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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
3/40

冒険

 そんな平和な日常から、しばらく日が経ち……

 ティアナたちは、何やらいつもと違い、真剣な顔で帰ってきた。


 砂漠地帯に発生した魔物の群れ── 原因は不明だが、大型の魔物を中心に、この街に少しずつ近づいてきているらしい。


 街の多くの冒険者が駆り出される予定で、ティアナたちにもついに、依頼が来たとのことだ。


「防衛系は断るとペナルティがつくからね」


 そう、ティアナが笑って言ったが、カイルとエミリオは少し表情を曇らせていた。


 魔物──それは俺がこの世界に設定した存在。

 世界中のどこにでも現れ、すべての生き物にとって敵となり得るもの。


 ……でも、まだ実際に“目で見た”ことはない。

 正直、少し興味が湧いた。


 次の日、彼らは朝早くから出かけて行った。

 どこに行ったかは...言うまでもないだろう。


 様子を見に行きたいが、俺があまり表立って動くのは良くない。

 あくまでこの世界の脅威に対応するのは、この世界の住人だ。


 そんなことを考えながら、どうするべきか悩んでいたところ、

 いつものように女主人が部屋に様子を見に来た。


 あ、ちなみに女主人の名前は“カーラ”だ。


 部屋に入ってくるなり、ため息をつきながらこんな言葉を投げかけてくる。


「最近、静かだね。いつもウロチョロしてるくせに。」


 俺の身体が一瞬だけ、ビクッと震えた。

 悪さをしたのがバレた犬の気分だ。


 明らかに言葉が通じているのが分かっているかのように、

 こんな感じで時々、カーラは喋りかけてくる。


 そんな俺の様子には目もくれず、彼女は続けた。


「これは、独り言だけど……」


 カーラは窓の外をちらっと見ながら、そう呟く。


「ティアナたちは南の砂漠へ向かってるよ。C、Dランク程度ならともかく、Bランク以上が出たらあの子たちじゃ少し危ないかもしれない」


 この、CとかDとかいうのは魔物の強さランクだ。

 分かりやすさを重視する俺らしいルール。


 こういう展開、きっとみんなも一度は見たことがあるだろう。

 物語が進むにつれて、敵の強さのランクが少しずつ上がってきたかと思いきや、急に強いのが出てきてどうするんだこれってなるやつ。


 突然の格上、そして絶望……からの覚醒や援軍。

 ファンタジーって、そういうのが面白いんだよな。


「あいつらはうちの常連だからね。あんたが何者で、どうするかは知らないけど……一応伝えとくよ」


 カーラが部屋を出ていった後、伝えられた言葉に、俺は少し驚いていた。


 主人公にこういう依頼染みたセリフを伝えるのなら分かるが、

 俺はそもそもキャラクター設定すらしていないイレギュラーな存在だ。


 そんな異質の存在に、こんな話を持ちかけてくるなんて。


 この“カーラ”という女性が少し特殊なのかもしれない。

 それとも、俺が創造した世界だからこういうキャラクターが生み出されたのか。


 この世界の住人は、俺が思うよりもずっと……“自由”なのかもしれない。


 しばらく考えて、俺は決めた。

 とりあえず、手を貸すかどうかはともかくとして、南の砂漠へ向かってみよう。






 ***







 その前に…… 俺はまず、自分に出来ること、自らのスペックを確認する。


 一つは“神力(ジンリョク)”。

 どんな事象も行使できる、1日1回限定の万能能力だ。

 まさに、チート。


 二つ目は“魔法”。

 創造主いわく「魔法でなんでもできたらつまらないから」という理由で、

 魔法で出来る事に限界がある。

 詳細なリストは特に渡されていないが、一応、この世界で使用可能な魔法については俺はすべて使えるらしい。


 三つ目は“耐久力”。

 感覚的には、恐らく死なない。

 痛みがあるかどうかは分からないが、少なくとも死という概念からは離れた存在のようだ。


 ……まあ、俺が死んだら“100年後の世界”とかもへったくれもない。

 そのあたりは、当然の設定だろう。


 その他、細かい能力を整理し、街を出る準備を整える。


 出発の際には、早速、自らの存在感を薄くする魔法を使った。

 完全な透明化は“ズル”と判定されたため、実装されなかったらしい。


 幸いというべきか、街の入り口の衛兵たちは「今、外に出て行くやつなんていない」と決めつけていたようで、こちらに注意は向けられず、俺はあっさりと街の外に出ることができた。


 街から離れ、目の前に広がった光景に、思わず足を止める。


 澄んだ空気。 見渡す限りの地平線。 どこまでも広がる大地。


 当然だが、ビルも家も車もない。

  “ファンタジーの世界”がそのまま、そこにあった。


 ……俺が思い描いた世界だ。


 その事実に、胸が少しだけ高鳴る。


 一つ一つに感動しながら、俺はしばらくその場に佇んでいた。


 この世界の住民にとっては当たり前の光景かもしれない。

 だが、俺が元いた世界では恐らく一生、お目にかかることがなかっただろう。


 そんな感傷に浸りながら、徐々に本来の目的を思い出す。

 向かおう、ティアナたちが向かった南の砂漠へ。


 俺は加速魔法を自身にかけ、風のように駆ける。


 魔物とはどういう存在なのか。

 果たして俺の想像通りなのか──あるいは、それすら超えてくるのか。


 小さい頃に、新しいゲームを買ってもらった子供ようなワクワクした気持ちで、 俺はその現場へと向かった。


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― 新着の感想 ―
カーラさん教えてくれるの優しい。良いキャラしてますね。 アストの能力も明かされましたけど色々能力使えるし、神力なんてなんだそれ。えぐそうー。 どういう展開に! なるのかしら!
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