第23章 『凶報、王都を駆ける』
いつも読んでいただきありがとうございます!
前回、モディたちからの緊迫の報告は王都に届きました。
報告を受けたジョウ王太子は激怒!ついにライバルである騎士団に、王家最後の砦である近衛団の調査権限を与えるという前代未聞の決断を下します。
調査の先に浮かび上がったのは、属性**「不明」**の謎の騎士、オーレ・サイクス。彼こそが闇に潜む裏切り者なのか?
一方、ニア村では援軍到着まで残り10日以上の猶予しかありません。いつ襲撃されてもおかしくない絶望的な状況を前に、モディが提案したのは、「俺への愛で敵の洗脳をブロックする」という、あまりにも奇抜な洗脳対策でした!
リーン、シム、マリンの三人の反応は……?そして、王都の調査は間に合うのか!?
王子の決断と、辺境の村の奇策が交錯する第十一章をご覧ください!
王都の騎士団本部。近衛団の華美な装飾とは一線を画す、実用性だけで構成された団長執務室で、ヘクト・ヴァルガスは山積みの書類と格闘していた。
その眉間に刻まれた深い皺と、歴戦の傷跡が残る横顔は、彼が叩き上げの武人であることを雄弁に物語っている。
その時、執務室の扉が、せわしなく叩かれた。
ヘクトの表情が、瞬時に険しくなる。緊急事態か。
「入れ」ヘクトはぶっきらぼうに答えた。
入ってきた男――伝令兵は挨拶もそこそこに、彼が鳩舎から受け取ってきたであろう密書を差し出した。
手紙には、団長以外は見ることを禁じられた、騎士団の極秘印が押されている。
ヘクトはそれを乱暴に受け取ると、差出人の署名がリーン・バルガスであることを確認し、封を切った。
その内容に目を通すうちに、ヘクトの表情はみるみるうちに険しくなり、やがて絶句した。
未来の王妃への暗殺未遂。そして、あろうことか近衛騎士団からの裏切り者。
「……あの、儀仗かぶれの……!」
静かな、しかし底知れない怒りが、ヘクトの全身を駆け巡った。カテナ妃殿下の護衛は、法を厳密に解釈すれば、城外であるニア村では我々騎士団の管轄だ。それを面子を重んじる近衛団が横からしゃしゃり出てきた結果が、これだ。
彼は即座に行動を開始した。腹心の副団長だけを呼び、極秘に、自身の目で選び抜いた最も信頼できる騎士のみで構成される精鋭の救出部隊の編成を命じる。
その足で、ヘクトはジョウの住まう宮殿へ向かった。
案の定、侍従たちは「殿下はご多忙である」と、丁重に、しかし断固として面会を断ろうとする。
だが、ヘクトは一歩も引かなかった。
「カテナ妃殿下の御命に関わる、一刻を争う話だ。ニア村は城外、厳密には我ら騎士団の管轄でもある。その責任者として、報告の義務がある」
彼の鬼気迫る様子と、法を盾にした正論に侍従たちは押し黙り、数時間後、無理やり接見の時間が捻出された。
ようやく二人きりになった謁見の間で、ヘクトは王太子に密書を渡した。
ジョウ王太子は、カテナが危険に晒されたと知ると激しく動揺し、顔を青ざめさせたが、彼女が無事であると知ると心からの安堵の表情を浮かべる。しかし、次の瞬間、近衛に裏切り者がいるという一文を読んだ彼の顔は、安堵から氷のような冷たい怒りへと変わった。
「……ヘクト」
「はっ」
「お前を信じる。お前の騎士団に、近衛の調査権限を与える。手段は問わん。裏切り者を、何としても炙り出せ」
それは、前代未聞の勅命だった。近衛の不祥事を、ライバル組織である騎士団が調査する。近衛団の誇りは地に堕ちるだろう。だが、王太子の決意は固かった。
「近衛の中に、闇属性の魔法を使う者はいるか。全て洗い出せ」
調査はすぐに行われたが、難航した。闇属性は貴族にとって「一族の恥」であり、公式な記録には存在しなかったからだ。
しかし、その調査の過程で、一つの不審な事実が浮かび上がる。数日前から、誰にも行き先を告げず、全く連絡がつかない近衛兵が一人いること。
報告に戻ってきた副団長が、その名を告げた。
「――オーレ・サイクス、と申します」
「彼の魔法属性は?」
王太子の問いに、副団長は答えに窮した。
「それが……彼の属性を知る者は、誰もいませんでした。記録上は『不明』となっております」
王太子とヘクトは、その不気味な事実に顔を見合わせる。
近衛の中に潜む、誰も素性を知らない謎の騎士。
全ての疑いが、その男へと収束していく。
◇
「さて、連絡はしたが、応援はいつ頃になりそうかな?」
ニア村の館。モディの疑問に、マリンは少し頭の中で計算してからすぐに答えた。
「そうですね、ヘクト団長が最速で動いてくださるとして……十日から十五日、といったところでしょうか」
「そうか……。護衛の騎士たちは、リーンとマリンを除き戦闘不能になった。これからは俺とシム、リーンの三人による三交代制で、二十四時間カテナに付き添うことにする」
リーンとシムは、不満もなく頷いた。
「闇属性使いって、珍しいからモディさん以外知らないんですけど、敵は次、どう出ると思いますか?」
リーンの問いに、モディは腕を組みながら答えた。
「そうだな。俺が奴なら、まずリーンかシムを洗脳して俺を潰そうとするだろうな。奴の得意とする精神操作は、同じ闇の使い手である俺には通じない。一度失敗した今、まだ俺自身に通じると思っているなら……次に現れた時が奴の最後になる。だが、そこまで間抜けでもあるまい」
軽く言うモディとは反対に、リーンとシムは顔色を変えた。
「洗脳対策って、どうすればいいんですか!?」
「私も操られたくはありません。どうすればいいのですか?」
二人が必死になるのも無理はない。友であるトリスタンが狂気に陥る様を、見たばかりなのだから。
対するモディは、本当に、心底嫌そうな顔をすると、仕方なく口を開いた。
「対策は、ある。……できればやりたくはないんだが」
「どんな手があるんですか!もったいぶらずに教えてくださいよ!」
リーンの性急な言葉に、モディは観念したようにため息をついた。
「……奴に洗脳される前に、俺がお前たちを洗脳する」
「「え?」」
リーンとシムは顔を見合わせ、シムが代表して尋ねた。
「……具体的には、どのような洗脳を?」
モディの視線は、なぜか明後日の方向を向いている。
「その……例えばだが、『俺のことが好きで好きでたまらない、絶対に裏切らない』とかな?」
「ぷっ!」
思わずマリンが吹き出した。
「いいじゃないですか!それで敵の洗脳をブロックできるんでしょう?今すぐやってもらいなさいよ、二人とも!」
マリンが囃し立てるが、リーンは口をへの字に曲げた。
「軽く言わないでください!こっちの身にもなってくださいよ!」
モディは視線は元に戻さずに。
「そうだぞマリン。お前もだ」
「え?あの、私もですか?」
「ああ、当たり前だろ。お前だけじゃない。カテナを除き、この家にいる者全員だ」
モディの視線はまだ明後日の方向から戻ってこない。
(マーサに侍女にリーン、マリン、それにシムか……これが世に言うモテ期というやつか)
一人、そんなことを考えているとは、必死な三人は知る由もなかった。
いつも読んでいただきありがとうございます!
前回、モディたちからの緊迫の報告は王都に届きました。
報告を受けたジョウ王太子は激怒!ついにライバルである騎士団に、王家最後の砦である近衛団の調査権限を与えるという前代未聞の決断を下します。
調査の先に浮かび上がったのは、属性**「不明」**の謎の騎士、オーレ・サイクス。彼こそが闇に潜む裏切り者なのか?
一方、ニア村では援軍到着まで残り10日以上の猶予しかありません。いつ襲撃されてもおかしくない絶望的な状況を前に、モディが提案したのは、「俺への愛で敵の洗脳をブロックする」という、あまりにも奇抜な洗脳対策でした!
リーン、シム、マリンの三人の反応は……?そして、王都の調査は間に合うのか!?
王子の決断と、辺境の村の奇策が交錯する第十一章をご覧ください!




