表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
18/41

新たな役割

 突如として告げられた爆弾発言に、俺はただ唖然としていた。


 エルミナが語る神話は──こうだ。


 かつて、世界はひとつの大陸だった。

 各種族同士が手を取り合い、豊かな暮らしを営んでいたという。


 ......だが突如、ある種族間での些細な言い争いがきっかけで、平和な日々に亀裂が走る。

 そのほんの小さな争いが火種となり、やがてそれは“戦争”とも呼ぶべき規模にまで膨れ上がってしまった。


 栄華を極めていた街や都市は崩れ、穏やかだった大地は、至る所で傷つけられていく。


 やがて──ついには、これまで存在していなかった“魔物”という生き物が突然現れ、さらに世界を荒れ果てさせていった。


 世界中の民が絶望した。もうこの世界は終わりだと。


 誰もがそんな絶望と混迷にあえぐ中、突如として、天から一筋の光が降り注ぎ──何かが現れた。


 白い毛並みに包まれ、金色の瞳を宿す獣。

 ......そう、まさに神の使い。神獣様が現れたのだ。


 その力は凄まじく、暴れまわっていた魔物を次々に葬り去り、

 世界各地の種族の“王”のもとを訪れ──彼らを跪かせた。


 やがて、大陸そのものをいくつにも分断し、それぞれに“住む土地”を与え、

 こう言い残したという。


「──千年後。私はふたたびこの地に戻ってくる。

 その時、この世界を見定め──お前たちに“審判”を下す。」


 そう神獣様は告げ、天へと帰っていった──と。


 *


 神話を語り終えると、エルミナは静かに俺へと視線を向けた。


「これは、城塞都市(ルベリオン)に伝わる神話で、ごく一部の限られた者しか知らない。

 ……これも口外しないで欲しいのだが」


 言葉のトーンがわずかに変わる。


「私には、ほんのわずかだが王族の血が入っている。

 その関係で幼い頃、内地の王城に入れてもらえる機会があってね。

 偶然訪れた司書室で、この神話の存在を知った。 」


「その頃は──勿論、ただのおとぎ話だと思っていたよ。

 ......でも最近、エルシアの街で“白い獣を見かけた”という噂を耳にしてね」


 その目には、確かな追究の意思が宿っていた。

 エルミナは一呼吸おいて、続ける。


「私もそんな子供の頃の話をなぜ今、思い出したのか分からない。

 だが、なぜだか分からないが少し気になってしまい、内地にいる知り合いにそれとなく聞いてみた。

 そして……私の調べによると、その“千年後”というのは──まさに、“今”だ」


 その言葉に、ティアナたちは小さく息を呑んだ。


 千年前、と聞くと非現実的な響きだ。

 だが、“今”と続けられると途端に現実味を帯びる。


 現実味の無い神話を聞いていたはずなのに、急に自分たちの足元にそれが立ち現れてきたような──

 そんな感覚。


「……ここにいるアストが、神話に出てきた神獣様かどうかは分からない。

 だが、ここ最近の魔物の活発化や、ある種族の動き、今回の事件を見ていると──

 まったく無関係だとも思えない」


「......何より、私がかつて本で見た“その獣”の特徴と、アストがあまりにも似すぎている」


 今度は、エルミナだけでなく──ティアナたち三人も、無言で俺を見つめた。


 神話に出てくる神獣。


 俺にとっては、突拍子もない話である。

 創造主によって付け加えられたあり得ない設定。


 だが、俺はというと……正直、悩んでいた。

 ぶっちゃけ、悪くない立ち位置ではある。


 世界を救う英雄のお供として、共に旅をする──

 そんな“縛られた役割”になるのなら、俺は本気で創造主に抗議しようと思っていた。


 しかし、話を聞いている限りでは、そこまで行動が制限されるわけではない。

 世界を見て回って、最後に“審判”を下す。


 放浪旅から、“使命”のある旅に変わっただけ。

 それならば……まあ、悪くない。


 しかも、この神話は世界中で知られているものではなく、

 ごく一部の人間しか知らないようだし、それほど大事にもならないはず。


 そう──俺が望む“自由な旅”は、なんとか維持できそうだ。

 そんな思いもあり、俺は一旦、この状況を受け入れる事にした。


 *


 そんなことを考えていた時だった。


 エルミナが、ティアナたちに静かに告げる。


「……そこで、君たちにお願いがある。

 アストを、“預からせてほしい”」


 その言葉に──三人は即座に立ち上がり、声を揃えて言った。


「それは、お受けできません!」


 突然の大声での拒絶に、エルミナもわずかに目を丸くする。

 だが、すぐに切り替え、口調を変えた。


「違うな──言い方が悪かった。

 ……アストは、こちらで“預からせてもらう”」


 その声には、騎士副団長としての命令の重みが乗っていた。


 先ほどまでの柔らかな雰囲気とは違う。

 拒否権すらないと悟らせる、圧倒的な言葉の強さ。


 その空気に、ティアナたちは息を呑み──

 思わず、砂漠での魔物との戦いを思い出しそうになっていた。


 だが──それでも、ティアナは震える声を押し出す。


「アストは……私たちの、仲間です。

 アストを……どうするつもりですか?」


 そのまっすぐな視線。

 泣きそうな声でも、揺るがない意思だけはしっかり伝わる。


 エルミナはその真剣な眼差しを見てふっと微笑み──その表情を少しだけ緩めた。


「安心したまえ。アストに手を出すつもりはないよ」


「じゃあ……どうするんですか?」


「アストに“会わせたい方”がいる。

 その方は──エルフだ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ