攻撃が、まるで潮が引くように一時的に途絶えた。兵士たちは崩れた土嚢に寄りかかり、荒い息をついている。負傷者の呻き声だけが、束の間の静寂に響いていた。矢はほとんど尽き、水樽も底が見え始めている。誰もが、次の攻撃が最後になるだろうと悟っていた。
負傷から意識を取り戻したヨード辺境伯が、担架の上から、超人的な指揮を執るモディに掠れた声で問いかけた。
「小僧……貴様、一体何者なのだ……」
「ただの通りすがりの医者だ。あんた達は重症患者に見えたんでな」
モディは肩をすくめて答える。その言葉に、老将は力なく笑った。
「そうか……。ならば、この患者たちの命……全て貴様に預ける。この丘を……生きて守り抜いてくれ」
それは、歴戦の辺境伯が、名も知れぬ少年に全てを託した瞬間だった。
その傍らで、負傷兵の手当てを終えたマリンと、警戒を続けるシムがモディの元に集まる。
「何があっても俺の目の届く範囲から離れるな」
モディが、二人にだけ聞こえる低い声で告げた。
「最悪、お前たち二人だけは連れて逃げる。自分の身だけは守れ」
「あら、もしかして口説いてるんですか?」
マリンが、疲労を隠すようにいつもの軽口で返す。モディは苦笑し、憎まれ口で応じた。
「行き遅れの三十路女を貰ってやる奇特な男はそういないからな。予約みたいなもんだ」
その軽口に、しかし、マリンは笑わなかった。彼女はふっと真面目な顔になり、夜空を見上げて溜息をつく。
「なんで、こんな所でこんなことしてるんでしょうね、私……」
その声には、偽らざる本音が滲んでいた。
「隊長なんて押し付けられて、辞めるに辞められないし。このままじゃ完全に行き遅れですよ」
モディは彼女の愚痴を黙って聞くと、丘の下に広がる敵陣を冷静に見据えながら言った。
「どちらが勝っても、帝国も王国も深い傷を負う。戦後は混乱するだろう。本気で辞める気なら、その混乱に乗じれば可能だ。まずは騎士団を辞めて、それから婿を探せ」
それは、驚くほど現実的なアドバイスだった。さらに、彼はこう付け加える。
「なんなら俺のところに来るか? ちょうど今なら正妻の座が空いてるぞ」
マリンさんは、その冗談めかした言葉の裏にある真意を探るように、モディの横顔をじっと見つめた。(ああ、私の気持ちを知っているくせに、こんなことを言わせて。本当にずるい人)
彼女は内心でそう思いつつ、悪戯っぽく微笑んでみせた。
「あら、嬉しい。でも私、子爵様より10も年上ですけど、よろしいのですか?」
それは、答えを知りつつも、確かな言葉で安心を求める、女心だった。
「年齢などただの数字だ。気にするな」
そのぶっきらぼうな肯定に、マリンは満足そうに頷くと、少し考えるふりをして言った。
「じゃあ、決まりですね。戦いが終わったら、一緒に王都に来ていただけますか? 結婚のご報告をしなければいけない、大切な方がいらっしゃいますものね」
その言葉が、暗にカテナのことを指しているのは明らかだった。モディは案の定、「面倒だ」と顔をしかめる。
「私一人で『子爵様と結婚します』なんて報告したら、その日の夜には堀に浮かぶかもしれませんわ」
マリンさんが大げさに怖がってみせる。モディが「考えすぎだ」と笑ってごまかそうとした時、それまで黙って聞いていたシムが、真剣な表情で口を挟んだ。
「いえ、モディ。マリンの言う通りです。あの方の説得は、彼女一人では無理でしょう。あなたが直接赴き、誠意を尽くして話すべきです」
「そうですよ!」
シムの真摯な進言に、マリンは力強く頷いた。
◇
「話は終わりだ。死を待つのは性に合わん」
モディは個人的な会話を打ち切ると、再び指揮官の顔に戻った。
「あの投石器を叩く。このままでは丘ごと削り取られるぞ」
彼が提案したのは、生還の保証のない、一点突破の奇策だった。ゲリラ部隊が夜陰に紛れて投石器を破壊し、私たち残りは、そのための陽動として決死の反撃を仕掛ける。
「座して死を待つか、一矢報いて活路を開くか、選ぶのはお前たちだ」
モディの問いに、兵士たちの間に動揺が走る。その沈黙を、私は一歩前に出て断ち切った。
「私は彼を信じる!ニア村で、彼の知略が私たちの命を救ったのを、この目で見た!」
私の言葉が、兵士たちの目に最後の闘志の火を灯した。
◇
作戦は開始された。私を先頭にした王国軍が、丘の上から雄叫びと共に決死の突撃を敢行する。最後の力を振り絞った私たちの猛攻に、帝国軍は意表を突かれ、その攻撃の全てが丘の正面に集中した。
その間、少数精鋭部隊は、闇の中を音もなく敵陣深くまで潜行していた。見張りを次々と暗殺し、ついに投石器群に到達。用意した油と火矢で、帝国軍の切り札を次々と巨大な篝火へと変えていく。
平原の反対側では、ヘクト団長の奮戦によりウラジーミル大公の部隊の進軍を完全に停止させたとの報が、ジョウの元に届いていた。戦況がわずかに膠着した、一瞬の好機。
「父上、我が初陣の仕上げ、この目で見届けてまいります!」
ジョウは、自ら軽装の精鋭騎兵部隊を率いて出陣することを決断し、本陣を飛び出した。
◇
「ぐっ……!」
敵の槍が、私の肩を深く抉る。満身創痍の私は、剣を杖代わりに片膝をついていた。その時、遠く敵陣の後方から、約束の爆発音と夜空を焦がす火の手が上がった。
しかし、その直後、火の手の周りで味方が敵の大軍に包囲されるのが、松明の光で見て取れた。
仲間を救うべきか、この丘の防衛を続けるべきか。究極の選択を迫られた私の前で、敵の最後の大攻勢が始まろうとした、その時だった。
東の空が、微かに白み始めていた。
地平線の向こうから、朝日を背負って進軍してくる新たな軍勢の鬨の声が聞こえる。その先頭に翻るのは、紛れもない、王太子の軍旗だった。
絶望の夜が、明けようとしていた。
長かった夜が、ついに明けました! ジョウ殿下の奇跡的な援軍が、まさに最期の瞬間に間に合いました!このカタルシスはたまりませんね!
モディの英雄的指揮:闇魔法を使った彼の夜戦指揮は、まさに規格外の知恵!彼がいなければ、中央軍の数万の命は、あの丘で間違いなく尽きていました。ヨード辺境伯の全権委任は、彼の指揮官としての力量を決定づける最重要フラグです!
マリンとの熱い展開:「正妻の座が空いている」からの結婚フラグ、立ちましたね!しかし、カテナとの修羅場は避けられそうにありません。転生者モディが、王太子妃という最強の障害をどう乗り越えるのか、戦後のラブコメ(?)にご期待ください!
ジョウの成長:ヘクト団長の奮戦で生じた一瞬の好機を見逃さず、自ら精鋭を率いて救援に駆けつける!この行動こそ、愛を失った彼が王として覚醒した証です。
夜明けと共に、戦況はナロ王国優勢へと再び傾き始めます!次章、ジョウの援軍とモディの防衛隊が合流し、総反撃が始まります!
(モディとマリンの結婚フラグに「いいね!」と思った方、ぜひブクマと評価ポイントをお願いします!皆様の応援が、次の修羅場を乗り越える力になります!)




