城塞都市《リベリオン》
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城塞都市の検問は、予想以上に厳しいものだった。
大陸最大の都市ということもあり、城壁の前には長蛇の列ができている。
まるで某テーマパークの入り口のようだ。
しばらく待っていると、ようやく、城門の衛兵に呼び止められた。
「そちら。身元と目的を」
無骨な声。
視線は鋭く、抑揚が無い。
いかにも衛兵って感じだ。
馬車から三人が降り、ティアナは一歩前へ出て答える。
「私たちは南方、エルシアから来た冒険者です。
騎士団の指示により砂漠地帯で発生した魔物による事件の証言と──討伐の報告に参りました」
その言葉に、衛兵は鼻で笑う。
「君たちが?
噂では何十人も死人が出たと聞いている。
あの騒ぎの元凶を君たちが討ったって?」
隣の衛兵が小声で嘲る。
「嘘はいけないよ。
どうせ大方、南の街から物資を買いに来ただけだろう?
あんまり変なことを言うと、この都市ではその騎士団に捕まってしまうよ」
そんな小馬鹿にするような言葉に、カイルの拳がわずかに握られ、エミリオも表情を曇らせる。
──俺も、馬車の中でうっすらと耳をぴくつかせた。
しばらく、ティアナと衛兵の押し問答が続く。
ティアナは言葉を尽くすが、衛兵たちは取り合わない。
目の前の若者たちが、“例の魔物”を退けた本人たちだとは、どうしても思えないらしい。
そのとき、ティアナの瞳が何かを思い出したかのように、ふと揺れる。
「……あ」
彼女はローブの袖から、小さな装飾品を取り出した。
それは──この都市の騎士団紋章を模した銀細工のバッジ。
あの場にいた騎士から渡されたもので、都市への通行証代わりとして提示するように言われていた証。
検問を通過する際に出すように言われていたのに、すっかり忘れていた。
そのバッジを目にした途端、衛兵の顔色が見る見るうちに変わっていく。
「これを……どちらで……?」
ティアナは改めて事情を説明し、手元の紋章を見せる。
すると、衛兵はすぐに「少々お待ちください」と深々と頭を下げて、衛兵室の奥へと姿を消えていった。
……しばらくして、奥から衛兵たちの上司らしき男が大慌てで現れた。
「お待たせいたしまして、大変申し訳ありません!
──ご入場の手配が整っております! こちらへどうぞ」
やけに丁寧な口調。
深々と頭を下げる彼らの姿勢は、先ほどまでとは、まるで別人だった。
都市の中に揺れながら進む馬車の中で、俺の耳に先程の衛兵たちの声が入ってきた。
「あの装飾品……騎士団幹部以外には、貸与されないって聞いたぞ」
「それを持ってるってことは、下手すりゃ貴族同等扱いってことだろ……」
「やべえ……俺らが、あんな態度取ったなんて知られたら……命が危ないかもしれない……」
彼らの声は徐々に小さくなっていく。
そんなやり取りを聞き流しながら、俺は再びティアナの膝の上で丸まっていた。
*
「……すごい街だな」
カイルが思わず目を見張る。
「エルシアと比べると、建物の造りが一段違います。
神殿らしき建物もいくつかありますし、後でじっくり見てみたいですね……」
エミリオも興味深げに、通りの並びに目を向けていた。
「道端にごみ一つ落ちてない......本当にきれいな街だね」
ティアナも感心しつつ、ほんの少し表情を曇らせる。
「……でも、なんか、肩が凝る。
ちょっと厳しすぎる空気っていうか」
三人は思い思いの感想を述べていた。
俺も本当は都市の様子を見てみたいのだが、さっきも言った通り──
この都市は原則として“人間種以外の立ち入り”は禁止されている。
それには当然、俺も含まれるだろう。
自分が創ったはずの都市のルール。
なのに、そのルールに自分が引っかかっていることに気づいて、俺は溜息をついた。
しばらくすると、目的の宿に到着したようで馬車が止まる。
指定された宿の横には立派な馬車小屋があり、そこに馬車をおかせてもらうことにしたようだ。
そして、ここからが問題。
都市のルールは当然、彼らも知っており、俺をどう連れ出すべきか悩んでいた。
そして、出た結論──
ティアナのローブ内側にしがみ付いてやり過ごす。
古典的だが、この方法に決まった。
まずは、ティアナが使える魔法の中で、対象物を一時的に少し小さく出来る魔法があるらしく、俺を子猫ぐらいのサイズに変えてもらう。
その後に、ティアナには正面側──つまり胸側にしがみつくようにと言われたのだが──
それはなんか恥ずかしいというか……うん、やめておいた。
いつもと違い必死で抵抗する俺にティアナは不思議そうな顔をしていたが、カイルも俺の意見に同意したらしく──
「ティアナ。正面に、アストを持ってくるとふくらみができるよな?」
ティアナは何を言われてるか分からず、「うん、そうだね」と答える。
「そうなると……その…言いづらいんだが、違和感と言うか……
なあ、エミリオ」
突然話を振られたエミリオも、少し顔を赤くしながら答える。
「え、ええ。そうですね。ティアナさんの体形的にそれはちょっと……」
その言葉でティアナは理解したのか、ふたりを睨みつける。
「……どういう意味かしら?」
このままでは予期せぬ争いが起きかねない。
俺は即座に、ティアナの背中側のローブの下からするりと入り込み、しがみ付いた。




