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白き獣は世界を見下ろす  作者: HANA
人間大陸編
13/41

未来の英雄

 無事、宿を出た俺は、一つ深呼吸をする。

 そして、城塞都市(ルベリオン)の景色をこの目でしっかりと見た。


 その完成度の高さに──エルシアの時と同じく、俺は言葉を失う。


 石畳は美しく舗装され、歩くたびに靴音が水面のように優しく響く。


 高くそびえる家々は堅牢な造りで並び立ち、街並み全体に重厚な統一感を感じさせるその姿は、まさに城塞都市の城下町としての風格を十二分に体現していた。


 これが“城塞都市(ルベリオン)”か……。


 しばらく立ち尽くして街並みに見惚れていたが、俺は本来の目的を思い出す。

 今回の旅は、ティアナたちに付き添うためだけに、来たわけじゃない。


 俺の目的は──この大陸に設定した“主人公”を視ること。


 今はまだ、騎士見習いの少年に過ぎない。


 だが、これから数々の経験を積み、苦難を乗り越え──

 やがては“英雄”と呼ばれる存在に成長していく。

 それが、俺が設定した主人公の姿だ。


 ……まあ、実際はあまり直接的には関わる気はない。


 どのジャンルでも、主人公補正というやつは強力で、放っておいても大抵の困難は乗り越えてしまう。

 しかも、彼の出自や友人関係、恋愛関係なども含めて、かなり細かく設定済みだ。


 そのため、“どういう風に成長していくのか”には興味があるが──

 “物語としての新鮮味”という意味では若干、欠ける。


 それでも──彼のステータスに“余計なもの”が追加されていないかは確認しておかねばならない。


 もし、主人公補正全開で悪の道に走られてしまったら、今後の展開が全く読めなくなる。


 それはそれで面白いかもしれないが──

 これ以上、創造主に好き勝手にされるのは、さすがに癪だ。


 そんな俺自身の目的もあり、この都市にやってきた。


 俺は脳内に、構築していた都市マップを思い出しつつ、中央の城へと続く通りを進む。


 人通りの少ない裏路地をあえて選ぶことで、人目を避けながら移動し──

 無事、目的の場所へ到着した。


 少年期の“ノアヴェル”は、ここにいるはずだ。


 見つからないように少し腰をかがめ、辺りを見渡す。

 ──いた。


 彼は、騎士と訓練を行っていた。


 ここは外地と中地の境目。

 騎士団の訓練は、こうやって外地からでも見れるようになっている。


 訓練の様子を一般市民にも見せることで、騎士たちは“都市の守護者”としての存在感を示しているのだ。


 俺の視線の先では、1人の少年が、何度も剣を打ち込むも、向かい合う騎士に軽々と受け止められ、弾かれていた。


 周囲には、同じ見習いと思しき、若い訓練生が何人も座り込んでいたが──

 何度倒されても、挑み続けていたのは、彼だけだった。


 彼こそが未来の英雄、ノアヴェル。


 現在の年齢は、十五歳。


 幼さが残る爽やかな少年で、短く切り揃えた茶色の髪が陽に揺れている。


 出自は……

 いや、設定を語り始めたらキリがないので割愛しよう。


 俺は、彼の姿を確認したところで、ステータスに目を通す。


 ──名前:ノアヴェル

 ──職業:騎士見習い

 ………。


 項目をひとつひとつ、念入りに確認する。


 最後まで読み進めたが──特に異常は無い。


 俺が設定を作ったキャラ全てに手を加えているのでは……とも疑ったが、彼については特におかしな点は無く一先ず、安心した。


 だが、逆にこれで何を基準にしているのかが、分からなくなってしまった。

 このあたりは、地道に少しずつ確認していくしかなさそうだ。


 ちなみに、ノアヴェルの訓練の相手をしているのは──騎士団長、グランツ。


 設定だけ軽く組んでいたキャラだったが、一応、彼のステータスも確認してみる。


 パッと見た感じ、問題なし。


 ……だが、能力値を見て少し驚いた。


 人間種の中では──かなり高い。


 設定について、騎士団長だからそれなりの能力値にしておいてくれとは創造主に依頼していたが──

 正直、ここまでとは予想していなかった。


 先日、ティアナたちと共に戦った、砂漠の魔物・ノクシアと比較しても遜色ない。

 状況によっては、彼なら単体であれを討伐できるレベルだ。


 ……ただ、そうなると今さらながら少しやり過ぎたか。

 騎士団長クラスの敵を──ティアナたちが倒してしまった。


 あの場ではやむを得ず、咄嗟に手を出してしまったが、冷静に考えると不自然すぎる。


 明日、騎士団からどういう聴取があるのか分からないが、

 彼女たちにはうまく乗り切ってもらうしかない。


 ……そして俺は、この時完全に油断していた。


 目の前のことに、集中しすぎていて──

 周りの警戒を怠っていた。


 この直後──

 俺は、自らで作った設定に苦しめられることになる。


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