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WEB版 転生特典なし、才能も平凡な私が最強の騎士を目指したら、なぜか先に二児の母になっていました。  作者: 品川太朗


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第2章:転生特典(チート)はどこに?

私の名前はリーン・バルガス、8歳。

晴れて異世界転生者となりました!


さて、転生したからには「チート能力」が与えられているのがお約束。

それは分かっているんだけど…。


全属性を操る、伝説の魔法?

未来の知識で世界を改革する、内政チート?

それとも、見ただけで相手の全てが分かる、鑑定スキル?


うーん、どれも捨てがたい!

一体、この私に眠る「転生特典」とは何なのか?


――よし、徹底的に調査開始!

私の名前はリーン・バルガス、8歳。ただいま絶賛「自分探し」中の転生者である。

前世の記憶に目覚めてから、早三ヶ月が経った。

この三ヶ月、私は来るべき「無双ライフ」に備え、己のポテンシャルを探るべく、入念な調査活動に明け暮れていた。

最初のターゲットは「内政チート」だ。

前世で読んだ物語では、主人公が石鹸やらマヨネーズやら、現代の知識をちょっと披露するだけで、あっという間に国を豊かにし、巨万の富と名声を手に入れていた。私もそのパターンかもしれない。そうと決まれば、まずはこの世界の技術レベルと文化を知る必要がある。

私は来る日も来る日も、父さまの書斎に入り浸った。

膨大な蔵書を片っ端から読み漁り、この世界の常識を頭に叩き込んでいく。最初はチンプンカンプンだったこの世界の文字も、中身が元14歳なだけあって、驚くほどのスピードで習得できた。うん、やっぱり私、天才かもしれない。

そして、調査開始から一ヶ月。私は一つの結論に達した。

私には、内政チートの才能が無い。

いや、正確に言えば、私にはこの世界を発展させるだけの、めぼしい知識が無かった。

だって、そうだろう。私が期待していた石鹸もマヨネーズも、なんならプリンやカステラに至るまで、この世界にはごく当たり前に存在していたのだ。

考えてみれば当然か。石鹸なんて、前世じゃ紀元前からあったっていうし、同じ人間が同じくらいの知能を持っているなら、似たようなものが生まれて当たり前だ。私の現代知識(といっても14歳の女子中学生レベル)なんて、ほとんど役には立たなかった。

「内政チート、終了! よし、次いこう、次!」

書斎の床に積み上げた本の上で大の字になりながら、私はパンっと柏手を打った。気持ちの切り替えは早い方なのだ。

内政がダメなら、次は王道中の王道、「魔法チート」だ。

これこそ本命。剣と魔法の世界に転生したからには、これがないと始まらない。

私はさっそく、一番の情報源であるお母様の元へ向かった。

「お母様、魔法について教えてくださいませ!」

「まあ、リーン。急にどうしたのですか?」

お茶の時間、子供らしい無邪気さを全力で装いながら尋ねると、お母様は優しく微笑んで教えてくれた。

この世界の魔法はどうも血筋とか遺伝に左右されるらしく、貴族はほぼ何らかの魔法が使えること。

いずれ修行をすれば、世界のエネルギーである「魔法のもと」というものが、自然と見えるようになること。

そして、その「魔法の元」は火、水、土、風、闇、光の6つの属性に分かれていて、普通は一人一つの属性しか見えない、ということ。

――きたわね!

私は心の中でガッツポーズをした。これだ、この設定だ!

一人一属性が基本ということは、つまり全属性を扱える規格外の「無属性」か、あるいは誰も持っていない伝説の「レア属性」持ちという、主人公お約束のパターンに違いない! さすが私! 運命に愛されている!

「リーンももう8歳ですもの。そろそろ『魔法の元』が見えるようになるかもしれませんね。楽しみですわ」

「はい、お母様! リーンも楽しみです!」

その日から、私は毎朝起きるたびに、世界が違って見えないかと目を凝らした。

そして、その日はあっさりと訪れた。

ある朝、目が覚めると、自分や人の体の周りが、陽炎のようにぼんやりと光って見えた。

(これだ!)

ついに来たのだ、私の才能が覚醒する時が!

大喜びで母親に報告すると、私の目覚めた力が、6属性の中で最もポピュラーな**「光属性」**であることが判明した。

「まあ、魔法使いの半分は光の属性ですものね。良かったわね、リーン」

お母様は心から祝福するように、私の頭を撫でてくれる。

しかし、私の心は急速に冷え切っていた。

(は…半分…? 全属性でもレア属性でもない…だと…!?)

一番人気ポピュラーってこと!? ちくしょう、またハズレか!)

二つ目の期待も、見事に、木っ端微塵に砕け散った。

私は自分の部屋に戻ると、悔しさのあまりベッドの上で足をバタバタとさせた。侍女さんが「お嬢様、どうなさいましたか…?」と困った顔でこちらを見ているが、そんなことは知ったこっちゃない。

だが、数分後。私はすっくと顔を上げた。

そうだ、まだだ。まだ終わっていない。

(いや、まだだ! ポピュラーな属性でも、修行次第で神をも超える強さになる『努力の天才型』主人公のパターンだってある! そうに決まってる!)

自己完結型の理論武装を終え、私は再び希望の光を見出した。そうだ、私の本当の物語はここから始まるんだ。

そんな私の気分の浮き沈みを察してか、その日の夕食後、お母様はにこやかにこう告げた。

「リーン、あなたも魔法に目覚めたことですし、あなたにぴったりの、良い家庭教師を探してあげますね」

家庭教師! つまり、私の才能をさらに開花させてくれる師匠との出会いだ!

私の心は、まだ見ぬ「修行」と「師匠」との出会いに、再び期待で満たされた。

「私の本当の伝説は、ここから始まるんだ!」

部屋に戻った私は、誰に言うでもなく、固く拳を握りしめるのだった。



家庭教師は女騎士


今日は、お母様が見つけてくれた魔法の家庭教師の先生がやってくる日だ。

朝から落ち着かなくて、私は自室の窓辺を行ったり来たりしていた。

(どんな人が来るんだろう? 物語に出てくるみたいな、白くて長い髭のおじいさん魔法使いかな? それとも、キラキラの鎧を着た爽やかなイケメンの騎士様だったりして!)

私の期待は、胸の中で風船みたいに膨らんでいく。私の隠された「天才」を見抜き、驚き、そして手取り足取り修行をつけてくれるのだ。ああ、なんて素敵な響きだろう!

「リーンお嬢様、奥様が客間にてお待ちでございます」

侍女の声に、私は「はい、いま参ります!」と元気よく返事をして、スキップでもしそうな勢いで客間へと向かった。

軽く深呼吸をして、扉をコンコンとノックする。

「お母様、リーンです」

「お入りなさい、リーン」

中に足を踏み入れると、優雅にお茶を飲んでいるお母様と、その向かいに座る一人の先客がいた。

その姿を見て、私は少しだけ、目を丸くした。

そこにいたのは、おじいさんでもなければ、イケメンの男性騎士でもなかったからだ。

母親と向かい合って座っていたのは、すらりとした体躯の、若い女性だった。

年の頃は二十代半ばくらいだろうか。騎士のものらしい、実用的な作りの制服を着こなしている。私やお母様と同じ金髪碧眼だと思っていたけど、その人の髪は赤みがかった茶色で、瞳も同じ色をしていた。

クールで、知的で、隙がない。前世の言葉で言うなら、「できるキャリアウーマン」って感じだ。

「リーン、紹介しますね。この前お話しした、王国騎士のグーン卿よ」

「初めまして、リーンお嬢様。シム・グーンと申します。私のことは、シムでもグーンでも、お好きなようにお呼びいただいて結構です」

女性騎士――シムさんは、椅子から立ち上がって、美しい所作で一礼した。

「初めまして、シム・グーン卿。じゃあ、グーン先生と呼ばせていただきますね。これからよろしくお願いします!」

私も貴族令嬢として完璧なカーテシーを返す。さあ、弟子入りだ。

私は出来の良い弟子を演じるべく、自信満々の笑顔で宣言した。

「先生、心配はいりません! 10年後には、あのリーン・バルガスの師であったと部下に自慢できるようになっているはずです!」

私の渾身のアピールに、しかし、先生は驚きも感心もせず、ただ、ふっと微かに口元を緩めた。

「はあ…分かりました。今は一番の下っ端ですが、10年後に部下に自慢話ができるよう、私も精進するとしましょう」

その大人びた対応に、私は少しだけ調子を狂わされる。なんだか、簡単にはいかなそうな相手だ。

「それじゃあグーン卿、あとはお願いしますね。リーン、先生の言うことをよく聞くのですよ」

「はい、お母様」

お母様が席を立つと、先生はすっと立ち上がり、敬礼してお母様を見送った。その姿は、すごく、かっこよかった。

二人きりになると、客間の空気が少しだけ張り詰めた気がした。先生の表情から、さっきまでの柔和さが消え、厳しい教官の顔つきになっている。

「では、改めまして。今日よりリーンお嬢様の魔法の指導を担当させていただきます。指導にあたっては、私流にやらせていただきます。もし言う事を聞かないようなら、奥様より多少の体罰も許可を得ていますので、その心づもりでいてください」

ひえっ。想像していた、優しくて甘やかしてくれる師匠像が、音を立てて崩れていく。

「さて、今日のところはまず、私が魔法を使っているところを見てもらいます。まずはよく見て、魔法の元がどのようなものか、観察し、感じてください」

「はい! お願いします!」

私たちは庭に出た。先生は私の正面に立つと、すっと息を吸った。

光属性の基本的な魔法、「肉体強化」を見せてくれるらしい。

おぉ、ついに来た!

先生の顔が、きゅっと引き締まる。その表情は、例えるなら、少女漫画でヒロインに壁ドンする直前のイケメンが浮かべる、「絶対にこの女を落としてやる」みたいな、凄みのある顔だった。

「どうですか? 私の体の周りの、魔法の元の変化に気づきましたか?」

しまった。

先生のあまりのイケメン顔に見とれてしまって、肝心の魔法の動きを、全く、これっぽっちも見ていなかった。どうしよう? 正直に言うしかないか。

「すいません先生、先生がすごいかっこいい顔をしたんで、それ以外、目に入りませんでした」

「……は? おふざけにならないでください」

まずい、本気で怒らせてしまったかもしれない。先生の目が怖い。

「も、申し訳ありません! 先生のりりしいお顔に、つい見とれてしまいました! 次はちゃんとやりますので、お許しください!」

「りりしいって…まあ、分かりました。私はまだ肉体強化を継続中です。今度こそ、私の体の周りの魔法の元がどうなっているか、よく見てください」

先生は深いため息をつきながらも、許してくれた。優しい。

今度こそ、私は全神経を目に集中させた。

先生の体の周りには、朝の光の中で陽炎のように揺らめく、光の粒子が見える。それが「魔法の元」だ。その粒子が、少しずつ、少しずつ数を減らし、消えていくのが分かった。

「先生! 魔法の元が、消えてなくなりそうです!」

「そうです。今日は極端に消費を上げて、分かりやすくしていますが、魔法を使えば魔法の元は減る。そして光の属性に限って言えば、それはあなた自身の体力や精神力そのもの。使い切れば最悪、命がありません。この当たり前の原則を、まず理解してください」

命が、ない。

その言葉の重みに、私はゴクリと唾をのんだ。ラノベみたいに、MP回復薬をがぶ飲みすればいい、なんて甘い世界じゃないらしい。

「では、今日はここまでにしましょう。私も魔法を使いすぎて、かなり疲れました」

先生の額には、うっすらと汗が浮かんでいた。

「あと、私が良いと言うまでは、魔法の自主練習は禁止します。コントロールできない力は、とても危険です。分かりましたか?」

「分かります! コントロールできない力は悲劇しか生み出さない、よく分かります!」

私は、前世で仕入れた決め台詞で、力強く頷いた。先生は一瞬「え?」という顔をしたが、すぐに頷き返してくれた。

先生が屋敷から去った後、私は一人、庭に残された。

想像していた甘い修行とは、全く違う。現実の魔法は、もっとずっと厳しくて、危険なものだった。

でも。

私は落ち込むどころか、むしろ、心の底から興奮していた。

(厳しいけど、すごい先生だ…。それに、かっこいい…!)

厳格で、美しくて、強い師匠。そして、命がけのリアルな魔法。

その出会いに、私は胸が高鳴って仕方がなかった。

「あぁ、楽しみでなかなか眠れない」

次の授業は一週間後。その日が待ち遠しくて、私は夜、なかなか寝付けなかった。



お読みいただきありがとうございました!

主人公のリーンです。


ついに来ました、私の師匠!

白髭のおじいさんでもなく、キラキラの王子様でもなく…まさかの、クールで美しい女騎士様でした!


いやもう、かっこよすぎませんか、シム先生!

厳しいことは言われましたけど、あの「イケメン顔」で見つめられたら、何でも言うことを聞いちゃいそうです(笑)


魔法の世界は、私が思っていたよりもずっと厳しくて、危険みたいです。

「命がけの修行」、まさに望むところ!


これから、あの素敵な先生の下で、私がどんな風に強くなっていくのか。

ぜひ、次の話も楽しみにしていただけると嬉しいです。


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