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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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83/90

第83話 推しカプの順番を間違えるくらいない

「それでは今日から学園祭の準備を始めていきたいと思います。……とは言っても、まずは準備のための準備をする必要がありますね」


 放課後の教室に、長月の声が響く。

 今日から学園祭の準備が始まるのだ。


 残っているのは事前に合った説明通り、部活などの予定がない人ばかり。

 俺と月凪、花葉、そして長月を含めても十人に満たないが仕方ない。


 出来ることは限られるが、少しでも進めておくことに意味がある。


「今のうちに出来るのはメニュー決めくらいでしょうか。ここが決まらないことには買い出しも出来ません。衣装や飾りつけ、役割分担についてはそれらを決めてからでも遅くはないでしょう」


 今日の長月は真面目モードのようだ。

 これなら安心だなと思いつつ、話はメニュー決めへと移っていく。


「普通の喫茶店と違うのは衣装だけです。なので、去年のメニューを参考にして流用すればいいと思うのですが、どうでしょうか」


 賛成の肩は挙手を、と長月が呼びかけると、全員が手を上げて意思表示していた。

 これはわざわざ否定する理由もないからな。

 前に倣えの精神で楽に済む部分は進めていきたい。


「では、そのように進めていきましょう。次は……飾りつけの方針を決めて買い出しや装飾品の作成をします。メイド・執事喫茶なので、そっちの方向性に寄せた方が雰囲気も出るかと思いますが」

「お屋敷的な?」

「花葉さんの言う通りですね。少々難しい部分もありますが割り切りましょう。それから、この中にミシンを扱える人はいませんか? 衣装の調整や布系の装飾品を作るのを手伝って欲しくて」


 長月が呼びかけるも、すぐには手が上がらない。

 今時ミシンをちゃんと扱える人なんて珍しいよな。

 人によっては授業でちょっと触った程度の経験しかないはずだし。


「珀琥、ミシン使えたりしないんですか?」

「無理とは言わないけど自信を持って使えるとは言えないな。手縫いなら出来ないこともないけど。月凪は――」

「使えると思います?」

「すまん」


 不器用な月凪には難しいよなとすぐに思い直す。

 要領はいいから教えれば使えはするだろうけど、肝心の裁縫技術を身につけるのにどれだけかかるやら。


「花葉はどうなんだ?」

「アタシは無理。全然無理。ちまちました作業はどうしても苦手でさー」

「そうか……」


 もしかしたらと思ったが、当てが外れたな。


 他の人も無理っぽい雰囲気だし、どうしたものか。


「いなければ私がするつもりですけど一人では作業量に限界があったり、そもそも作業できない可能性もあるので、もう一人欲しいのです。初心者に毛が生えた程度でも構いませんので。懇切丁寧に教えるので……いませんか?」


 縋るような眼差しと言葉で呼びかけるも、ポジティブな反応はない。

 誰もが意地悪で手を上げないのではなく、本当に誰も出来ないのだろう。

 申し訳なさそうな表情で他の人が手を上げてくれるのを待っている状況だ。


 ……なら、仕方ないか。


「期待に添えるかわからないが、俺で良ければ手伝おう」

「桑染くん……いいんですか?」

「念押しするけど本当にちょっと使ったことがあるだけだぞ。それでもいいなら手伝わせてくれ。他の部分だと俺が力になれる作業はあんまりないだろうし」


 とてもじゃないが、俺は他のクラスメイトと作業ができるほど協調性があるとは思っていない。

 それならまだ関わる人が限定されるミシン係が丁度いいだろう。

 黙々と作業するのが性に合っている。


 それに、相手が長月なのも気が楽に感じる要因の一つ。

 素を知ってしまった俺には長月も遠慮しないだろう。


 心配なのは月凪が他で馴染めるかだけど……それも花葉がいてくれるなら心配ない。


「……では、桑染くんは私と一緒にミシン係をしてください」

「了解だ」

「他の方は協力して作業をしてもらえると助かります。ひとまず今日は内装のイメージを固めるのに専念しましょうか。一旦話し合ってみてください」


 さあどうぞ、と話し合いの時間が設けられ、各所でどうしようかと相談が始まる。

 俺も月凪、花葉と固まってアイデアだしをしようとしたのだが――


「桑染くんに白藤さん、花葉さん。私も混ぜてもらっていいかな」


 長月は俺たちの集まりへ声をかけてくる。

 真っ先に反応したのは月凪だった。

 歓迎しないまでも追い返しはしない風な視線で長月を見返す。


「いいですけど……」

「やっぱり白藤さんは桑染くんをミシン係にしたのが嫌でしたか?」


 煮え切らない声音の月凪へ、長月は直球で尋ねた。

 俺も花葉も驚くが、月凪は気まずそうに視線を逸らしていく。


「それは……嫌、ではないですけど」


 返答がはっきりしないのは、俺の意思を尊重するためか。


 けど、長月もこんな質問を直接ぶつけるとは趣味が悪い。


「その辺にしてくれ。月凪も本気にしなくていい。揶揄ってるだけだから」

「ばれちゃった」


 茶目っ気混じりにネタ晴らしをする長月。

 え? と月凪は目を丸くした。


「……そうなんですか? というか、なんで珀琥がそんなことわかるんです?」

「長月は真面目そうに見えて結構アレらしい」

「アレって酷くない? 私、これでも真面目な委員長なんですけどー?」

「ほらな」

「いいんちょーは意外とね。くわっちを取る気もないんでしょ?」

「ないよ? ないない。全然ない。推しカプの順番を間違えるくらいない」


 ……そりゃないわ。

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