思わぬ手柄
ブックマーク、評価頂いた方、本当にありがとうございます!
あんまり意識はしないようにしてたんですが、やはり頂けるとめちゃくちゃ嬉しいです笑
私も勉強の為、いろんな方の作品を見てますので、引き続き、気になる作品にはブックマーク・評価をしていきます!
その場の空気が、先ほどまでとは違う意味で凍りつく。予想外の人物の登場に、誰もが沈黙する中、グランツが口を開いた。
「ノートン…...様。どうしてこちらへ?数日前にもいらしてましたが、何かご用でしょうか」
「ふん。貴様に用などない。俺の目的はそちら――エルミナ副団長殿だ。どうだ?前に伝えていた食事の約束は」
ニタついた笑みを浮かべ、エルミナを見つめるノートン。その様子に、俺は内心で顔をしかめながら成り行きを見守る。
「ノートン様…...ありがたいお申し出ですが、私も公務で手一杯でして。申し訳ありません」
「俺の屋敷へ来れば、こんな狭苦しい場所で働かずに済むというのに。 まあ、副団長殿の、その凛々しい姿も悪くないがな。ハッハッハ!」
グランツと話すときとは打って変わって、エルミナとの会話ではやけに機嫌がいい。まあ、あんな美人を目の前にしたら誰だって浮かれるか。
「それより貴様ら、なぜ剣を抜いている?通路のど真ん中で訓練とは、迷惑にも程があるぞ」
その言葉に、全員が我に返って剣を鞘へ収めた。
思いがけない来訪者によって、張り詰めていた空気がいくらか和らぐ。
馬鹿と鋏は使いよう、とはよく言ったもんだ。
「……ん?そこにいるのは魔物か?」
(あ……やらかした)
場の空気に引きずられて、完全に動きを忘れていた。
最悪な男に、俺の姿が目に留まる。
「ふむ……見たことのない種だな。白く美しい毛並み、知性を宿していそうな瞳――」
俺を値踏みするような視線が刺さる。
人型に変化したときにも浴びたが……背筋が冷える思いしかしない。
やがて、何かを納得したような顔で、ノートンがグランツに向き直った。
「……いくらだ?」
「?」
意味を測りかねたグランツが沈黙する。
その行動に無視をされたと思ったのか、ノートンが怒鳴った。
「いくらだと聞いている!その獣はいくらで買える?取り扱いに困っているんだろう、俺が買い取ってやる!」
驚くべきことに、取り扱いに困っているという意味ではノートンの予想はあながち的外れでもない。
ああ、ちなみにノートンは何のスキルも持っていない。ただの凡人だ。
「いえ、ノートン様。こちらの魔物は危険でして……」
「危険じゃない魔物なんているものか。それに、あの瞳は只者じゃない。俺が飼いならしてやる」
ノートンはすでに俺を飼うつもりで、お付きの従者と話を進めていた。 置き場所、教育方法などなど……妄想が止まらない様子。
――その結末だけは勘弁してほしい。
そこへ、エルミナが割って入った。
「ノートン様。こちらはお譲りできません。すでに先客がおりまして」
「なに、俺より先の客がいるだと?どこのどいつだ?」
「詳しくはお伝えできず、申し訳ありません。…...ですが、代わりと言っては何ですが、近いうちにお時間が取れるかと」
「本当か!?いつだ?明日か?明後日か?」
まるで少年のように詰め寄るノートン。
俺のことなど忘れてしまったかのように、話題は完全にすり替わっていた。しかも、先ほどエルミナ本人から時間がないと断られたのも覚えていないようだ。
「近日中にご連絡差し上げます。その際は、よろしくお願いいたします」
「うむ、分かった!むさ苦しい場所に通い詰めた甲斐があったわ!それではまたな!」
スキップでもしそうな勢いで、従者を引き連れノートンは上機嫌に去っていく。まるで嵐のような男だった。
ゼンベルがエルミナのそばへ近づき、声を潜めて囁く。
「よろしいのですか?エルミナ副団長。あんな男と食事とは…」
「本音を言えば正直、断りたい。だがまあ、一度くらいは立場上、仕方ないだろう。それに、私が一人で行くとは言っていないしな。」
「……と言いますと?」
「当然、お前とアイナにも同行してもらう。私の護衛として。」
「……承知しました」
アイナは二人のやり取りを知ってか知らずか、緊迫した空気が解けたことに胸を撫で下ろしていた。
そして、グランツの方を見やると、相変わらずこちらを見つめていたが、先程までのような殺気は消えている。
ただの警戒と言ったところだろうか。視線に漂う緊張感は随分と和らいでいた。
「……エルミナ副団長。この件に関して、何か考えがあるのは分かった。 そしてその魔物、俺が殺気を飛ばし続けていたにも関わらず、一切抵抗する反応を見せなかったことは確かだ。
それは認めよう。
だが、得体の知れない存在には変わらない。
本日......遅くとも明日にはこの都市の外へ連れ出せ。さもなくば俺が切り捨てる」
そう言い残して、グランツもその場を去っていく。
残されたエルミナ、ゼンベル、アイナ――三人は揃って、静かに安堵の息を漏らした。




