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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
5/41

誤算

 その魔物が現れた瞬間──

 さっきまでの弛緩した空気が、一斉に凍りついた。


 その場にいた全員の肌が粟立つ。

 あまりにも異質で、あまりにも規格外な存在の登場。


 先ほどまで交戦していた魔物などとは、次元そのものが違う。

 一ランク……いや、少なくとも二ランクは上の存在。

 誰もが、それをなぜか“確信”していた。


 彼らの目の前に立つその魔物──

 それは、“アリ”を思わせる姿。


 直立した二足の足。

 顔の造形は、完全に”アリ”のそれ。


 胴体からは四本の腕が伸び、

 その黒く分厚い骨格は、まるで漆黒のスーツでも着込んでいるかのよう。


 四本の腕を組み、堂々と立ち尽くすその姿は──

 むしろ人間のような風格すら漂わせていた。


 魔物の名は《ノクシア》。

 特A級魔物。


 この世界の住民にとって、極めて危険な存在。

 勿論、理論上は、“倒すことが可能な存在”でもある。


 しかし、この場にいる者たちでは、

 仮に全員でかかろうとも、まるで歯が立たない。

 その実力差は、考えるのも馬鹿らしいほど歴然としていた。


 それを冒険者たちも肌で感じ取っているのか、誰も動くことが出来ない。

 恐怖が、あらゆる判断を奪っていく。


 そして──その沈黙の中で、

 ついに一人が耐え切れず、叫び声とともに逃げ出そうと走りだした。


 その瞬間。

 男の首から上が、音もなく、消えた。


 主人を失った胴体は、しばらくの間そのまま走り続け──

 そして、ずるりと崩れ落ちる。


 地面には、広がる血の海。


 先程まで、全員の目の前にいた、《ノクシア》の腕には、

 いつの間にか、逃げ出した男の“頭部”が握られていた。

 崩れ行く男の身体を見て、声をあげる。


 キイキイと音を立てて。

 まるで、それを“楽しんでいる”かのように。


 そこから先は、まさに地獄絵図だった。


 悲鳴。逃走。絶望。


 逃げようとする者を、一人、また一人──

 その首を、容赦なくもぎ取っていく。


 まるで、「逃げる者から殺す」とでも言わんばかりの選別。


 血は砂漠の土を黒く染め上げていく。

 その場は、まさしく阿鼻叫喚。恐慌そのもの。


 《ノクシア》は、甲高く笑うような音を響かせながら──

 その光景に悦びすら見せていた。


 そして、俺──アストは、呆然とその姿を見ていた。


「……なんだこれは……俺は、こんなの、設定してない……」


 目の前の光景に、思考に追いつかない。

 混乱。否定。焦燥。


 俺がこの魔物に与えたはずの設定は──違う。


 《ノクシア》

 その存在は、強大な力を持ちつつも、騎士道精神を重んじる“誇り高き戦士”だった。


 逃げる者は追わない。

 挑んでくる者とだけ戦い、無意味に殺さず。

 魔物でありながら、強者との戦いをこそ楽しむ、孤高の戦士。


 だからこそ、俺は──

 ティアナたちが戦っていた魔物よりも、この魔物の方が安全だと考えた。


 戦いになっても、《ノクシア》ならば、無暗に命を奪うことはない──

 仮に戦わずに、全員逃げれば、誰もケガすることなく逃げられる。

 そんな保証すら、あったはずだった。


 だが。

 そう信じていたはずの設定が、目の前であっさりと裏切っていく。


 俺はようやく我に返り、慌てて、目の前の魔物のステータス情報を確認する。


 そして──見つけた。


 魔物のステータスの後半に、見覚えのない一文が追加されている。


 > 非常に残忍な性格。

 > 逃げるものから積極的に殺し、さらに恐怖を与える事を好む。


 ……俺は、そんな性格の項目を入れた覚えはない。


 その時──

 あの“創造主”の姿が、脳裏にちらつく。


「普通ばかりでは、楽しくないだろう?」


 まるで、そんな声が聞こえた気がした。


 現状を見渡すと、今、生き残っているパーティーは、もはやたった一組だけ。


 ティアナたちだ。


 彼女らは、途中で“逃げる者が狙われている”という事実に気づき、

 あえて動かずにいたのだ。


 その選択が、結果として彼らを救った。

 ……今のところは、だが。


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