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『星降る誓約』

目の前に広がる世界──

それは、まさに俺が思い描いていたファンタジーそのものだった。


そして、この街の名前は、宿場町エルシア。

人間種が中心に暮らす都市のひとつだ。


意識を吸い込まれる直前、あの声の主に「最初にどこへ降り立ちたいか」を尋ねられ、散々悩んだ末に、まずは、“人間の世界”を選んだ。

結局、馴染みのある人間の方が観察しやすい──そんな打算もあったと思う。


ここは、昼は屋台やギルドが賑わい、通りは常に騒がしい。

夜は酒場や裏路地が少しばかり物騒になるが、それもこの街の“生きている感じ”を作っている。

ま、よくある王道ファンタジー世界ってやつだ。


そんな中で俺はというと……

まるで飼い猫のように、宿屋の中でゴロゴロしていた。


この姿になったときは、さすがにパニックだった。

死んだと思ったら、顔も体もない謎空間に飛ばされ、そこから犬と猫を合体させたような謎生物になって目覚める。

パニックにならない方がどうかしてる。


でも、今になって思えば、案外この白くてふわふわした体は悪くない。

しかも、大好きだった猫の可愛らしさと犬の賢そうな雰囲気を併せ持ち、耳も尻尾も自由に動かせる。


もし前の世界にこんなペットがいたら、たぶん即飼ってたと思う。

まあ、俺みたいな性格だったら絶対お断りだが。


そして、その感覚はどうやらこの世界でも通用したらしい。


俺が目を覚まし、戸惑っているところに突然「かわいい~~っ!」と一人の少女が駆け寄り、抱き上げてきた。


その時、俺は思わずドキッとした。

生まれてこのかた三十年。

そんなことを言われた記憶が無かったからだ。


いや、もしかしたらさすがに子供のころはあったのかもしれないが。


そして俺はその時、ふと思った。


これ、もし「ゴリラ」とか「ワニ」とか言ってたら、どうなってたんだろうかと。

さすがに考慮してくれたのかなと思いつつも、いや、あの創造主ならマジでそのまま放り込みかねないと思い、身震いした。


過去の自分に「グッジョブ!」と心の中で称賛する。

危うく、いきなりハードモードでスタートする所だった。


そして、後で知ったのだが、この少女の名前は、“ティアナ”というらしい。


なぜ、らしいなのかと言うと、さすがに人物一人ひとりにまで設定や名前なんてつけてられないので、ある程度は、あの創造主とやらにお任せしたからだ。


「この子、私が飼ってもいいよね!?」


「いや待て。この明らかに知性のありそうな目。新種の魔物かもしれない。」


「安全と判断するには情報が足りませんね。」


その場にいたのは、3人の若い冒険者パーティだった。


俺を拾い上げたのは、魔法使いのティアナ。

腰に剣を下げているのは、戦士のカイル。

牧師のような格好をしているのは、僧侶のエミリオ。


ギルドに所属する正式な冒険者で、街では“星降る誓約スター・オース”と呼ばれ、そこそこ活躍しているそうだ。


ちなみにパーティー名は、ティアナが勝手にギルドで登録してしまった名前だ。

二人がいない時に、こっそりと登録を済ませてしまい、後から変更できなくなったらしい。


その事実を知った時にカイルは、


「…依頼受けるたび呼ばれるのこれ…?」


と赤面し、エミリオも、


「神殿との文書提出がこれになると思うと…いささか心が重い。」


と二人はかなり不満だったようだ。


でも、ある程度名前が売れてくると気にならなくなったらしく、今では堂々と名乗っている。


俺はというと、街に散歩に連れて行ってもらった時、あのパーティ名で呼ばれているのを初めて聞いて、ついプフッと笑ってしまいそうになった。


でも……冷静になって考えてみた。


あれ? 俺が創造した世界なんだよな……

じゃあつまり、そんな中二病みたいなネーミングセンスも、俺の発想ってことじゃないか……?


……ちょっと恥ずかしい。


彼女たちの前置きが長くなったが、結局、3人での話し合いの末、ティアナは飼うことを断念し、いつも使っている宿屋の女主人に俺を預けることになった。


頑固で勝気な性格の彼女は、最初俺を預かるのを相当嫌がったが、これまでの付き合いや“弱み”をティアナがちらつかせ、しぶしぶ了承させたようだ。


その日から、俺の“宿屋生活”が始まった。


ちなみに俺の名前は、『アスト』に決定した。


最初、ティアナは『スターちゃん』とか『ムーンちゃん』とか言っていたが、

二人が全力で止めてくれた。

彼らには感謝の言葉もない。


だけど、ティアナがどうしても“星にちなんだ名前がいい!”と譲らなかったため、最終的に星の語源に由来する『アスト』に決まった。


ティアナたちが外へ出れば、俺は部屋のベッドで丸くなる。

彼らが街に戻れば、一緒に街を散歩する。


そんな日々がしばらく続いた。

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