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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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79/90

第79話 メイド服、再び

「――で、なんでまたメイド服を?」

「学園祭の出し物で上がっていた時に珀琥から嫉妬の波動を感じたので」

「別にそんなもの出しては……」


 いない、とは言い切れないのが悲しい男の性だ。


 学園祭の出し物の話し合いをした日の午後。

 月凪が「着替えてきます」と一言残して消え、戻ってくるといつか見たロング丈のメイド服姿になっていた。


 いつ着ても似合うのは月凪の基礎スペックによるもの。

 これだけの容姿を備えた人形みたいな女の子に似合わないわけがないのである。


「あんなに嫌だって言ってた割にこれはいいのか」

「いいんです。ここなら見る人は珀琥一人だけですから。不特定多数の見せ物にされるのが嫌なだけで、メイド服とかコスプレチックな服装自体は好きですよ?」

「そうでなきゃメイド服を私物で買わないよな」

「そういうことです。……もちろん、出し物として正式に決まってしまったら自分の役割分は働きますけど」

「大変な役を押し付けるみたいで罪悪感が凄いな」

「不要な反感を買わないために必要なことですから我慢します。以前までならいざ知らず、今は他に迷惑をかけてしまう人が少なからずいますから。それに、後々のことを考えておくと、周囲を味方につけておく方が総合的に得です」


 月凪が語る「後々のこと」が引っかかったが、こういうときに尋ねてもあまり教えてくれた試しがないので聞かない。

 多分、俺の不利益になることではないと思うし。

 積み重ねた信頼を裏切るような真似はしないはずだ。


「折角メイド服を着たんですから、それっぽいことでもしてみますか? 以前は……膝枕と耳かきでしたよね。テストで目標達成したご褒美の」

「ちょっと不穏な気配を感じるんだが気のせいだよな」

「無理矢理耳かきなんてしません。……自分で言ってて思ったのですが、無理矢理耳かきって普通に危ないですよね」

「ほんとだよ。それを踏まえて、月凪は一体何をするつもりなんだ?」


 メイド服、という服装から連想されるのは奉仕的な行動。

 そもそもメイドが上流階級の家かメイド喫茶くらいでしか存在しないだろ、という話は置いといて。


 尋ねてみると、月凪は「どうしましょう」と口元に手を当てつつ考え、


「珀琥が望むなら何でもしますよ?」


 薄く笑みを湛えつつ、そんなことを言いだした。


 何でも。

 つまり、何でもってことか。


「じゃあまず何でもするってのをやめよう」

「それは反則では?」

「何でもするって言ったのは月凪だしなあ」

「……ご主人様は意地が悪いみたいです」

「含みのある言い方をしたのも悪いと思うけどな」


 俺の意地が悪いのは認めるけど、五分五分ですらないだろう。


「珀琥」

「なんだ?」

「私、何でもするとは言いましたけど、なにもいかがわしいことをしようだなんて考えてはいませんよ? 一体珀琥は何を考えたのでしょう。私、すごく気になります」

「誘導尋問をしようとしても無駄だぞ。てか、語るに落ちてないか?」

「落ちていません」


 むきになるあたりが怪しいけど、これ以上はやめておこう。

 機嫌を損ねて拗ねられても困る。

 メイド服なのもあって、何をしでかすのか読めないし。


「ともかく、ですよ。候補を上げるとしたらそれこそ前のように膝枕と耳かきとか、添い寝とか、夕飯の支度とか」

「一番最後が一番まともに聞こえるな」

「お風呂で背中を流してもいいですし、むしろ一緒に入るのもいいですね。お風呂を上がったら髪を乾かしてもらって、その後は添い寝を――」

「はいはい」

「軽く流さないでください」

「軽く流す以外にどうしろと?」

「受け入れてくれるだけで万事解決なのですが」


 ……一緒に風呂入ったら万事解決どころか無数の問題が噴出じゃないか?


「というかあの、友達って話は」

「お風呂に一緒に入らないことくらいわかっていますよ。けれど、それ以外は既にしています。私、珀琥に髪を乾かしてもらうの好きですよ?」

「そりゃあありがたい話だが」

「あ、添い寝も大歓迎です。一人で眠るより安眠出来るので」

「そんなわけ……ある、のか?」


 こればかりは本人の認識だから俺には正確に測れない。

 しかし、夏休み中はよく眠れていた気がする。

 添い寝じゃなく別々だったけど、二人の方が気が紛れるのは確かかもしれない。


 だからって好き好んで添い寝をするかと聞かれると頷きにくいんだが。

 恥ずかしさと気まずさと求められる嬉しさのバランスから、絶対拒否しないあたりに自分の甘さを実感する。


 月凪曰く、その甘さは直さなくてもいいらしいし。


「というわけで、今日は私が夕食を作ります」

「お手伝いは必要か?」

「お願いします。一人ですべて出来ると思えるほど、私は自分の腕に自信を持っていませんので」

「少しずつ、ちゃんと上達してると思うけどな」

「そうでなきゃ困ります。共同作業で教えてもらった方が上達も速そうですし。まあ、それだけが理由ではありませんけど」


 なんて言いつつ、月凪はいつもの調子で俺の膝に収まった。

 背を預け、ふうと一息。

 完全にリラックスしている様子だ。


「メイド的にこれはアリなのか」

「ご主人様と親密なメイドもいいでしょう?」


 まあ、なしではないとだけ言っておこう。


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