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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
6/41

神の役目

 俺はひとまず深呼吸し、心を落ち着かせる。


 ふう──。


 まずは、現状を分析。


 ......状況は、最悪。

 まさに俺が懸念していた、最悪の事態そのものだった。


 圧倒的な戦力差。

 それによる、理不尽な屍の山。


 ティアナたちの実力を見るに……

 恐らく、甘く見積もって魔物のB+ランク程度だろう。


 《ノクシア》と対峙するには、圧倒的な実力不足。


 仮に戦闘になれば──

 十秒、いや、恐らく五秒も持たない。


 そうなると……。


 わずかに逡巡した後、俺は決断する。

 今は、どういう訳かティアナ達の様子を見ているようだが、動いてしまえば手遅れになるだろう。


 ......次の瞬間、《ノクシア》の動きは完全に停止した。


 神力(ジンリョク)、発動。

 俺は、神の力を使って《ノクシア》の動きを封じた。


 ただし、それだけだ。

 あくまで一時的に動きを封じただけで、倒したわけではない。


 別に俺は、この世界で「俺TUEEE系」は望んでいない。


 物語の主役は、あくまでこの世界の住人たち。


 俺はイレギュラーな存在。


 魔物を倒す役目は、

 この世界で生きる者たちでなければならない──。


 そう考えた俺は、ティアナたちに魔法を使って語りかけることにした。


 これまで、彼女たちの前で言葉を発したことはない。

 だから、誰に話しかけられているかは分からないはずだ。


「そこにいる、三人の冒険者たちよ。我の声を聞きなさい──」


 出来るだけ厳格に。

 まるで“神の啓示”のように語りかける。


 エミリオが「神の声が聞こえる!?」と慌てているが、とりあえず無視。


「君たちの目の前にいるのは、

 この世界に巣食う強大な魔物の一体です。

 なんとか我の力で抑えていますが、長くは持ちません」


「君たちの力を借してほしい」


 ティアナたちは戸惑っていた。


 悪夢のような惨劇を目にし、

 そして今は天から聞こえる神のお告げ──


 混乱するのは当然だ。


 だが、彼女らもこれまでに数々の死線をくぐってきたのだろう。

 少しの沈黙の後、答えが返ってくる。


「......私たちに、何をしてほしいの?」


 賢い、そして強い子だ、と俺は心の中で呟く。


「あの魔物には、氷の魔法が通じます。

 あなたの魔法を、全霊で放ちなさい」


 その言葉に、咄嗟にエミリオが反論する。


「神よ……あなたの声が聞けたことに、心より感謝します。

 しかし、神を疑うつもりではありませんが──

 ティアナの魔法が、あれに通じるとは……とても思えません」


 その言葉にカイルも頷く。


 一目見て分かっていたのだ。

 あの魔物は、“弱点がどうこう”という次元の存在ではないことを。


 先程までの惨状は、彼女たちの心を折るには十分すぎるほどだった。


 三人は静かに俯くが、それでも俺は語りかける。


「安心しなさい。もちろん、我もサポートします。

 あなたたちが今、”あれ”を止めなければ、街はどうなってしまうと思いますか?」


「先ほど目の前で命を奪われた人々のように──

 彼らの死を、ただ受け入れるのですか?」


 自分でそんなセリフを口にしながら、心が痛む。

 イレギュラーがあったにせよ、その元凶をつくり上げたのは紛れもなく──俺なのだから。


 しばらくして、ティアナが顔を上げ、声を絞り出す。


「……分かった。やれるだけ頑張ってみるよ。

 カイル、エミリオ。私、多分この魔法撃ったら意識飛んじゃうと思う。

 あとはお願い」


 その言葉に、カイルとエミリオは戸惑いながらも、力強く頷く。


「よく決心してくれました。……では、お願いします」


 その言葉にあわせて、俺はティアナに魔力のブースト魔法をかける。


 彼女は一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに真剣な顔へと戻った。


 集中。

 全力で、魔法の力にすべてを捧げている。


 そして──ほどなくして、彼女は自身が撃てる最大の魔法を放った。


 ――詠唱。フロスト・ノヴァ。


 ティアナの魔法が着弾する直前、俺は神力を解除。

 残念だが、魔力ブーストの魔法を用いたとしても、彼女の力だけでは《ノクシア》を一撃で倒すには遥かに及ばない。

 やむを得ず、彼女の補佐として、同時に、こちらも氷の魔法を重ねる。


 ――詠唱。アストラル・フリーズ。


 二つの魔法が融合し、

 凶悪な冷気となって《ノクシア》の身体を一瞬に包み込む。

 突如として、降り注いだ圧倒的な魔法の渦は、断末魔を上げる暇さえ与えない。


 数秒後、まるで先ほどまでの恐怖が嘘だったかのように、

 ゆっくりと……その魔物は崩れ落ちた。


 魔法を放った後のティアナは、宣言通り意識を失い、

 それをカイルとエミリオが慌てて支える。


 その後、まるで緊張の糸が切れたように、

 彼らはその場に座り込んだ。


 ......それから間もなくして、突如、出現した膨大な魔力を感知した騎士がこちらにやってきた。

 血の海と化した光景を目の当たりし、その後も次々と騎士が集まってくる。


 俺──アストは、誰にも気づかれないように、静かにその場を去った。




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― 新着の感想 ―
場面描写が……展開が……アツい! 前話から手に汗握って読んじゃいました! 予想外の展開からの、ここまでの帰結をこんなに鮮やかに描ききってらして、ちょっと嫉妬します(笑) 裏方見守りつよつよアストくんぐ…
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