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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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87/90

第87話 実践するべきです

体調崩してお休みしていました。多分今まで通り更新されます

 ――メイド喫茶に行きましょう。


 昨日の夜に月凪が言いだし、休日である今日はメイド喫茶へ足を運ぶことになった。


 なんでメイド喫茶に行こうなんて言いだしたのか聞いてみたところ「やるからには本物を見ておくべきだと思いまして」と語っていた。

 メイド喫茶的には本物なんだろうけどさ。

 そういうとこで変にやる気を出すのは月凪らしいというか、なんというか。


 多分、この前のお試しに納得できなかったのだろう。

 全体的なクオリティではなく、自分の振舞いに。


 だから実際にメイド喫茶へ行き、間近で接客のお手本を見て覚えるつもりらしい。

 イメージを固める意味では納得の理由だ。


「ここ、ですね」


 月凪の案内で到着したのは駅前の大きな通りから少しだけ奥まった雑居ビルの中に入っているメイド喫茶。

 裏通りだからか人通りは少なめ。

 もっと奥に行くとアングラな店もあるのだが、ここはちゃんと健全な店。


 立地はともかく、ビルの中だから店に入る抵抗感は薄い。

 月凪もちゃんと調べているだろうから安全な店のはず。

 それに、店が続いているってことは、それなりに繁盛している証拠でもある。


 やけにポップな装飾がされた扉を前にして、変な緊張を感じてしまう。


 メイド喫茶に来るのが初めてだからか?


 とはいえ、ここで立ち止まっている訳にもいかない。

 意を決してドアノブに手をかけ、引く。


 からんころん、と綺麗に響く鈴の音。

 かかっている穏やかな曲調のBGMに混じって、「お待たせしました~特製オムライスですっ!」と、料理を提供する女性の声が聞こえてくる。

 楽しそうなそれを口にしているのはメイド服――学園祭で使うのと似たようなミニスカタイプを着こなしている店員だ。


 なので、ここは本格的なメイドを体験する場ではなく、コスプレ風メイドに接客をされるための店というわけだ。

 ……なんでかホワイトプリムの代わりに猫耳カチューシャを付けてるけども。


 見慣れない景色に目を奪われていると、


「――おかえりなさいませご主人様! お嬢様!」


 接客のために駆け寄ってきた店員……メイド。

 朗らかな笑みを浮かべるその人も、狐耳と思われるカチューシャを付けていた。


 ここまで来れば流石に俺もわかる。

 普通のメイド喫茶ではなく、ケモ耳メイド喫茶だと。


 ……月凪は知っていたんだろうか。

 見逃すはずはないし、そこが重要ではない評価なのかもしれない。


 そのまま席に案内をされ、お辞儀をして去っていく。

 今のところ客をご主人様・お嬢様として扱い、服装がメイド服なこと以外は普通の飲食店に見える。

 変なサービスがあっても困るのはそうなんだけどさ。


「珀琥」

「なんだ?」

「ご主人様とかお嬢様って呼ばれるのがこんなにもくすぐったく感じるとは思っていませんでした」

「気持ちはわかる。それはまあ、慣れの部分が大きいと思うぞ。メイド喫茶がそもそもそういう振る舞いを要求される場なわけだし」

「ですよねえ。とはいえ、これにハマる人がいるのもわかります。言い方が悪いかもしれませんけど、変な中毒性があると言いますか……」


 月凪は妙にそわそわした様子で周りを見渡している。

 自分が学園祭でメイドとして接客をするからなのもあるだろう。


 それはそれとして、月凪がメイドという存在を好きなのでは疑惑がある。

 自前のメイド服を持っているくらいだし。


「とりあえずメニュー表を見てみますか」

「だな」


 メニュー表を開いてみれば、並んでいるのはオーソドックスなものが多い。

 メイド喫茶――喫茶店の枠から外れないコーヒーや紅茶、ケーキなんかはもちろん、店に入った時に聞こえてきたオムライスやナポリタンみたいなものもある。

 そのどれも『メイドさんの愛情たっぷり♡』だとか『ご主人様のために作りました!』だとか、変な枕詞がついていた。


 まあ、丹精込めて作りましたって意味だろう……多分。

 それは俺も料理を作る身として納得できる。


 だからって味が変わるかどうかは正直怪しいとも思うけど。


「こういうのって何を頼むのがいいんでしょう」

「看板メニューは安牌じゃないか?」

「となると、オムライスやナポリタン……二人で別のを頼めばちょうど良さそうですね。私はナポリタンにしてみます」

「なら、俺はオムライスか。楽しみだな。あんまり外食する機会もないし」

「ですね。自分で作る料理との違いも気になります」


 決まったところで呼鈴で店員を呼び、注文を済ませる。

 その際のやり取りを月凪は見逃さないようにと熱心に見ていた。


 本番では練習よりもさらにそれらしくなっているのだろう。

 学園祭に前向きなのはいいことだと思う反面、無理をさせていないかと気になったが……表情を見ている限りは杞憂に思える。


「メイドはともかく、接客がそもそも難しいですね」

「一日二日で身に着くなら苦労はないさ」

「学園祭までは練習あるのみ、ということでしょう」

「……つまり?」

「覚えたものは実践するべきです。帰ったらそういうことなので」

「はいはい。気が済むまで付き合いますとも」


 相手役がいた方がいいだろうしな。

 そういう日も、悪くない。


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