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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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第90話 つい本音が

 無事買い出しを終えて学校に戻ると、長月を含めた男女数名が燐を手招きしていた。

 表情はとてもにっこりとしていたのだが、なにやら不穏な空気を感じ取ったのは俺だけではなかったらしい。

 燐は苦笑しつつも、彼女たちへ着いていき――


「――そりゃあ、接客は衣装があった方がいいとは僕も思うよ? でもさぁ、限度ってものがあると思うんだ。……僕、これでも男の子なんだけどなあ」


 完全に悟った顔で戻ってきた燐が着ていたのは、本来女子の衣装であるメイド服。

 長月は衣装の直しようがないから別のを用意すると言っていたが、やっぱりこういう流れになってしまったらしい。


 とはいえ、急拵えの女装にしては似合っている。

 ……というか、似合いすぎている。


 燐の髪はさらさらのショートヘアだし、袖から伸びる腕は既に日焼けも落ち着いて女子に負けない白さだ。

 筋肉が突きながらもほっそりとした脚は、男としての骨格を誤魔化すためか薄い黒タイツを履いている。

 肩もなで肩だからか違和感があまりない。


 しかも……気の所為でなければ、若干メイクもされているのでは?

 ナチュラルメイクだが、そのせいか男性的な雰囲気がかなり薄れている。


 つまるところ、今の燐はパッと見では男と見抜ける気がしない少女……否、美少女メイドであるからして。


 それを仕上げた長月達は満足げだ。

 心做しか肌艶も良くなっているように見える。


 教室にいた他のクラスメイトも燐のメイド服姿に沸き立っていた。

 聞こえてくるのは「似合う」「可愛い」「ついててお得だろ」などと、最後のは怪しいが肯定的な言葉が上がるばかり。


「うう……どうして僕だけこんなことに」


 居心地が悪そうにスカートの端を抑えながら呟く燐。

 今回のメイド服はコスプレチックなミニスカ系なので、下手に動けば下着が見えてしまいかねない。

 燐としてもそれは避けたいだろう。

 たとえ穿いているのが男物だったとしても。


「ごめんなさい、東雲さん。手直しが出来ると言っても、あれくらい余裕があると不格好に見えてしまうから。それならこっちの方が似合うんじゃないかと思ったんだけど……やっぱりダメそう?」


 長月が謝りつつも燐へメイド服の着心地を確かめていた。


 執事のイメージとして、きっちりと着こなしているのは重要に思える。

 色々ぶかぶかだとお茶らけているようにも見えるわけだし。


 それよりはメイド服を……というのは完全に趣味が混ざっている気もするが。


「似合う似合わないはともかくとして、確かに執事服はぶかぶかだったね。それに比べてこっちがぴったりなのは……釈然としないけど認めるよ。接客には衣装が必要だし――」


 そこまで口にして、大きなため息を一つ。

 心底呆れたというか、諦めたというか。


「……今回だけだからね」

「やったっ! ……じゃなくてっ! 東雲くん本当にありがとう!」

「はぁ……僕だって好きで着てるわけじゃないってことは理解してよ? みんなもだからね」


 燐が言葉と視線でクラスメイトへ釘を刺す。

 眺めているだけならまだしも、勝手に写真を撮っていた人もいたから打倒だろう。


 でもさ……流石に『ジト目男の娘メイド最高……!』って小声で呟いていた人は許されないと思うんだ。

 そこんとこどうなの、委員長?


 だがまあ、せめて俺くらいは燐の味方であらねば。


「燐」

「珀琥くん……僕は執事じゃなくメイドさんになるみたい」


 燐を慰めるつもりが、諦めを宿した儚い笑みを前に二の句が継げなくなってしまう。

 現実逃避する気も失せたらしい。


「……どうしても嫌なら接客役を断わってもいいんじゃないか?」

「それは僕も考えたんだけど、裏方はあんまり力になれなさそうだから。あと、僕がこの格好をしてうまく回るなら、それでもいいかなって。長月さんも準備のあれこれで疲れてるだろうし」


 自分がわがままを言ってひっかきまわしたくない気持ちは俺もわかる。

 俺はこの顔だから表に出るのは良くないと思い裏方を希望していたけど、長月の説得で受付をすることになった。


 燐の女装は別問題だと思うのだが、本人が納得? してるならいいとしよう。


「それに、僕にメイド服が似合うようにメイクしてもらったり、髪も弄ってもらったから……ちょっとだけ頑張ってみようかな、ってさ」


 えへ、と表情を崩して笑む燐に、俺は胸が痛くなる。


 長月を含めて奴らは己の癖を満たすために燐をメイドに仕立て上げたのでは、と思ってしまっているからだ。

 しかし、これを伝えては燐の決意を無駄にしてしまう。


 ……燐に知られないよう後で問い詰めねば。


「…………燐がそう言うなら俺は止めないよ。本当に辛くなったら相談してくれ」

「うん。それにしても、女装なんて久しぶりだなあ。前は中学校の文化祭でさせられたんだけど……その時もみんな似合う似合うって言ってた気がする。僕はちゃんと男の子なのにさ。珀琥くんはどう思う?」

「正直に言ってもいいか?」

「もちろん」

「燐を知らずに見たら普通に女子と思い込むレベルで似合ってる」

「そっか。……そっかぁ」


 あ、すまん。

 つい本音が。


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