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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
17/41

神話

「では、そろそろ本題に入ろう。

 砂漠での出来事を──改めて聞かせてもらえるだろうか」


 エルミナの言葉に、三人は素直に頷いた。


 味はともかく、どうやらリラックスは出来たようだ。


 彼らはまず、街に魔物が迫っていたという簡単な経緯から語り始める。

 その後、砂漠での様子──そして、例の魔物について。


 ティアナたちが一通り話し終えるまで、エルミナは黙って耳を傾けていた。


 そして、最後まで聞き終えたあと──

 彼女は小さく息を吐き、ぽつりと漏らす。


「……部下から受けていた報告と一致するが……やはり、にわかには信じ難いな」


 そのつぶやきに対し、ティアナが何かを発しようとした瞬間、エルミナは片手をすっと前に出す。


「すまない。君たちが嘘をついていると言っているわけではない。

 私の認識が追いつかないだけだ。気を悪くしないでくれ」


 ティアナは勘違いしたことに気づき、顔を赤くして小さく頷く。

 その様子を見て、エルミナは続けるように言った。


「正直なところ──

 ティアナさんが、普段は実力を隠していた“大魔法使い”だったと言ってくれたほうが、まだ納得できる」


 表情は崩さず、それでも静かな困惑が滲む。


「騎士団にも魔法に詳しい者がいる。

 現場を見てもらったが……使用されたであろう魔法は、団員ですら見たことのないレベルだったと聞いている。

 ──その説は、ないんだね?」


 まっすぐにティアナへ視線を向ける。


 その目は嘘を見抜こうとするものではなく、

 ただ、事実の形を確かめようとする目だった。


 ティアナは少しだけ迷ったが、はっきりと頷いた。


 その様子を見たエルミナは、軽く息をつき──

 沈黙の中で、静かに考え込む。


 応接室には再び、張りつめた空気が漂い始める。


 美人は真剣な顔でも美人だな……

 ──そんな全然関係ないことを思っていた俺の目線に、エルミナの視線が重なった。


 ちらり、と籠の中を見た彼女は、再び口を開く。


「……ふむ。そうなると、やはり確認しなくてはいけない。

 ──そちらにいるんだろう。見せてくれるかな?」


 唐突に、全員の視線が俺に集まる。


(おっと……この流れで俺がくるか)


 今の話の流れからして、“俺に何かある”と思われている可能性は高い。

 恐らくこの場に呼び出されていることから、すぐに敵対行動はされないだろうが……警戒すべきだ。


 ティアナが静かに俺に語りかける。


「アスト、出ておいで」


 同時に、籠の蓋を開けてくれた。

 それに応えて、俺はするりと応接間の床に着地した。


 その瞬間──

 エルミナの目が、見開かれる。


 その眼差しが意味するものは、驚きか。恐怖か。

 ……それとも、もっと別の何か。


 彼女の表情はすぐに落ち着きを取り戻し、再び凛とした顔に戻る。


「君が……アスト、で間違いないかな?」


 俺は理解しているような、していないような曖昧な素振りで反応しない。

 まずは、相手の反応を伺う。


 すると、代わりにティアナが答えてくれた。


「はい、間違いありません。……でも、アストが何か関係あるんですか?」


 俺が聞きたかったことを、ズバリ聞いてくれた。

 グッジョブ。


 その質問に、エルミナは言葉を選びながら迷っていた。

 ......やがて、決意の色を浮かべて口を開く。


「本来は……伝えてはいけない内容なのかもしれない。

 けれど、君たちは“当事者”だ。

 これから話すことは、口外しないと約束してくれるか?」


 その言葉に、三人は顔を見合わせ、静かに頷いた。


「……よし。それでは話そう。

 この世界に伝わる──“神話”について」


 *


 俺も話を聞きながら、心の中で頷いていた。


 うんうん。

 やはり、ファンタジーに、こういう設定はしっくりくる。


 創造主との対話の中で、

「神話とか組み込むと、世界観に深み出るかもな?」なんて冗談で言ったことがある。


 ──どうやら、あいつはそれを本当に採用してくれたらしい。


 都市の構造。エルミナの性格や所作。

 俺が脳内で描いていたこだわりを、異常な再現度で表現してくるあいつに──

 さすがに感謝の気持ちすら湧いてくる。


 ……だが。


 そんな俺の感謝を、粉々に打ち砕くような爆弾が放たれた。


「そして──その神話に出てくる白き獣。

 それが……このアストに、そっくりなのだ」


 全員の視線が、再び一斉に俺へ向けられる。


 ……ん? なんだって?


 神話に出てくる生き物に、俺が似てる?


「え……じゃあまさか、アストは……」


 エルミナは静かに、だが確かに答えた。


「ああ。

 “神獣様”──もしくはその生まれ変わりの可能性がある」


 ──あのやろう~~!!


 登場人物の設定をいじるのは百歩譲って許そう。

 だが、世界設定そのものを変えてくるのは反則だろう!!!


 俺の心の中の絶叫は、虚空に向かってこだました。


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― 新着の感想 ―
ん? 神話なのに秘匿事項……。 これは、神話内に実は一般人に知られてはいけない危険な情報が含まれていることが分かり、情報統制が敷かれているとか……? 面白くなって参りました。 あっさり正体がバレそう…
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