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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
エルフ大陸編
37/41

共闘

また、ブックマーク増えてた。。

本当に、ありがとうございます(≧▽≦)!!

「よし、ど真ん中!」


 ザエルの言葉通り、矢は狙い通りの場所に直撃し、その威力はレヴィウスの固い鱗板を破壊した。 本来であれば、誰からも称賛されるまさに神業。


 ……だが、ここではそれが新たな脅威への引き金になってしまう。


 突如、レヴィウスが咆哮を上げた。 それは、大声などという生易しいものではない。 その声は大気を震わせ、波をうねらせ、質をともなう暴力となって降り注ぐ。


 さらに、深刻な問題が発生する。


「魔力が……練れない」


 豹変したレヴィウスの行動に、危険を察知したリューシャは再び船の看板に戻ってきていた。 彼女の表情は、これまでに見たことのないほど険しい。


 手を握り、魔力を練ろうとするが――空気が重く、魔力の流れが断ち切られている。 まるで、世界そのものが魔法を拒絶しているかのように霧散してしまう。


 リューシャからこぼれたその一言は、まさに危機的状況と呼ぶにふさわしいものだった。


 混乱は、まだ終わらない。


 レヴィウスは突然、海の中へとその巨体を沈めた。 水面が揺れ、泡が立ち――やがて、何も起こらなくなる。


 慌ただしい争いが嘘だったかのように、時間が止まったかのような静けさが、海を支配する。 まるで、世界そのものが息を潜めているようだった。


(まさか……逃げたのか?)


 誰もがそう思った、まさにその瞬間。


 海の底から、轟音が鳴り響く。


 その音が徐々に近づくにつれ、海面が異常なほど盛り上がり始める。 その高さは見る見るうちに大きくなり、やがてビルの高さほどの波が、凄まじい圧力を持ってこちらに迫ってくる。


 空が陰り、風が止み、ただ“それ”だけが、世界を飲み込もうとしていた。


 *


「これは、万事休すか……?」


 ザエルは、目の前に迫りくる脅威を前に、半ば諦めたような表情をしている。 海の恐ろしさを知る船員たちも、皆、絶望の表情を浮かべていた。


 ……だが、その中で一人。


 何事もないような顔で、リューシャは船首に向かって歩き出す。 絶望も、諦めも、微塵も感じさせない。


 それは、往生際の悪さなどという陳腐なものではなかった。 明らかに――まだ戦う意思を宿した者の眼差し。


「何を呆けている。やつが姿を現したんだ、仕留めるぞ」


 リューシャのその誘いに、ザエルは力なく返す。


「でも、あんたも魔法が使えないんだろ? あの波をどうするつもりだ?」


「魔法が使えないとは言っていない。 大気中に魔力が練れないだけだ。――ならば、こうすればよい」


 リューシャは腰に下げた剣を抜き放ち、魔力を込める。


 魔力を注がれた剣は、淡く光を帯び、やがて圧倒的な魔力を内包する刃へと変貌する。


 リューシャのスキル――《エンチャント》。


 それは、物質に魔法を付与するスキル。 内容自体はシンプルだが、それゆえに魔力が膨大な者がこれを使用すれば、 付与された武器は、どんな名刀よりも凶悪な出力を持つ“魔刃”となる。


「時間がない。早くそれをこちらによこせ」


「あ、ああ……」


 リューシャの勢いに流されるまま、ザエルは手元の弓と矢を差し出す。


「ふむ……人間が使っていたものなど、触れたくもないが……仕方あるまい」


 先ほどと同じく、光があふれ出す。 その輝きは、まるでおとぎ話に登場する伝説の武器のようだった。


「一射なら耐えられるだろう。外すなよ」


 リューシャはそう言いながら、弓と矢をザエルに向かって放り投げた。 彼は慌ててそれを受け取る。


「おい、姉ちゃん、どうするつもりだ! 逃げ場はないぞ……!」


「逃げる? この状況で冗談とは、面白いやつだな」


 リューシャは、波の向こうを見据えたまま言い放つ。


「よく聞け。今から私が道を作る。 お前は、先ほどと同じ箇所を――確実に打ち抜け」


 まるで分厚い城壁のように連なる波が、押し寄せてくる。 到達まで、あと数秒。


「確実に仕留めろ」


 リューシャは迫りくる波に向けて、剣を正中に構える。 そして――振り下ろした。


 再び、轟音。


 凄まじい衝撃波が発生し、船体が軋むほどに揺れる。


 衝撃波は一直線に波へと突き進み、ぶつかり、裂き、なおも止まらない。 二つに割れた波の狭間を突き抜け、やがてその先――波の発生源へと到達する。


 ギャリン!!――金属同士が激突したような、硬質な音が遠くで響く。


 リューシャの一刀は、遥か彼方のレヴィウスにすら届いた。


 ……だが、魔力を帯びたその一刀は鱗板に阻まれ、ダメージはない。


 一瞬、硬直したレヴィウスは、自身に傷がないことを確認すると―― うっすらと、笑ったように見えた。


「いまだ! やれ!」


 リューシャの叫びと同時に、再び空気が震える。


 光の矢。


 まるでリューシャの声に呼応するような勢いで放たれた一撃が、一直線に一点へと吸い込まれていく。


 着弾。


 鱗板がはがれ、むき出しになった皮膚に、矢は深々と突き刺さる。 矢に込められたリューシャの魔力が、解き放たれた。


 レヴィウスの内部で、荒れ狂う力。


 声にならない咆哮を上げ、のたうち回る巨体。 そのたびに、嵐のように海面が波打ち、船が大きく揺れる。


 ……どれぐらい経ったのかは分からない。


 しばらくして――波が静まり、視界が開けてくる。


 そこに見えたのは、ぴくりとも動かなくなった巨獣の姿だった。

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