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視えすぎ女子に見つかりました

「皆のもの~!おはようー!」

 肩にかかるくらいの髪を陽気に(なび)かせながら、教室に入ってくる。

 周藤(すどう)先生って朝だるいなって瞬間はないのだろうか。ないんだろうな。

 まだこの学校に通い始めて一ヶ月ちょっとだが、とりあえずはこの先生が担任で良かったと、今のところ思っている。

 朝から晩まで元気だが、この元気を強要してこないところが良い。勝手に元気にしてるのだ。入学してすぐは暑苦しそうだなと思ったこともあったが、慣れてみると実はそんなこともない。

 むしろ、ありがたい。雨などでどれだけ憂鬱な気持ちになる日でも、この人は元気におはようしてくる。これがまあ意外とありがたく感じるものなのだということが、高校生になって初めて気付いた。


「もう五月も終わろうとしているわけですが、皆部活に入ったかな?まあ別に強制ではないんだけどね!入って損は絶対にない!絶対にね!」

 うーん、やっぱりちょっと暑苦しいかもな。


 周藤先生の部活に対する熱い演説を右から左しながら、焦点があってるか分からないくらいにぼーっとうちのクラスの担任を眺めることにした。

「よって!部活というのはだな……小華和(こはなわ)~?部活より外が気になるのか~?」


 ん?小華和?なんか珍しいな、あの子が先生からそんなありきたりな指導を受けるなんて。そう思いながら、小華和が座る一番廊下側の方に視線をふとやると、彼女とバッチリ目があった。

 しかし、彼女に熱い視線を送ったのは俺だけではなかったので、その視線の矢の勢いに驚いたのか彼女はすぐ先生の方に向き直した。


「あ、すみません。ぼーっとしてました」

「珍しいな。夜ふかしでもしたかー?」

 俺の印象値で言えば、小華和は素行が悪いやつでは全く無い。むしろ、良い印象しかない。恐らく周藤先生の評価も同等とみられ、すぐ許されていた。

 良かったな、小華和、とまた彼女に目線を移すと、再び彼女と目があってしまった。


 先生の話をちゃんと聞きたいわけではないが、仕方なくさっと教卓の方へ視線をそらした。





 「宇野(うの)くん、ちょっとこの後、時間いいかな?」


 ホームルームが終わるや否や、俺は小華和に呼び止められた。


 こういったことは初めてだ。

 普段はホームルームが終われば、誰とも言葉を交わさず、コンクリートの箱を足早に去る。誰かに声をかけられて、足を止めるなんてことは滅多にない。いや、滅多に()()()()のだ。

 ましてや、クラスメイトの女の子から声をかけられるなんて。


「え、あ、大丈夫、だけど……」

 もっと気の利いた返しはできないのか、宇野(うの)蒼斗(そうと)くん。

「ありがと。じゃあ、ちょっとここだとアレだから、外、行かない?」

「え、外?」

「カバン!持ってくるね!」


 小華和(こはなわ)結水(ゆみ)。隣の四組の男子が『五組女子推しランキング』なるものを発表しあっていたのを小耳に挟んだことがあるが、小華和はある男子からは一位の称号を手に入れていた。

 その結果に、二位ではないか、などの意見は寄せられたものの大きな異論はなかったのを記憶している。

 俺自身も異論は無い。正確に言えば、この令和という時代にランキングなどと銘打つのはいかがなものなのかと異論を唱えたくなったくらいで、そのランキングの結果には異論は無い。

 ミドルのストレートヘアーで、ぱっちりした目、ちょっとぷっくりした唇。改めて近くで見ると、確かに可愛いと認識させられる。


 そういえば、彼女は別の意味でも目立っている。ワイシャツがなぜか白いのだ。普通は淡い水色、学校指定のためみんな水色だと思っていたのだが、小華和だけ白い。知らなかったんだけど、これも学校指定なのか?俺が遅れているのか?

 そんなことを考えている間に、彼女は鞄を取りに自席へ戻っていった。俺の席からの道のりで、女子と軽い会話を交わしながら行った。……コミュ力ってこういうことか。


 小華和とちゃんと中身のある会話をした記憶はない。一度何かの授業で同じグループになったことはあった気がするが、それを『中身のある』判定をするのは甚だおこがましい。

 だがしかし、何の因果か、今日は彼女から熱い視線を送られるというイベントが発生していた。


「宇野くん?大丈夫?」

 ぼーっと小華和を眺めてしまっていた。いつの間にか小華和は俺の目の前まで到着していた。

「あ、ごめん、行こうか」

「体調悪かったりしない?無理はしないでいいからね」

「いや、大丈夫だよ」

 気遣い、丸。にしても、結構心配されているトーンだ。そんなに顔色悪く小華和を見つめてしまっていたのだろうか。だとしたら申し訳ない。変な顔で見てしまって。

「そっか、良かった。じゃあ行ける?」

 小華和は回れ右をすると、教室の後ろの扉へ向かった。

 一体どんなイベントが待ち受けているのか……。妙な胸騒ぎ、俺の心はざわついていた。


 それとは裏腹に、心なしか、その日の教室は静まり返っているように感じた。

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