表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

84/90

第84話 可愛いお願いだと心得ています

「そんなに眠いなら帰って寝た方がいいんじゃないか?」


 夜。

 珍しく月凪が家で風呂まで入り、髪も流れで乾かした後のこと。

 パジャマに着替えた月凪をいつもの体勢で抱きかかえ、映画を観ていたのだが……船を漕ぐような素振りを見せ始めたため、ちょいちょいと尋ねてみた。


 月凪の反応はやはり鈍い。

「んんっ……」と喉を鳴らし、数秒ほどの間を置いて「まだ、いやです」と眠気でふにゃふにゃになった声音ながらも固い意思表示を掲げた。


「いやって……明日が休みならまだしも普通に学校あるけど」

「……泊まれば、いいじゃないですか」


 甘えるように告げてくる月凪に、やっぱりその気かと内心思う。

 泊まる準備はある……というか、夏休みの分がそのまま置きっぱなしだから、なんら不都合は生じない。


 思い返せば着替えた制服はハンガーに干してあるし、風呂に入る前から企んでいたのかもしれない。

 企み事と呼ぶには少々可愛げがあり過ぎる気もするが。


 そうするに至った原因の心当たりはないこともないわけで。


 だから泊りたいと言っているなら、いじらしすぎるだろうと。

 同時に、それだけ想われているのかと勘違いしそうになる。


 ……勘違いしそうだと思うことにして、逃げているだけかもしれないけど。


「朝起きて後悔するなよ?」

「……後悔なんて、しません。今に始まったことではありませんし。それとも……後悔するようなことをするんですか?」


 月凪が顔だけで振り返る。

 僅かに身じろいて、膝にかかる力に強弱が生まれ、どこかこそばゆくも柔らかい感触が押し付けられた。


 それを意識しないようにしつつ、向かい合うのは蕩けた青い双眸。

 湯上りのせいか血色のいい頬の朱。

 鮮やかな桜色の唇が、すぐそばに。

 ぽやぽやとした雰囲気ながらも、瞳に宿った妖しい気配に吸い込まれそうになる。


 ……ああ、ダメだな。


 こんなにも無防備で、身を委ねる言動をされては、理性の残量がいくらあっても足りそうにない。

 とはいえ、だから手を出すのかと尋ねられれば、そういうわけでもなく。


 月凪を大切だと思えば思うほど、そんなことをしようとは思えない。


「……しないって」

「本当に?」

「本当に」

「そうですか……残念です」


 最後に「残念です」って言ったの、小声のつもりだろうけど全部聞こえてるからな?


 それよりも、だ。


「狸寝入りはやめたらどうだ?」


 呆れながらも問い詰めれば、ぱちりと長い睫毛が瞬いて、瞳に理性の色が戻る。

 相変わらず雰囲気はぽやぽやとしたままだが、今は芯が通ったような感じだ。


 月凪は悪戯がバレた子どものように笑みを浮かべて、


「酷いですね。眠いのは本当ですよ。泊まりたいのも、後悔しないのも」

「……なんでこんなことを?」

「珀琥が長月さんと仲良さそうで妬いてしまったので、構って欲しかったと言えば受け入れてくれますか?」

「仲良さそうって……普通に話してただけだと思うけど」

「ミシン係を引き受けたのも?」

「他の人は手を上げそうになかったし、他の人に混ざって作業するよりは一人で出来るミシンの方が気楽だなと思ったのもある」

「私というものがありながら?」

「なんだその昼ドラみたいな質問。揶揄ってるだろ」

「半分だけですよ。もう半分はご想像にお任せします」


 再び微笑む月凪。


 そういうの、本当に怖いんだが。

 代償がお泊りなのはやっぱり可愛いなと思うし、拒むつもりはないけどさ。


 今の俺たちの関係性を考えるとどうなんだ、とも思う。


 自然と、流れで異性の友達が泊まるなんて、誰かに知られればそういう関係だと指を刺されかねない。

 けれど、俺たちの場合は他の人が恋人だと思っているから心配不要。


 ……困ったことに俺の心境を除けば、断る理由が見当たらないのである。


「……泊まっていくくらいなら好きにしてくれ」

「言質取りましたからね」

「手のひら返すようなことはしない。てか、意地でも泊まっていく気だったろ」

「断られたら流石に帰るつもりでしたよ。無理強いはしたくないですし」

「これは無理強いの範疇に入らないと……?」

「可愛いお願いだと心得ています」


 違いますか? と首を傾げながら問う月凪に、俺は否定を返せない。


 泊まっていくのを可愛いお願いに収めてしまえるだけの過去があるからな。

 夏休み中の同居生活に比べれば一泊くらいは……という気になるのも仕方ないこと。


 それに、泊まった場合のメリットもきっちり理解している。

 月凪の寝坊を心配しなくていいとか、朝食のメニューも相談できるとか色々――ってこれ、全部月凪に取ってのメリットでは?

 まあうん、そうだとしても気にしてはいけない。


 朝起きておはようと言ってくれる誰かが傍にいるのは、素直に喜ばしい。


「じゃあ、そろそろ寝るか?」

「……そうですね。楽しくて、中々寝付けないかもしれませんし」

「俺は寝るからな?」

「先に寝ていたらベッドに潜り込みますから」

「朝起きたらマジでびっくりするやつだろそれ」

「だって、温かくて寝やすいんですもん」


 常習犯の言い草では?


面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

執筆のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ