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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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86/90

第86話 二人のメイド

「着替えました」

「入っていいよーっ」


 教室で着替えていた二人からの呼びかけの後、ドアが開かれる。

 すると、そこにはメイド服に着替えた二人がいた。


 月凪はやや照れくさそうに目元を伏せがちにしながら。

 花葉はテンションが上がった楽しそうな表情を浮かべて自らの姿を見せていた。


 どちらのメイド服もコスプレ系。

 近しい形で言えばエプロンドレスだろう。


 上は半袖丈、下は膝上までのスカート。

 肩から腰へ繋がる紐ではフリルが大きな波を打っている。

 胸元では蝶型のリボンが主張していて、白のエプロンの下で黒いスカートがひらひらと揺れていた。


 頭の上にも忘れず白いホワイトプリムのカチューシャが飾られている。

 そして、すらりと伸びる脚は白のニーソックスに包まれていて、全体的に楚々とした雰囲気を醸していた。


 長月が調整したメイド服を誂えたかのように着こなす二人は、どこからどう見てもメイドだった。


 クラスメイトの男女ともに「おお……」と感嘆の声を上げた。

 月凪と花葉、両者とも容姿に優れる女子だけに、誰もがメイド服も似合うだろうと想定していたはず。


 俺も別のメイド服を着た月凪を見ているから心配は全くしていなかった。

 ……メイド服姿を見る生活は普通なのか、って疑問は置いといて。


 俺が抱いた感想も他と同じ。

 月凪も花葉もめちゃくちゃ似合うな、という至極単純なもの。


「どう? 似合う?」


 調子に乗ってポージングまでしながら訊く花葉へ、口々に肯定の言葉が送られる。

 まんざらでもなく花葉が笑っていた。


「コスプレっぽい奴だったけど、着てみると案外様になるねー。ちょいちょい生地が薄い気もするし、これで接客をするって考えると微妙に恥ずかしいんだけどさ」

「私も樹黄さと同意見ですね。慣れの問題なのはわかるんですが、どうしてもコスプレ感が頭から抜けないと言いますか」

「そこは申し訳ないけど我慢してもらうしかないかなあ。もっとしっかりしたやつなら着心地もいいと思うんだけど、人数もいるからそこまで予算を回せないし……」

「わかってるからだいじょぶだって、いいんちょー。それにさ、これはこれでよくない? 高校の学園祭って感じがしてさ」


 言いつつ、それっぽくスカートの端を摘まんでお辞儀をして見せる花葉。

 カーテシーだったか?

 丈が短いから見えないかとひやひやする。


 花葉は見えない確信があってやっているんだろうけど、俺は男だからか感覚がどうにもわからない。


 あと、目のやり場に困るので控えていただけたりしないだろうか。

 俺の他の男子数人も目を背けてるし。


「けれど……このメイド服、デザインが可愛いですね。フリルとリボンがつくだけでこんなに雰囲気が変わるとは思いませんでした」


 月凪がメイド服を触りつつ、しみじみと呟く。


 学園祭で衣装に選ばれたのは、月凪が持っているメイド服と違って可愛さとカジュアルさに重きを置いているコスプレ風。

 本場のメイドが着るようなクラシカルタイプではないために、同じメイド服の括りでも、かなり雰囲気が違って見える。

 俺の目からしてもそうだから、実際に着ているはさらに感覚が違うことだろう。


「もしかして白藤さん、メイド服はクラシカルタイプ派だった?」

「どちらかと言えば、という程度です。可愛いなとは思いますよ。こういう趣向についてもそれなりに理解はあるつもりですし」


 本当に嫌なら月凪は初めから強く断っている。

 そうしていないのは敵を作りたくない考えもあるだろうが……そもそもの話、月凪は結構なオタク気質であるからして。

 若干悪乗りが入ったコスプレを求められようとも、学園祭の出し物として決まり、正当な理由で必要性を説かれれば受け入れるのだ。


「二人がこの様子なら衣装は問題なさそうだね。それじゃあ、ちょっと一連の動きを練習してみましょう。二人は接客をお願いします」

「わかりました」

「任せてよ」

「では、テーブルを準備して……お客さん役は桑染くんにお願いしてもいいですか?」

「……俺?」

「そうです。初めての練習ですし、親しい相手の方が二人も変に緊張しないで済むと思いますから」


 長月の理由はもっともで、少なくとも俺には否定する材料が見当たらない。


「二人は接客の方法ってわかるのか?」

「……見様見真似でよければ、ですね」

「あたしもそんな感じかなあ。ま、やってみればいいんじゃない?」


 月凪は心配そうに。

 花葉はノリ良く答えたところで、一旦俺は教室の外へ。


「お客さんの役って普通にしてたらいいのか?」

「普通でいいよ、普通で」

「普通ってのが一番難しい気がするんだが」


 まあ、やるだけやってみよう。


 息を整え、教室のドアに手をかける。

 そして、意を決してドアを開き――


「「――おかえりなさいませ、ご主人様」」


 微笑ながら揃えて口にする二人に迎えられ、確かにこれはメイド喫茶だなと妙な実感を得るのだった。


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