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WEB版 転生特典なし、才能も平凡な私が最強の騎士を目指したら、なぜか先に二児の母になっていました。  作者: 品川太朗


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第27章 『王家の咎』

いつも読んでいただきありがとうございます!


前回、ニア村での命を懸けた罠は成功し、暗殺者オーレ・サイクスは捕らえられました。これで、カテナ妃を巡る暗殺の脅威はひとまず去ったかに見えます。


しかし、物語の舞台は再び王都へ。騎士団がサイクスの私室から発見した決定的な証拠が、最悪の真実をジョウ王太子に突きつけます。


最大の裏切り者は、なんと実の妹、ルチド殿下でした。


愛する者からの裏切りを知ったジョウ王太子が下す「始末」の決断とは? そして、国王が選んだ王家の名誉を守るための罰とは何だったのか。


王族の血縁と、国の未来を天秤にかける、重い政治劇の結着をご覧ください。

ニア村で繰り広げられた死闘の翌日、王都の騎士団本部は静かな熱気に包まれていた。ジョウ王太子の勅命を受けたヘクト団長率いる騎士団が、サイクス伯爵邸から押収した証拠品の分析を不眠不休で続けていたのだ。

やがて、決定的な証拠が見つかった。オーレ・サイクスの私室の暖炉から発見された、手紙の燃えカス。特殊な薬品処理によって辛うじて復元されたその紙片には、見慣れた王家の紋章――その中でも特に、王妹ルチド殿下だけが使用を許された意匠が、はっきりと浮かび上がっていたのだ。

「……そうか。やはり、お前だったのか」

ジョウは、ヘクト団長から極秘裏に渡された報告書を握りしめ、執務室で一人呟いた。その声に怒りはなく、ただ深い、底なしの疲労と哀しみが滲んでいた。最も信じていた家族からの、最悪の裏切り。疑念が確信に変わった今、彼が感じていたのは怒りよりも、虚無感に近い感情だった。

彼はヘクトに、外部には一切情報を漏らさぬよう固く命じると、誰にも告げず、一人でルチドの住まう宮へと向かった。

ルチドの私室は、彼女の好む甘い花の香りと、豪奢な調度品で満たされていた。兄の突然の訪問にも、彼女は驚くことなく、優雅な微笑みを浮かべて紅茶を勧める。

「まあ、お兄様。いかがなさいましたの? そんなに怖いお顔をなさって」

ジョウは、その芝居がかった仕草を冷たい目で見下ろすと、単刀直入に切り出した。

「オーレ・サイクスに、何をさせた?」

一瞬、ルチドの微笑みが凍り付いた。だが、彼女はすぐに完璧な仮面を貼り直す。

「サイクス? ……ああ、近衛にいる、あの気障な方ですわね。わたくしには何のことか……」

「とぼけるな!」

ジョウの静かな一喝が、部屋の空気を震わせた。彼は懐から証拠の写しをテーブルに叩きつける。

「お前の紋章が入った手紙が、奴の部屋から見つかった。言い逃れはできんぞ」

証拠を突きつけられ、ルチドの顔からついに血の気が引いた。観念したようにうつむいた彼女は、やがて、ぽつりぽつりと動機を語り始めた。その声は、反省ではなく、拗ねた子供のそれだった。

「……だって、許せなかったのですもの。どこから来たとも知れない田舎貴族の娘が、お兄様の隣にいるのが。わたくしこそが、お兄様を一番理解しているのに……」

「それで、カテナを貶めようと?」

「そうですわ。サイクスに命じて、少し評判を落としてやろうと思っただけ。サグンテ市で誘拐させ、みっともない姿を晒させてやろうと。……でも、殺せとまでは命じていませんわ! ニア村でのことは、あの方が勝手にやったこと! わたくしは知りません!」

言い張る妹の姿に、ジョウは怒りよりも深い無力感に襲われた。彼女は、自らの行いがどれほど重大な結果を招いたのか、全く理解していない。全ては、兄を独占したいという、あまりに幼稚な嫉妬心から始まったのだ。

そして、その後悔は、やがて彼自身の胸に突き刺さる。

(私が……放置したせいだ)

幼い頃から、ルチドがカテナに嫉妬の目を向けていたことには気づいていた。だが、それは子供の焼きもちの延長だと、いずれ時が解決するだろうと、軽く考えていた。兄として、王太子として、二人の間に入り、その心の闇ともっと早く向き合うべきだったのだ。

「……ルチド。お前は、取り返しのつかないことをした」

静かに告げたジョウの瞳には、妹への憐れみと、そして自分自身への失望が浮かんでいた。

その日の夜、ジョウは父である国王に謁見し、全てを報告した。感情を一切排し、事実だけを淡々と述べる息子の姿を、国王は玉座から静かに見つめていた。

報告を終えたジョウに、国王はただ一言だけ問いかけた。

「……それで、お前はどうしたい?」

「ルチドに、罰を。王家の名において、厳正なる裁きを下すべきと存じます」

その言葉に、国王は初めて為政者の厳しい顔を見せた。

「ならん。王家の醜聞を、これ以上広げるわけにはいかぬ。これは、罪を裁く場ではない。家を存続させるための『始末』の場だ」

数日後、王宮に衝撃的な報せが駆け巡った。

ルチド殿下の、ヘクト公爵家次男との電撃的な婚約の発表である。

表向きは、若き二人の前途を祝す華やかな雰囲気に包まれた。だが、真相を知る貴族たちの間では、声なき噂が囁かれていた。これは、王家の恥を内々に収めるための、政治的な取引なのだと。

ルチドは、ヘクト公爵家という、王国でも指折りの武門の家へ「降嫁」する。彼女はこれからの一生、公爵家の夫人として礼節を持って丁重に扱われるだろう。だが、その生活は、事実上の軟禁に他ならなかった。彼女が再び政治の表舞台に出ることも、王都の土を自由に踏むことも、決して許されない。

それは、今の王、そして次の王であるジョウの治世が終わるまで、決して変わることのない、静かなる終身刑だった。

婚約の儀に向かう豪奢な馬車を、ジョウは宮殿のバルコニーから一人、見送っていた。美しい花嫁衣装に身を包んだ妹の顔は、能面のように無表情だった。

兄の視線に気づいたのか、ルチドが一瞬だけ、こちらを向いた。その瞳には、一瞬だけ、幼い頃の面影と、兄への微かな恨みがよぎったように見えた。

ジョウは、その視線から逃げることなく、ただ静かに受け止めた。そして、馬車が完全に見えなくなると、ゆっくりと目を伏せた。

王として生きることは、時に最も愛する者さえも、切り捨てねばならない。

その重い現実を、彼は今、己の心に深く刻み込んでいた。

今回は、ルチド殿下への裁きという形で、カテナ妃誘拐事件と一連の暗殺計画が政治的に決着しました。


ルチド殿下への罰は、「公爵家への降嫁」という名の静かなる終身刑。王として、愛する家族を切り捨てなければならないジョウの痛みが胸に迫る回でしたね。


これで、王都の闇は浄化され、ジョウ王太子の権威はより確固たるものになりました。


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