共闘
また、ブックマーク増えてた。。
本当に、ありがとうございます(≧▽≦)!!
「よし、ど真ん中!」
ザエルの言葉通り、矢は狙い通りの場所に直撃し、その威力はレヴィウスの固い鱗板を破壊した。 本来であれば、誰からも称賛されるまさに神業。
……だが、ここではそれが新たな脅威への引き金になってしまう。
突如、レヴィウスが咆哮を上げた。 それは、大声などという生易しいものではない。 その声は大気を震わせ、波をうねらせ、質をともなう暴力となって降り注ぐ。
さらに、深刻な問題が発生する。
「魔力が……練れない」
豹変したレヴィウスの行動に、危険を察知したリューシャは再び船の看板に戻ってきていた。 彼女の表情は、これまでに見たことのないほど険しい。
手を握り、魔力を練ろうとするが――空気が重く、魔力の流れが断ち切られている。 まるで、世界そのものが魔法を拒絶しているかのように霧散してしまう。
リューシャからこぼれたその一言は、まさに危機的状況と呼ぶにふさわしいものだった。
混乱は、まだ終わらない。
レヴィウスは突然、海の中へとその巨体を沈めた。 水面が揺れ、泡が立ち――やがて、何も起こらなくなる。
慌ただしい争いが嘘だったかのように、時間が止まったかのような静けさが、海を支配する。 まるで、世界そのものが息を潜めているようだった。
(まさか……逃げたのか?)
誰もがそう思った、まさにその瞬間。
海の底から、轟音が鳴り響く。
その音が徐々に近づくにつれ、海面が異常なほど盛り上がり始める。 その高さは見る見るうちに大きくなり、やがてビルの高さほどの波が、凄まじい圧力を持ってこちらに迫ってくる。
空が陰り、風が止み、ただ“それ”だけが、世界を飲み込もうとしていた。
*
「これは、万事休すか……?」
ザエルは、目の前に迫りくる脅威を前に、半ば諦めたような表情をしている。 海の恐ろしさを知る船員たちも、皆、絶望の表情を浮かべていた。
……だが、その中で一人。
何事もないような顔で、リューシャは船首に向かって歩き出す。 絶望も、諦めも、微塵も感じさせない。
それは、往生際の悪さなどという陳腐なものではなかった。 明らかに――まだ戦う意思を宿した者の眼差し。
「何を呆けている。やつが姿を現したんだ、仕留めるぞ」
リューシャのその誘いに、ザエルは力なく返す。
「でも、あんたも魔法が使えないんだろ? あの波をどうするつもりだ?」
「魔法が使えないとは言っていない。 大気中に魔力が練れないだけだ。――ならば、こうすればよい」
リューシャは腰に下げた剣を抜き放ち、魔力を込める。
魔力を注がれた剣は、淡く光を帯び、やがて圧倒的な魔力を内包する刃へと変貌する。
リューシャのスキル――《エンチャント》。
それは、物質に魔法を付与するスキル。 内容自体はシンプルだが、それゆえに魔力が膨大な者がこれを使用すれば、 付与された武器は、どんな名刀よりも凶悪な出力を持つ“魔刃”となる。
「時間がない。早くそれをこちらによこせ」
「あ、ああ……」
リューシャの勢いに流されるまま、ザエルは手元の弓と矢を差し出す。
「ふむ……人間が使っていたものなど、触れたくもないが……仕方あるまい」
先ほどと同じく、光があふれ出す。 その輝きは、まるでおとぎ話に登場する伝説の武器のようだった。
「一射なら耐えられるだろう。外すなよ」
リューシャはそう言いながら、弓と矢をザエルに向かって放り投げた。 彼は慌ててそれを受け取る。
「おい、姉ちゃん、どうするつもりだ! 逃げ場はないぞ……!」
「逃げる? この状況で冗談とは、面白いやつだな」
リューシャは、波の向こうを見据えたまま言い放つ。
「よく聞け。今から私が道を作る。 お前は、先ほどと同じ箇所を――確実に打ち抜け」
まるで分厚い城壁のように連なる波が、押し寄せてくる。 到達まで、あと数秒。
「確実に仕留めろ」
リューシャは迫りくる波に向けて、剣を正中に構える。 そして――振り下ろした。
再び、轟音。
凄まじい衝撃波が発生し、船体が軋むほどに揺れる。
衝撃波は一直線に波へと突き進み、ぶつかり、裂き、なおも止まらない。 二つに割れた波の狭間を突き抜け、やがてその先――波の発生源へと到達する。
ギャリン!!――金属同士が激突したような、硬質な音が遠くで響く。
リューシャの一刀は、遥か彼方のレヴィウスにすら届いた。
……だが、魔力を帯びたその一刀は鱗板に阻まれ、ダメージはない。
一瞬、硬直したレヴィウスは、自身に傷がないことを確認すると―― うっすらと、笑ったように見えた。
「いまだ! やれ!」
リューシャの叫びと同時に、再び空気が震える。
光の矢。
まるでリューシャの声に呼応するような勢いで放たれた一撃が、一直線に一点へと吸い込まれていく。
着弾。
鱗板がはがれ、むき出しになった皮膚に、矢は深々と突き刺さる。 矢に込められたリューシャの魔力が、解き放たれた。
レヴィウスの内部で、荒れ狂う力。
声にならない咆哮を上げ、のたうち回る巨体。 そのたびに、嵐のように海面が波打ち、船が大きく揺れる。
……どれぐらい経ったのかは分からない。
しばらくして――波が静まり、視界が開けてくる。
そこに見えたのは、ぴくりとも動かなくなった巨獣の姿だった。




