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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
エルフ大陸編
31/41

海魔の影

ブックマーク、評価ポイントをいただいた皆様!

本当にありがとうございます^_^

昨日と本日の朝、初めて200番台後半ですが、ランキングに入ることができました(T ^ T)

素人で表現が乏しいところもあると思いますが、できる限り頭に映像化しやすいように意識してますので、是非引き続きよろしくお願い致します(>人<;)

 騒動の余韻がまだ街の空気に残る中、俺とリューシャは人目を避けて、静かな路地裏で向き合っていた。


「……リューシャ。先ほどの件ですが」

「はい。……申し訳ございません」


 彼女自身も少しやり過ぎたという自覚があったらしく、素直に謝罪の言葉が返ってくる。


 旅の中でも、彼女はすでに俺のことを完全に神獣様だと信じてくれているのか、こちらの言うことはほぼ全て素直に受け入れてくれた。


 今思えば、初対面時に確認の為とは言え、獣姿の俺に彼女の方から触れてきた。

 ――あの瞬間に、すでに認められていたのかも知れないな。


「先ほどの件については、人間側にも非はありました。

 ですが、力の差を分からせる程度で十分です。以後、気をつけてください」

「……かしこまりました」


 リューシャは、静かに頷く。

 その仕草は、どこかぎこちなく――けれど、確かに彼女なりの折り合いをつけようとしているように見えた。


 感情を押し殺し、理を優先する。

 それは、彼女がエルフとして生きてきた中で、何度も繰り返してきた選択なのだろう。


「……それと。話は変わりますが――“海魔”と呼ばれる存在について。私に、心当たりがあります」


 そう。俺は彼らが話していた“海魔”とやらに、目星をつけていた。

 ザエルほどの強者が、わざわざ護衛を必要とする相手。海に出現する魔物。

 それだけで、思い当たる節は限られてくる。


 恐らく、いや間違いない。

 俺がこの世界で“名付きの魔物”として設定した存在だ。

 そして“海の魔物”といえば――あいつしかいない。


「心当たり……ですか?」

「はい、間違いないでしょう」


 俺は言葉を続け、指を二本立ててリューシャに示す。


「その魔物の討伐に際して、あなたに2つのお願いがあります」


「まず一つ目。私は、手を出しません。討伐はあなたに任せます」


 こちらについては、リューシャも元からそのつもりだったらしく、当然と言う顔で了承の返事が返ってくる。


「そして、二つ目。あのザエルという人間と――協力しなさい」


 その言葉に、リューシャは目を見開いた。

 瞳がわずかに揺れ、彼女の呼吸が一瞬だけ止まる。


 理解が追いつかないというより――受け入れがたい、という表情だった。


「“なぜあの人間と協力するのか?”――理解できないという顔ですね。

 理由は、単純です。あなた一人では勝てない」


 その瞬間、彼女の眉がわずかに動いた。


 それまで静かに従っていた彼女の声音に、はっきりと怒気が滲む。


「それは……どういう意味でしょうか?」


 言葉は丁寧だが、その奥にある感情は、鋭く尖っている。

 怒らせるのはわかっていた。だが、事実は伝えねばならない。


「言葉通りの意味です。

 ――あなた一人では、これから対峙する魔物に勝てません」


 その瞬間、リューシャの足元を中心に魔力が回り始めた。


 空気が震え、風が彼女の足元に集まり始める。

 目に見えない刃が、静かに空を裂いていくような錯覚――それは、明らかな怒りの形だった。


 エルフは誇り高い種族だ。

 “お前では勝てない” “人間と組め”なんて言われたら、例え彼女でなくてもこうなるだろう。


 だが、俺は言葉を止めなかった。


「リューシャ。よく聞きなさい。

 あなたたちが、私を見定めているように。こちらもまた――見定めている。

 あなたの行動が、後にどう影響するか。それを、考えて動きなさい」


 その言葉に、リューシャはわずかに肩を震わせた。

 歯を食いしばり、瞳に怒りと迷いを宿したまま、俺を睨みつけてくる。


 その視線は、ただの反発ではなかった。

 誇りと責任、そして――自分の中で揺れる何かを、必死に押さえ込もうとしているようだった。


 今の俺の問いかけは、彼女だけの問題ではない。

 これは、エルフという種族全体の立場に関わる話だ。


 自分の衝動だけで動いてはいけない。

 ……その意識が、彼女を落ち着かせようとしているのがわかった。


 我ながら、ずいぶんと意地の悪い言い方をしたものだと思う。

 まるで、試すように。突き放すように。


 少しずつ、創造主の性格に似てきているのではないか――

 そんな嫌な予感が、頭をよぎってしまう。


「仲良くしろ、などと言うつもりはありません。

 ただ――あの人間を、うまく使いなさい。あなたなら、それができるはずです」


 これは、人間時代に学んだちょっとした心理技術。

 部下に面倒なことを頼む時、“お前なら出来る”とそっと添えるだけで、少しだけ気持ちは前向きになる。


 言葉の力は、案外侮れない。


 例に漏れず、リューシャも――ほんの少しだけ、眉を動かしながら頷いてみせた。


「……かしこまりました」


 その声には、まだわずかな抵抗が残っていた気がするが、彼女の答えを聞いて、俺は内心少しだけ安堵する。


 こういう瞬間を見ると、彼女も、見た目の年齢相応の一面を持っているんだな――

 そんなことを思ってしまう。


 リューシャにここまでの決断をさせるのだ。


 どういう結末になろうが、俺は見届けよう。

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― 新着の感想 ―
えっ、ランキング入ってたんですか?! おめでとうございました(*’ω’ノノ゛☆パチパチ リアルタイムでお祝いしたかったー……。 さて今回はリューシャさんの揺れるエルフ心が炸裂してる回でしたね(>_<…
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