第13章『使命と偶然』
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「東京ばな奈」の問いかけによって、ついに互いを認識し合った四人の転生者。
彼らは秘密を守るため、モディの私的な小屋で緊急の**『日本人会議』**を開きます。
しかし、その場は感動の再会とは程遠いものとなりました。
「神の使命」を信じ希望に燃える若者たちに対し、モディが突きつけたのは、あまりにも冷徹な**「ただの偶然論」。さらに、前の人生で家族を顧みなかった後悔**を抱える彼の、静かな日常を優先したいという強い意志が、四人の間に深い亀裂を生みます。
この運命的な出会いは、彼らにとって「始まり」となるのか、それとも「終わり」となるのか――。
緊張感に満ちた密談の行方をお楽しみください。
モディの屋敷の客間は、時が止まったかのような静寂に包まれていた。
日本語という、この世界に存在するはずのない音の刃が、四人の間に横たわる見えない壁を切り裂いた。その後に残されたのは、ただただ茫然とした相互認識と、言葉にならない衝撃だけだった。
「やっぱり……いたんだ……四人目が」
沈黙を破ったのは、興奮と感動を抑えきれないリーンの震えるような囁きだった。その一言が、凍り付いていた時間のスイッチを入れる。
ハッと我に返ったモディは、即座に状況を判断した。客間の扉一枚を隔てた向こうには、母マーサがいるかもしれない。これ以上、ここで話すのは危険だった。
「場所を変える」
モディは短くそう告げると、事情が分からず困惑しているシムに向き直った。
「シム、お前はここで待っていてくれ。これは……俺たちだけの話だ」
「モディ様……?」
主のただならぬ雰囲気に、シムは何かを察したように黙って頷いた。
モディは改めてジョウ、カテナ、リーンに向き直る。
「ついてこい」
まだ混乱の中にいる三人を促し、彼は自らの聖域であり、秘密の全てが詰まった離れの小屋へと一同を導いた。薬草と古い書物、そして微かに血の匂いが混じるその空間は、彼らの最初の密談の場として、あまりにふさわしい不気味さを湛えていた。
扉が閉められ、外界から完全に遮断された薄暗い小屋の中。四人の転生者は、初めて本当の意味で互いと向き合った。
口火を切ったのは、やはりリーンだった。彼女は堰を切ったように、瞳を輝かせながら語り始めた。
「私たちの出会いは、ただの偶然のはずがない!考えてみて! 同じ事故で死に、同じ日にこの世界に生まれ変わり、こうして再会した! これは神様が、私たちにこの世界で何かを成し遂げるための使命を与えたに違いないわ!」
その熱弁に、ジョウもまた冷静ながら力強く同意する。
「リーンの言う通りだ。偶然にしては、あまりに作為的すぎる。何らかの目的があって我々はここにいると考えるのが、最も自然な結論だろう」
カテナもまた、優しく、しかし確信を持って頷いた。
「わたくしも、そう思いますわ。そうでなければ、この不思議な巡り合わせを、とても説明できませんもの」
三人は、この運命的な再会の最後のピースであるモディに、同意と、年長者としての導きを求めるような、期待に満ちた眼差しを向けた。
モディは、三人の希望に満ちた言葉を、腕を組んで黙って聞いていた。そして、全員が語り終えたのを見計らい、熱を帯びた空気を落ち着かせるように、静かに語り始めた。
「……ふむ。君たちの言うことも、一つの仮説としては理解できる。だが、神や使命と結論付ける前に、まずは最も単純な可能性を検討すべきじゃないか。それは**『極めて稀な偶然』だということだ」
「偶然ですって!?」と色をなすリーンに、モディは静かに続ける。
「ああ、偶然だ。宇宙の広さから見れば、天文学的確率の事象など日常茶飯事に起きる。宝くじに当たる人間がいるのと同じだ。我々はその『転生』という籤に当たっただけかもしれない。君たちの中に、我々を転生させた存在――神とやら――と直接話したり、その存在を感じたりした者はいるか? …いないだろう。俺もだ。つまり、この現象が意図的なものだという証拠**が、我々には何一つない」
モディはそこで言葉を切ると、今度は逆に三人に問いかけた。
「仮に、君たちの言う通り、これが神の意志による転生だとして……それで、俺たちに一体何ができる? 何をしろと言うんだ?」
「それは……」
言葉に詰まるリーンに、モディはさらに問いを重ねる。
「この世界を変えるほどの、何か特別な知識でもあるのか? 君たちは元々中学生だったはずだが」
その問いは、三人の希望に突き刺さる鋭い棘のようだった。
その時、それまで黙って聞いていたジョウが、静かに、しかし鋭く切り返した。
「あなたには、あるんじゃないですか?」
「……何?」
「あなたは、我々とは違う。我々より長く、豊かな知識と経験を持って、前の人生を終えたはずだ。世界を変える知識とは言わないまでも、我々にはない何かを」
ジョウの真っ直ぐな視線を受け、モディは一瞬言葉に詰まる。そして、その質問には直接答えず、ふっと息を吐いて別の話にすり替えた。
「……もし俺が神なら、そしてこの世界を救いたいと本気で思うなら、俺たちのような中途半端な人間は転生させん。呼ぶべきは、農業関係者か、畜産関係者だ」
「え……?」
「現代日本の農業技術や品種改良、畜産の知識があれば、この世界の食糧事情に革命を起こせる。多くの民を飢えから救い、それこそ世界を変えることができるだろう。それに比べれば、俺たちの持っている知識など、ほとんど役には立たん」
モディはそう言うと、少しだけ声のトーンを落とし、個人的な想いを語り始めた。
「それに、俺には個人的な事情もある。……俺は前の人生で失敗した。仕事にかまけて、家族を疎かにしたんだ。母親一人残して先に死んだ、ただの親不孝者だ。この二度目の人生は、その贖罪だと思っている。だから、たとえ何らかの使命があったとしても、俺が優先するのはこの村での静かな生活だ。すまないが、君たちの壮大な物語に、主役として参加するつもりはない」
後味の悪い緊張感を残したまま、最初の会合は解散となった。
小屋から母屋へと戻る夜道、三人はしばらく無言だった。重い沈黙を破ったのは、やはりリーンだった。
「何なのよ、あのおじさん! 使命がないですって? 私たちのこの再会を、ただの偶然だなんて……!」
悔しそうに吐き捨てるリーンの肩を、カテナが優しく撫でる。
「リーン、落ち着いて。モディも、悪気があって言っているわけでは…」
「でも! あんな言い方ないじゃない!」
そんな二人を後ろから見守っていたジョウが、静かに口を開いた。
「だが、彼の言うことにも一理ある。我々には、証拠がない。それに……彼の背負っているものは、我々が考えているより重いのかもしれない。前の人生の後悔、と言っていたな」
「……後悔」
ジョウの言葉に、リーンの勢いが少しだけ削がれる。
「今は焦るべきではないな。我々はまず、互いを知ることから始めるべきだ。彼が懐疑的だというなら、我々がこれから、この再会に意味があることを証明していけばいい」
王太子としての冷静な分析と、友としての温かさが同居したジョウの言葉に、リーンもカテナも頷くしかなかった。
「そうね……そうかもしれないわね」
四人は、一つの巨大な秘密によって固く結ばれた。しかし、その魂が拠り所とする哲学は、あまりにも大きく分かたれていた。
この深い亀裂が、今後の彼らの運命にどのような影響を及ぼすのか。それはまだ、誰にも分からなかった。
使命か、偶然か、それとも贖罪か
最初の転生者会議は、まさかの**「決裂」**という形で幕を閉じました。
「使命」の存在を信じていたリーンたちにとって、モディの**「ただの偶然だ」という冷たい言葉と、前の人生の後悔を理由にした「不参加宣言」**は、あまりにも重い現実だったでしょう。
モディの**「贖罪」**という個人的なテーマが、王太子夫妻とリーンが思い描く壮大な物語の、最大の壁となりそうです。
しかし、ジョウ殿下の冷静な分析の通り、今は焦るべきではないのかもしれません。彼らはこれから、モディに対し、この再会が偶然ではなく意味のあるものだと、どう証明していくのでしょうか?
四人の魂の結びつきと亀裂。この深い溝が、今後の物語にどのような影響を与えるのか、ご期待ください。
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次回もどうぞお楽しみに!




