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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
エルフ大陸編
38/41

決着

 先ほどまでの戦いが嘘だったかのように、海は平然としている。 波は静まり、空は澄み渡り、ただ風だけが甲板を撫でていた。


 誰もが、今、目の前にある光景が信じられず、声を発することができない。


 しばらくの沈黙のあと――


「マジか……。あの化け物を俺たちが倒したのか?」


 震える声でようやく、ザエルが口を開く。 その震えは恐怖ではない。歓喜に満ちた、喜びの震えだった。


「……ふん。まあ、悪くないだろう。人間にしては上出来だ」


 リューシャは鞘に剣を収め、振り返り、ゆっくりと船の中心に歩みを進める。


 その瞬間、甲板にいた男たちから歓喜の声が上がった。


「うおおおおおお!! 最高です、姐さん!」

「……あ、姐さん、だと?」


 予想外の呼び方に、リューシャは眉をひそめる。 その声には、わずかに困惑と――否定しきれないわずかな照れが滲んでいた。


「あの絶望的な状況の中で、一人船首に向かって進んでいく姿。あれは漢ですぜ」

「ああ、お頭ですら諦めかけてたからな。背中で見せる漢気。仮に男でも惚れちまう」

「おいおい、お前らだって死んだような顔してたじゃねぇか!」


 ザエルと船員たちが口々に言葉を交わし、笑い声が甲板に広がっていく。 それは、命を拾った者たちだけが持つ、張り詰めた糸が切れたような笑いだった。


 ようやく現実味を帯びてきたのか、船全体に喜びと安堵の輪が広がっていく。


 小型の魔物たちも、波にさらわれたのか、リューシャの一刀で切り払われたのか―― いつの間にか、すべていなくなっていた。


 囃し立てる船員たちを鬱陶しそうに横目に見ながら、 リューシャは静かな歩みで近づいてきて、俺の目の前で跪いた。


「申し訳ございません……神獣様。あなたの……おっしゃる通りでした」


「何も問題ありません。リューシャは無事やり遂げました。 褒めこそすれ、何も謝ることはありませんよ」


 リューシャは、「ありがとうございます」という小さな声とともにその状態のまま、 再び深々と、頭を下げた。


 その様子を見て、甲板に広がっていた笑い声が、ふと止まる。


 さっきまで英雄として讃えられていた彼女が、何もしていない俺に跪いている。


 船員たちが、言葉を失ったようにこちらを見つめ、 その視線が、訝し気に俺の足元に集まっているのが分かった。


(……あ、確かによくよく考えたらこの構図おかしいよな? それに、リューシャがしれっとザエルに向かって「人間にしては」とか、 俺のことを「神獣様」って呼んじゃってるし……)


 今さら、話題を変えても彼らは納得しないだろう。


 それよりも、このまま変な噂が流れて面倒なことになるくらいなら、 いっそのこと本当のことを喋って秘密にしてもらった方がいいかもしれない。


 ……ちょうど、おあつらえ向きのやつもいるしな。


 瞬時にそう結論づけた俺は、こちらを見ている船員たちに向き直り告げた。


「先ほどの戦い、見事でした。 リューシャ、ザエルはもちろん、あなた方船員たち皆の力で討伐できたと言っていいでしょう。 ……ですが、まだ終わっていません」


 俺の言葉が言い終わると同時に、海がざわめき始める。


 穏やかだった波が、ゆっくりと――だが確実に、うねりを増していく。


 そして、船の遥か先。 海面が、異様な形で盛り上がっていた。


「うそ……だろ?」


 船員たちの顔に、再び悪夢が蘇る。


 海の底から、水を押しのけるように、ゆっくりと、だが確実に何かが浮かび上がってくる。


 それは、先ほどの化け物と同じ――いや、それ以上に巨大な影。


 鱗板が軋み、波が逃げるように裂けていく。


 リューシャは即座に自身の魔力の残量を確認する。 最大値の十分の一――いや、それ以下かもしれない。


 ザエルは、先ほどの一撃で弓が砕けてしまったため、否応なく腰のサーベルを抜き放つ。


 魔力切れ、武器は破損、心身ともに疲労――まさに絶体絶命。


 そんな彼らに向かって、海を割り、空を歪ませながら容赦なく“それ”は迫ってくる。


 ……だが、そんな空気を打ち破るように、声が響く。


「皆の者、心配する必要はありません。私に任せなさい」


 俺はわざとらしく、手を前に掲げ魔法を発動した。


 ――詠唱。ヴァル=ノクス。


 天から降り注いだのは、一筋の閃光。


 それは、ただの光ではなかった。 空を裂き、空間を焼き、存在そのものを否定するような魔力の奔流。


 化け物の頭上に直撃したその魔法は、やすやすとミスリルの鱗板を貫通し、 肉体を焼き、神経を断ち、心臓の鼓動すら止めた。


 予備動作も無く放たれたその魔法に巨体は、叫ぶ間も抗う事も無く、崩れ落ちる。


 あまりにも一瞬の出来事に、先ほどとは違う意味で――再び静まり返る。


 しばしの沈黙の後、声を発したのはこの男だった。


 近くにいた部下の肩にポンと手をのせ、小さく囁く。


「な、言っただろ……。あっちの姉ちゃんのほうがよっぽど怖ぇって」

後書き少し長いです。

ちょっとした苦労話に興味があればご覧ください......笑


いや~めっちゃ頑張った!

ちゃんとした戦いをまさかの海戦から始めてしまい、かなり苦労しました。。。笑


あんまり今まで見たラノベで、海の戦いのシーンがある作品を読んできておらず、はじめたはいいものの、これどうやって戦えばいいのかとか、どんな敵にすればいいのかもさっぱり分からんって思いながら書き進めました。


プロットと呼べるものではないですが、今回についてはさすがに、とりあえず段階的にここでこういうシーンを入れたいとか、最終的にこういう決着にしたいとかを、ある程度整理したので個人的にはなんとかうまくまとめられたんじゃないかなと思ってます(*'▽')

(多少強引な所は雰囲気で読み進めて頂けると助かります......)


海を走ると言う荒業を使ったり、魔法を使えなくしたり、スキルを強引に出してきたり、色々ありましたがとりあえずオッケーと言う事で笑


以上、私の個人的な苦労話にお付き合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m


※ここまで読んで頂いたお優しい方。。。

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― 新着の感想 ―
いやー、めっちゃ良かったです(*>ω<ノノ゛☆パチパチ 個人的にはこのお話、ここまで読んできた中で一番の手に汗握る一大スペクタクルバトルでした! 確かに海戦って難しいイメージありますね。でもめっちゃち…
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