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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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第82話 意外と詳しい?

「珀琥、やっと戻りましたか」


 長月と話し終えて教室に戻ると、帰り支度を済ませた月凪が待っていた。


 一応、別れるときに先に帰ってていいとは伝えてあった。

 けれど、こうして待っていてくれたらしい。


 ありがたくもあり、気恥ずかしくもあるけど、総じれば嬉しいに比重が偏る。

 月凪が一緒にいたいと思っているからこその行動であるからして。


「長月さんは少し借りる、と言っていたので。それなら一人で帰るより待った方が得かなと。どうせ二人で過ごすじゃないですか」


 ……月凪の言う通りだな。

 俺の部屋で自分の家同然に寛ぐようになってからしばらく経つ。

 それ自体は咎めることでもなく、むしろ推奨している節すらある。


 でなければ、あんなに月凪の私物が増えないわけで。


「一人で先に帰っても合鍵はもらっているので珀琥の部屋には入り放題ですし。危機管理的にどうなのでしょうか、とは常々思っていますけど」

「月凪は俺が留守の時に部屋にいても何もしないだろ?」

「わかりませんよ。珀琥の秘密を探るべく、部屋を物色するかもしれません」

「すでに勝手知ったる場所だろうに」

「それはそうですね。珀琥と一緒に眠るベッドの温かさすら知っています」

「…………」


 なにか言い返さなければと思ったが、出来なかった。

 事実ではあるし、万が一にも誰かに聞かれないように月凪が周囲へ視線を巡らせた後のことだったから。


 それはともかく、月凪に合鍵を預けているのは信頼してのこと。

 月凪がむやみやたらと部屋を漁るとは思えないし、漁られたところで困るものもほとんど置いていない。

 精々が銀行通帳くらいだろう。


「とりあえず帰るか」

「ですね」


 俺も荷物を持ち、自然に月凪と手を繋ぐ。

 すっかり慣れた手の冷たさが、俺の体温とじんわり溶け合う。


 二、三度と俺の手をにぎにぎする月凪。

 しっくりくる場所を探しているのかと思いきや、今度は指を絡めてきて――


「しっかり繋いでおいた方がいいですからね」

「……ひょっとしなくても機嫌が悪かったりします?」

「いえ、別に。長月さんと一体何を話していたのかは気になりますが、プライバシーにも関わりますし」

「大したことじゃなかったよ。学園祭の当番をどうするかって相談されただけ。置き場に困るから、先に決めておいた方が楽だろ?」

「……そういうことでしたか。てっきり告白でもされていたのかと思いました」


 なんて語る月凪は、露骨に安堵の息をつく。

 俺と同じ懸念を抱いていたらしいが、現実は掠りもしていない。


 まあ、月凪を意味もなく嫉妬させる長月の目論見は達成されたわけだが。

 ……ほんとに意味ないよな、これ。


 恋愛的に狙っている意図は多分ゼロだったし。

 よしんば狙っていたとしても、あの腐った一面を見せられると、とても首を縦には振れそうにない。


「長月さんも地味な風を装っていますけど、綺麗な方ですからね」

「だとしても、月凪の方が可愛いと思うぞ」

「……適当に褒めておけば私の気が良くなると思っていませんか?」

「ちゃんと本心だって」


 ジト目を向けられるも嘘は一切ない。

 月凪と長月で好みが分かれることはあるだろうが、総合的な魅力で言えば俺は断然月凪に軍配が上がる。

 生活を共にして、色々知っているのもあるだろう。


 色々には何の含みもないが。

 メイド服でのご奉仕や、時々見える下着や肌色のあれこれは関係ないが。


「ところでさ、一つ聞きたいことがあるんだが」

「なんでしょう」

「……女子がBL好きなのは世間一般的には当たり前なのか?」


 長月と話している間に浮かんだ疑問を月凪に尋ねてみる。


 俺が覚えている限りでは、家でそれらしいものを月凪が嗜んでいる様子はなかったはず。

 しかし、長月は『女の子は誰だって男同士の熱い友情と、そこから生まれるその他諸々が薄っすら好きなの』と熱弁していた。

 一体どっちが本当なのだろうか。


 俺の問いに月凪は眉を寄せるも取り合ってくれる気はあるようで、「そうですね……」と呟きながら数秒ほど考えて。


「全ての女性が好きとは断言できませんが、比率で言えば結構多いと思いますよ」

「……なるほど?」

「それに、一口にBLと言っても中身は様々です。過激なものもあれば、ソフトなものもあります。あくまで男同士の友情を描いた作品を思想の偏りからBLと呼ぶ人もいるくらいですし」

「…………月凪さん、もしかして意外と詳しい?」

「私なんて全然ですよ。好き好んで読むほどではありません。気まぐれに買ったものがその系統だったことが何度かあるくらいです。好みで言えば普通の恋愛ものの方が好きですし」


 その謙遜は信じていいのだろうか。

 普通の恋愛ものの方が好きって部分は正しいのだろうけど、意外な解像度の高さからしてそれなり以上の知識はありそうだ。


 ……いや、余計な詮索はよそう。

 藪をつついて蛇を出したくはない。


 何より、もしも月凪がそうだった場合にどう受け止めたらいいのかもわからないし。


「試しに珀琥も何か見てみたらいいんじゃないですか?」

「……気が向いたらな」


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