出会いの価値
グランツと別れたあと、俺は無事、時間内に宿に辿り着いた。
そそくさと衣服を脱ぎ、変身魔法を解除すると──
今となっては、この姿の方が落ち着く。
ふわりとベッドに跳ね戻り、尻尾を丸めてしばし休息。
予期せぬハプニングはあったものの、ノアヴェルたちを視れたこと、
そして、魔法が想像以上にうまく機能したのは大きな収穫だった。
今後も、使う機会はきっと訪れるだろう。
*
ほどなくして、ティアナたち三人が宿へ戻ってきた。
それぞれがとても満足そうな顔をしている。
都市探索を満喫してきたようだ。
すると、ティアナがふいに何かを後ろ手に隠しながら、俺の方へ近づいてきた。
なんだ……?
目の前に立った彼女は、満面の笑みとともに──
「じゃーん!」と、勢いよく手を差し出す。
俺の目に映ったのは──ネックレス?
首を傾げていると、ティアナが自然に説明を加えてくれた。
「アストにずっとお留守番させて悪かったなってことで、みんなで相談したんだ。
何か、お土産を買ってあげようって。
そしたら、これが目に入って」
彼女が持ち上げたネックレスには、この都市の騎士団紋章があしらわれていた。
通行証代わりに使ったバッジに、どこか似ている。
ティアナは自然な手つきで、俺の首元に手を伸ばす。
カチリ──首に、ネックレスが触れた。
俺はなされるがまま、じっとしていたが──
……悪くない。
それに、予期せぬサプライズのプレゼントはやっぱり嬉しい。
俺はその場で一回転。
ぶんぶんと尻尾を振って、喜びを全力でアピールした。
その姿に、三人は安堵したように胸をなで下ろす。
「良かった〜。気に入ってくれたみたいだね」
そんなティアナの安堵の声に、カイルとエミリオが続いた。
「そうだな。結局、あーでもない、こーでもないってウロウロして……
午後は、ほとんどプレゼント選びで時間使ったからな」
「でも、こんなに喜んでくれて良かったです。
頑張って探した甲斐がありましたね」
彼らの顔は、どこか誇らしげで──何より優しかった。
俺は、そんな様子を見て、ふと思った。
この世界を創った立場でありながら──
最初は彼らの名前も、存在すら知らなかった。
それが今では、まるで物語の中心にいるような光を放っている。
華々しく輝く“主人公”の裏で、こんなストーリーも存在しているのだ。
そう思うだけで──なんだか、心が躍る。
これから出会うであろう、さまざまなキャラクターたち。
その一人一人との関わりを、大切にしていこう──そう、改めて決意した。
*
「アストも喜んでくれたようだし──飯にするか!」
「賛成!」
どうやら三人は、“宿の食事が無料だから”という理由で、昼は一切食べていなかったらしい。
普通なら遠慮してしまいそうなところだが──
それをしないのが、冒険者らしいハングリーさというものだろう。
早速、部屋のベルを鳴らし──
三人は思い思いに、それぞれ好き勝手な注文を始めた。
そして今更だが、俺もこの世界に来てから人間と同じものを食べている。
この世界の料理は……どれも、やたらと美味い。
現代にいた頃、グルメ漫画を良く読んでいたせいだろうか。
自然と、その記憶が反映されているのかもしれない。
今思えば、カーラの宿の飯もかなり美味かった。
甲乙つけがたいが──
もし、あの宿がここに勝てるとすれば……それは、“飯”だ。
そんなことを考えながら、笑い声の中で食事が進む。
やがて、時間はゆっくり流れて──
夜は静かに、更けていった。




