強者vs強者
海の上を、風を纏って駆けるリューシャ――その姿は、まるで空を裂く閃光のようだった。
波を蹴り、風を操りながら、彼女は一直線にレヴィウスへと向かっていく。
やがて彼女の魔力の高まりと合わせるように、空気が震え、海面がざわめき、そして空が一瞬だけ暗く染まる。
――詠唱。ハザードストーム。
解き放たれた言葉に呼応するように、風が咆哮を上げ、巨大な刃のような竜巻が、海面を切り裂きながらレヴィウスの胴体へと襲いかかった。
だが、リューシャは止まらない。
――詠唱。ライトニングフォース。
――詠唱。フロスト・ノヴァ。
――詠唱。フレアピラー。
次々と繰り出される魔法が、空と海を揺るがす。
雷が海面を焦がし、氷が波を凍らせ、炎が空を焼く。
それはもはや、魔法を知らないものから見れば天変地異だった。
だが――レヴィウスは、微動だにしない。
その巨体は、雷を受けても焦げず、氷を浴びても凍らず、炎に包まれても焼けなかった。 ただ、ゆっくりと首を動かし、リューシャを見据える。
その目には、怒りも焦りもない。 あるのは――“強者”としての力を見せつける、静かな威圧感があった。
*
「……あれだけの魔法を浴びせても、びくともしねぇのかよ……」
ザエルが、目を見開いたまま呟く。 その声には、驚きと、ほんの少しの恐れが混じっていた。
「当然です。あの魔物の表面に見える鱗板――すべて、ミスリルです」
「ミスリル……って、あの?」
「ええ。魔法耐性に特化した金属。 あれに覆われている限り、魔法での攻撃は通りにくい。 今の連撃で、彼女も気づいたかもしれませんが……」
言いかけた瞬間――空気が震えた。
レヴィウスの巨体が、ゆっくりと首を持ち上げ、その周囲に急速に冷気が集まり始める。 そして、空中に――無数の氷の槍が出現した。
「ちっ!」
リューシャの舌打ちと同時に、一斉にそれは彼女へと襲いかかる。
彼女は風を纏い、海面を滑るようにしてなんとか回避に成功したが――レヴィウスは、それすら読んでいた。
次の瞬間、巨体が海面を叩くように動く。
その衝撃は、まだ遥か先にいるにもかかわらず、俺たちの乗っている船体を軋ませ、甲板を大きく揺らした。 リューシャも直撃こそ免れたが、風圧に押され、船の近くまで吹き飛ばされる。
波が跳ね上がり、空気が爆ぜる。 水しぶきが視界を覆い、甲板に打ちつけられた風が、耳をつんざいた。
その破壊力に、これまでの旅で見たことがない焦りの色が彼女の顔に浮かび、 さすがにこの状況はマズいと判断したのか、船の看板にふわりと着地する。
だが、その足取りには、わずかな乱れがあった。
「理解しましたか? わたしの言っていた意味を」
リューシャは口元をわずかに歪め、視線を逸らしながらも、頷いた。
「先ほどの行動は、不問にします。 ――ここから、頼みますよ」
俺は視線を巡らせ、リューシャとザエルの二人を見渡す。
ザエルは、状況が飲み込めていないようで、困惑した表情を浮かべていた。
「本来なら、お互いに出来ることを話し合って決めてもらいたいのですが…… 時間がありません。わたしが伝えます」
「リューシャは、ご覧の通り魔法主体の戦いです。 対してザエルは、魔法はほとんど使えませんが――あらゆる武器が使えます」
驚いたように目を見開きながら、ザエルが俺を見た。
「スキル――《戦器万象》。 数多ある武器を自在に扱う能力……ですよね?」
「……なんで、それを……」
「今は、答えている時間はありません」
俺は、レヴィウスの方へと視線を向ける。
「それよりも――来ますよ」




