静かなる思い
エルフ大陸編の序章的なストーリーです!
人間大陸編ではあまりバトルが無かったので、この章ではバトルを少しずつ入れていこうかなと...
更新頻度は落ちるかもしれませんが、続けていきますのでよろしくお願い致します!
そんな小さな騒動もあったが、俺とリューシャは無事に都市を出発することができた。
目指すは、西の果て――エルフの大陸。
広く、そして深い森が広がる、静謐と神秘の地だ。
ワープ魔法でもあれば楽なんだが、残念ながらこの世界にそんな都合のいい移動手段は存在しない。
となると、選択肢は徒歩か馬車。
俺たちは、迷わず前者を選んだ。
理由は二つ。
まず一つ目。
俺たちが加速魔法を使って走った方が速い。
リューシャはさすがエルフの血を継いでいるだけあって、魔法の適性が非常に高い。
加速魔法を使えば、馬車なんて比べものにならない速度で大地を駆け抜けられる。
ティアナたちと旅した時は距離も短かったから馬車でも問題なかったが、 今回の距離を馬車で行くとなると……さすがに遠すぎる。
そして二つ目の理由。
俺たちが、目立ちすぎること。
かたや黒髪のハーフエルフの美女。
かたや性別不明の超絶美形。
そんな二人が馬車でのんびり旅していれば、見つかった途端、盗賊や山賊が群がってくるに違いない。
……まあ、リューシャがすべて返り討ちにするだろうから危険というよりも、面倒くさいという方が大きいが。
そんな事情もあり、俺たちは徒歩での移動を選んだ。
日中に全力で走り回ってたら、それはそれで怪しまれるので、基本的に人通りの多い街道は避けて、夜と早朝に活動するスタイル。
食料は……まあ、基本的に自給自足だ。
街道沿いに屋台なんて都合のいいものはないし、魔物を狩って食うしかない。
この世界の魔物って、見た目はやたら派手なくせに、味はまったく予想がつかない。
見た目がグロいほど美味かったり、逆に見た目が美味しそうだと死ぬほどマズかったり。
俺の創った世界のはずなのに、味覚の法則がどこにも存在しない。
毎回、命がけの闇鍋に挑んでる気分だった。
カーラの宿屋や、リベリオンでの食事がいかに美味いものであったのかを実感する。
だが、そんな中でもリューシャは、どんな魔物でも黙々と完食していた。
味に無頓着なのか、それとも本当に美味しく感じてるのか―― 無表情で食べ続ける彼女を見てると、逆にこっちが不安になってきそうだった。
感情をあまり表に出さない彼女からは、結局どういう心境で食べていたのか、旅の間では読み取ることが出来なかった。
街でしか手に入らないものが必要な時は、俺が認識疎外の魔法をかけてこっそり街に入り、調達していた。あ、ちゃんとお金は払ってるからな。そこは誠実にいこう。
こうして振り返ると、あっさりしてるように見えるけど、実際はけっこう苦労した旅だったな……。
リューシャは基本無口なので、旅の間の会話は最小限。
若干気まずさを感じなくもなかったが、俺のほうも下手に話しかけるとボロが出そうだったので、ある意味、助かってはいた。
ただ――
道中、彼女は唐突にこんな質問を投げかけてきた。
「神獣様。一つご質問してもよろしいでしょうか」
「……お答えできる内容であれば」
「神獣様は、人間をどう思われますか?」
あまりにも突然すぎて、俺は思わず反応に困る。
質問の意図が読めなかったので、慎重に言葉を返した。
「どう……とは?」
「神獣様から見た、人間という存在についてです」
「正直なところ、私は人間が好きではありません。
今も昔も、やつらは欲望のままに生き、世界を荒らす害悪です」
その言葉はあまりにも直球で、ついこの前まで人間だった俺には刺さりすぎた。
……でも、否定はできない。
俺がいた現代社会でも、確かに人間は欲望のままに自然を荒らしていた。
気まぐれに森を切り開き、居場所を奪われた動物たちは行き場を失う。
さらに争い合う人間同士が環境を破壊し尽くし、罪のないものを巻き込んでいく。
この世界でも、それは変わらない。
エルフは自然と調和を大切にするが、人間は効率や利益を重視する。
自分たちの都合が最優先――その結果、どれほど多くの悲劇が訪れたかも俺は知っている。
「エルミナのような純粋な人間も、中にはいます。ですが……ほとんどの人間は、そうではないでしょう」
リューシャの瞳は静かに、しかし確かな強さを湛えていた。
「この考えは、私以上に――これから向かうエルフの民たちの中では、もっと強く根づいています」
「……神獣様は、すべてを見た上で判断されるのでしょう。ですので、我々エルフの思いも、どうか受け止めていただけることを祈っております」
彼女の言葉は、俺の中に深く刻まれる。
……そうだ。俺は、判断をしなければならない。
この世界を、未来の姿を、どうしていくのか――それを決める立場にいる。
“100年後にどうなっているのか”
そんな創造主の漠然とした目標も、やがて目の前に現れてくるだろう。
その時、俺は何を感じているのか。
この世界を、どんな想いで視ているのか。
真剣な瞳で言葉を紡ぐ彼女を見て、俺はゆっくりと――ただ、無言で頷いた。




