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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
20/41

前途多難

 俺は、ティアナたちと別れ──

 騎士団に一時的に預けられることになった。


 エルミナが言っていた“知り合い”に連絡を取るのはかなり困難らしく、早くても数日はかかるらしい。

 彼女は信用できる部下だけに俺の存在を伝え、準備を進めることにしたようだった。


 俺の世話を任された騎士は二人。


 一人は、少し白髪の混じった男性騎士。

 騎士団長のグランツよりも、年齢は少し上だろうか。

 線は細いが、立ち姿から老いはまったく感じさせない。


 もう一人は、若い女性騎士。

 顔立ちは少しカッコいい寄り──だが、どこかティアナに似た明るさも感じられる。


 最初、女性騎士の方は、俺を見て魔物だと思ったらしく剣を抜こうとしたが──

 すぐさま、隣の男性騎士に思いっきり拳骨を食らっていた。


 そんなコントじみたやりとりを見せられつつ、エルミナに促され、彼らの自己紹介が始まる。


「私は、エルミナ副団長直下の騎士、ゼンベルと申します。 アスト様が無事、この都市で目的を果たせますよう──お守りいたします。ご安心ください」


 言葉と共に、ゼンベルは胸に片手を当て、まるで忠誠を誓うようなポーズをとった。


 その様子を横目で見ながら頭をさすり、もう一人の女性騎士が呻いている。


「いたたた……ゼンベル師匠、やりすぎ!頭から血出てない……?」


 ゼンベル──どうやら彼女の“師匠”らしい──は無言で拳を握りなおし、アイナを睨みつけた。

 もう一発食らわせるぞと、目で訴えるように。


「わかってるってば!えーっと、私はアイナ!同じく、エルミナ副団長直下の騎士です!……えーっと……ご安心ください!」


 何を安心しろというのかはさっぱりだったが、熱意だけは確かに伝わってきた。

 ──ゼンベルが怒りで小刻みに震えているのを見る限り、彼女はこの後間違いなく怒られるのだろう。


 まあ、“若いうちの苦労は買ってでもしろ”って言うしな。俺はそんな思いとともに、彼女に少しだけ同情した。


 *


 自己紹介を見届けたあと、エルミナが俺に向き直る。


「まあ、なんだ……今はちょっと騒がしいが、彼らは私の信頼する部下で、実力も確かだ。この騎士団にいる間、君の世話は彼らに任せてある。

君に我々の言葉がどこまで通じているかは分からないが、何かあれば遠慮なく伝えてくれ」


 そう言い残し、エルミナは部屋を出ていった。

 扉が閉まった途端、アイナがこちらを見つめる。


「これ……ごほん。この方が、例の神獣様ですか?」


「恐らく……としか、まだ言えませんが、エルミナ副団長の言うことなら可能性は高いでしょう」


「また例の“勘”ですか?あの人の勘はほんとに当たるからな〜。で、ゼンベル師匠の判断は?」


 そう言いながら、二人はこちらをじっと見つめてくる。


 その視線は、明らかに俺の周囲を何か見定めるように泳がせていた。

 しばしの沈黙──やがて、ゼンベルが口を開く。


「見たところ、魔力の残滓は感じられますが、これだけでは判断できません。魔法を使う魔物もいますから」


「……とはいえ、あの砂漠で使われた魔法のレベルを行使された場合── 我々は、一瞬で消し飛びます」


「怖いこと言わないでくださいよ!?魔法騎士筆頭にそんなこと言われると、笑えないですって!」


 そう言って、アイナは数歩、後ずさる。


 ──うーん。 

 疑問に思っていたが、やっぱり、どうもこの世界には俺の把握していない“能力”が存在してるような気がする。


 グランツもそうだったが、俺の魔法を“視る”ことで看破しようとしていた。


 単なるステータスの高さだけでは説明がつかない。ゼンベルも、俺を視て“残滓”とかいうものを感じていたようだし。


 つまり──魔法とは別に、“スキル的な能力”があるということだ。


 ステータスはざっくり確認していたが、正直細かい特殊項目系はあまり見てこなかった。そもそも、よほどのバランスブレイカーでない限り、関係ないと思っていたし。


 これは、創造主が付け加えた設定というよりも、俺の見落としだろう。先ほどの、エルミナの“勘”とやらも気になる。


 試しにゼンベルのステータスをちゃんと視てみたところ、「魔力探知」という項目があり── その隣に『A』と記載されていた。


 ついでにアイナも見たが、こちらはまた別の「魔力共鳴」という表記がある。


 Aというのは、練度や適性だろうか? でも、何が普通なのか、成長するのかも……分からない事だらけだ。


 ステータス関連ほぼ全部丸投げしてたからな…… また、どこかのタイミングで創造主に確認しておいたほうがいいかもしれない。


 *


 そんなやり取りの後、ゼンベルが奥の部屋から“銀色の箱”を持ってきた。


「アスト様。申し訳ありませんが、まだあなたの存在を公にはできません。そのため、こちらの“籠”にお入りいただきます」


 見たところ、カイルが買ってくれた籠と、サイズはほぼ同じ。ただし、素材は金属のようで──周囲に細かな装飾が施されている。


「こちらは魔道具でございます。外見はただの金属籠ですが、中は広々とした空間になっておりますのでご安心ください」


 ゼンベルが少し開けて見せると──確かに、籠の内部にはうっすら部屋のような構造が見えた。


 ……魔道具。


 このタイミングで、また新たなアイテムが登場し、俺の好奇心がくすぐられる。少し迷ったが、拒否する理由も無かったので、とりあえず、俺はその籠に入ることを選んだ。


 箱に飛び乗った瞬間──空間に吸い込まれるような感覚に襲われる。その途中で、こんな会話が聞こえた。


「やはり……人語は理解していそうですね」


「じゃあ、やっぱり神獣様なんですか?」


「分かりません。先程も言いましたが──魔法を使う魔物も、人語を理解する魔物も存在します」


「今の時点では、神獣様であるかは断定できません。ですが、この籠に入って頂いた以上、ひとまずは大丈夫です。 これはミスリル製。中からは一切、魔法は使えませんから」


 ……あ。


 俺はすっかり忘れていた。


 この世界は──ティアナたちのように、

 “すべてを受け入れてくれる人”ばかりじゃないってことを。


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