海魔《レヴィウス》
甲板へと駆け上がると、そこはすでに戦場だった。
海上には、いくつもの小型魔物がうごめいている。
波を裂きながら迫り来るその姿は、まるで海そのものが牙を剥いているかのようだった。
船員たちは、船に設置された砲台をフル稼働させ、次々と魔物を撃ち落としていく。
砲弾の爆音と、魔物の断末魔が交錯する中――
運良く砲撃をすり抜けた魔物が、船の縁に取りつくが、船員たちは怯まない。
腰のサーベルを抜き、次々と甲板へ這い上がる魔物を切り払っていく。
砲台の操作も、剣の振るい方も、無駄がない。
まさに、熟練された動きそのものであった。
横にいたザエルが、得意げな顔で肩をすくめる。
「やるもんだろ? この程度の魔物なら、普段から相手してる。
雑魚はあいつらに任せていい。――俺たちが相手するのは、奥にいる“本命”だ」
ザエルの視線の先――そこに、異様な“影”があった。
最初は、ただの濃い海霧かと思ったが、違う。
上空を見ても、雲の影ではない。
その一帯の海面が、不自然に盛り上がっている。
波が、まるで何かを押し上げるようにうねり始めた。
そして――
それは、ゆっくりと形を成し始める。
海そのものが、巨大な獣の輪郭を描いていき、ついにその姿が現す。
俺の予想は、的中していた。
海魔――二体目の名付きの魔物。
その名は、《レヴィウス》。
やつが海面から姿を現した途端、空気が変わる。
俺たちの乗る船も、かなりの大きさがある。
だが、レヴィウスはそれを上回るほどの巨躯だった。
その姿は、遠目には鯨にも見える。
だが、口に並ぶ鋭い歯と、全身を覆う鱗板は、まるで巨大なワニのようだった。
波を割って現れるその姿は、まさに“海の巨獣”と呼ぶにふさわしい。
先ほどまで目を見舞うほどの動きをしていた屈強な船員たちですら、動きを止めていた。
目の前に広がるのは、常識を超えた“化け物”。
威圧感が、視線を奪い、思考を止める。
ザエルが、甲板の中央で声を張り上げた。
「おい、やろうども!呆けてるんじゃねぇ!
目の前の魔物に集中しろ!――あの化け物は、俺たちが相手する!」
その一声で、船員たちの目に再び火が灯る。
よほど、彼らに信頼されているのだろう。
「……とは、言ったものの......」
ザエルが、海に浮かぶ巨体を睨みながらぼやく。
「近づきゃ船ごと沈められる。
かといって、この距離じゃ、こっちの攻撃は届かねぇ。
――ったく、どうすりゃいいんだよ」
「問題ない」
ザエルの問いに、リューシャが短く答えた後、無言のまま船の端へと歩いていく。
……次の瞬間、彼女は海へと身を投げた。
「は?」
ザエルの間の抜けた声が、風に流れる。
俺たちは一瞬、呆然とした。
だが、すぐにザエルが走り出す。
「おい、何してんだ! 大丈夫か!?」
船縁から身を乗り出して見下ろす。
だが、海面には誰もいない。
――いや。
数メートル先。船から離れた海の上に、彼女は“立って”いた。
漂流物も、足場もない。
それでも、彼女は何事もないように、そこにいた。
「神獣様。あなたのおっしゃっていることを疑うわけではございません。
……ですが、わたしにも誇りがあります。ご容赦を」
その言葉を残し、彼女は海の上を駆け出した。
いや――正確には、風に乗って“浮いて”いる。
足が海面に触れる瞬間、風魔法で自身の体を持ち上げる。
その動きは、まるで地面を蹴って走るかのようだった。
海の上を、疾風のように。
リューシャは、レヴィウスへと一直線に向かっていく。
「おいおい、なんでもありだな……
海を走る人間なんて、初めて見たぜ。
で、あんたは行かなくていいのか?」
ザエルの言葉に、俺は内心の焦りをなんとか押し込める。
正直、リューシャの行動にはかなり動揺していた。
だが、今は冷静を装うしかない。
「え、ええ。わたしは……サポート専門ですので」
咳払いで誤魔化しつつ、話を切り替える。
「ごほん、それよりも――
戦いの準備をしてください。
あなたの力が、必要です」
ちょっとサイズ感がバグってる気がするんですが「レヴィウス」のイメージ絵も入れてみました笑
エピソード:協力者にも、ムキムキイケメンのザエル君の挿絵を入れたのでそちらも良ければご覧ください(*'▽')




