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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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第81話 男の子的には本望じゃない?

 ――ちょっと桑染くん借りてもいい?


 その日の放課後。

 どういうわけか長月に呼ばれ、俺は屋上にいた。


 午後になればある程度は涼しくなる。

 夏もじきに終わりそうな風に扇がれながら、耳元で髪を抑える長月をふと見やる。


 黒のセミロングと眼鏡。

 如何にも真面目な文学少女という出で立ちの彼女と、一対一で話す機会が訪れるとは思っていなかった。


 俺と長月の間にはそれらしい接点がない。

 あるのはクラスメイトとしての薄い繋がりだけ。


 ……俺が忘れているだけで何かあったのか?


「ごめんなさい、急に声かけて」


 口にする長月に緊張の色はない。

 それどころか俺へ対する恐怖や嫌悪もないのは少々不思議な感覚だ。

 月凪や燐、花葉以外からは未だに怖がられている節があったために、長月の雰囲気は新鮮に映る。


「それはいいけど……俺に何の用が?」

「用事、というほどではないよ。ちなみに告白でもないから勘違いしないでね。私、人の彼氏を横取りするような趣味はないから。白藤さんを敵に回したくないし」


 肩を竦めて答える長月に俺も心から同意する。

 女の怒りは恐ろしいのだ。


「……てか、いつもと喋り方違うんだな。ちょっと軽いっていうか」

「意外だった? 私はこんななりだけど、別に真面目ちゃんってわけじゃないの。そうするのが楽だからしてるだけ」


 そんなことより、と長月が手を打つ。

 こっちの方が俺としては話しやすくて助かる。


「本題に戻るね。今日の目的は相談。学園祭当日の扱いをどうしたらいいのかわからなくてさ。いっそのこと本人に尋ねてみようと思ったわけ」

「役割分担的な?」

「桑染くんが良く話す三人は当日、接客に回されると思う。けれど、桑染くんは裏方に回りたいと思ってるんじゃない?」

「……それが一番丸く収まるだろうしな。変に俺が前に出て来場者を怖がらせるのも良くない」

「そこは私も同意見。でも、桑染くんには人を怖がらせる意図はない。それに、ちょっと怖い執事さんなんて、ゲームや漫画にはよくいるでしょ?」


 それはその通りだが、と思ったところで、やっと話の全容が見えてくる。


「つまり、長月は俺を接客に立たせたい……と?」

「そんな感じかな。桑染くんが表にいてくれたらお客さんも変なことをしにくいだろうし。接客よりは入り口から席までの案内役、みたいなイメージがいいかも。もちろんやりたければ接客でもいいよ?」

「流石に接客は出来る気がしない。案内人程度ならまあ、なんとか」


 不安を残しつつも答えると、長月は「よかった」と軽く笑む。

 役割分担を行う上で俺の存在はかなり厄介だろうからな。

 折角こうして相談に来てくれたのだから、ありがたく乗っかるほうがいい。


「ちなみに案内役も二人でするから安心してね。もう一人は私になるかも」

「長月がいてくれるなら安心だ。俺一人だったらどうしようかと」

「そんな酷いことしないって。同じ時間に他の三人も纏めるのは確定だから。学園祭は仲のいい子と一緒に回りたいでしょ? 余計なお節介かもしれないけど、人の恋路を外側から眺める者としては見過ごせないイベントだし」

「……意外とその手の話が好きなんだな」

「女の子はみんな恋愛話が好きだと思うよ? 特に桑染くんと白藤さんみたいに仲良さそうなのに、どことなくもどかしい二人を見てるのはね」


 仲良さそうなのにもどかしい、か。

 長月は俺たちが本当は付き合っていないことも知らないはずなのに、そう見えてしまうらしい。


「ところでさ」

「なに?」

「この話、わざわざ俺を月凪から引き離してする必要あったのか?」

「ないよ。ただ、こうした方が白藤さんは嫉妬するのかなあって思ったから」


 想像よりもしょうもない理由に肩の力が抜けていく。

 嫉妬……月凪はするだろうな、それなりに。

 長月も地味ながら整っている女の子だし。


「あのなぁ……それで困るの俺なんだが」

「でも、男の子的には本望じゃない? あんなに可愛い女の子から愛情を向けられるのは……さ」


 したり顔に思わず表情が動きそうになる。


 愛情と他の人からも断言されると、やはりむず痒く感じてしまう。

 それだけわかりやすい態度を取られている証拠だから。


「――でもでも、私としてははく×しのも捨てがたいと思うんだよね」

「……ん?」

「桑染くんと白藤さんを応援してないわけじゃないよ? ただこれは趣味と言うか、逃れられぬ業というか……すごくいい組み合わせなんだよね。方や不良っぽいと噂される青年、方や少女にも見紛う華奢な少年……っ!! 定番だけど大変美味しいカップリングじゃないですか……っ!!」


 急に口調がヒートアップし始める長月にどうにもついて行けない。

 が、しかし。

 端々から感じ取れる要素からして、腐ってるとかの話なんだろうと予想はつく。


 ……自分がやり玉に挙げられているのはさておいて、だが。


 けれど、長月も話し過ぎたと察したのだろう。

 急に口を閉ざし、気まずさから意識を逸らすように頬を指で掻く。


「あー……ごめん、今のなかったことに出来たりする?」

「俺の名前が出ていなければその可能性もあったかもな」


 暗に無理だと告げれば、だよねえと諦めを伴ったため息が漏れて。


「……まぁいっか。知ってる人は知ってるし。癖は完全に制御できないんだよね。わかる。わかるでしょ? わかってお願いだから」

「一応確認するけど、長月は腐ってるって認識でいいのか?」

「腐ってない。これは淑女の嗜みなの。女の子は誰だって男同士の熱い友情と、そこから生まれるその他諸々が薄っすら好きなの。私は他の人よりもちょっと熱意があるだけ……っ!」


 つまり立派に腐ってるってことでよろしいか?


 一章でちょっとだけ情報が出ていた燐の噂の元凶が長月

 悪い奴ではないし、敵でもない

 ただ腐ってるだけで……

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