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恋人のフリを頼んできた美少女がなぜか全然別れてくれない件  作者: 海月 くらげ@書籍色々発売中
第三章

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77/90

第77話 ダメなところも愛嬌ですので

予約ミスの遅刻ですスマンネ

『白藤さん、僕と付き合ってください!』


『えっと、その、俺、ずっと白藤のことが好きで』


『白藤、あんな男は捨てて俺と付き合わないか?』



 ■



「――流石の私も疲れました。精神的に。一日に三度も告白されるなんて相当珍しいですよ? 珍しいからと言って受け入れる気は全くありませんし、それとこれとは話が別で、特に珀琥を馬鹿にされたことは酷く腹立たしく思いますけど」


 放課後のこと。

 いつもなら寄り道をほとんどせず帰宅するのだが、今日は違う。


 俺は月凪の案内で子洒落た喫茶店に来て、お茶をしていた。

 月凪はおまかせケーキセットで選ばれたショートケーキを口へ運びつつも、表情はまだむっとしたまま。


 ……ちょっとだけ目元が緩んでいるか?

 甘いものには月凪も抗えないらしい。


 というのも、月凪の機嫌が午後になるにつれて悪くなるように見えたのだ。

 月凪は基本的に自分の機嫌を自分で取れる人間だが、ごくまれにこういう日もある。

 原因は様々あり、女子特有のそれだった場合に触れるのが怖いため、なるべく月凪の様子を窺いつつ接することになるのだが……今日はそうではなかったらしい。


「告白って一日に三回もされるんだな」

「他人事みたいに言わないでください。私、本当に困って……は、いないかもしれませんけど、あまり気分がいいものではないんですよ。時間も取られますし、感情も押し付けられ、断れば嫌な顔をされることもあります。その上、私以外を貶められるなんて意味が分からないじゃないですか。思い出したらまた腹が立って――」

「どーどー。落ち着きなされ月凪様や」

「……なんですかそれ。姫扱いしてくれるのは嬉しいですけど」


 こんなもので機嫌が直るならいくらでもしよう。


 にしても今日は一段と気が立っているな。


「ケーキ食べて落ち着きなさい。足りなければ俺の分もいいからさ」


 俺のレアチーズケーキを皿ごと差し出そうとしたが、月凪に手で制される。


「それは珀琥の分です」

「そうか」

「あと、二つも食べたら太ってしまいます」

「……ケーキが一つ増えたところで太るとは思えないけども」

「こういうのは油断した傍から現実になるんです。今まで大丈夫でも次の日、どうなっているかなんて私たちにはわからないでしょう?」

「まあ、そうだけども」

「ですので、一口だけ交換するのはどうですか?」


 交換と来たか。


 俺はレアチーズケーキで、月凪はフルーツたっぷりのロールケーキ。

 一種類より二種類楽しみたい気持ちは俺もわかる。

 一口交換くらい、いつもやってることだしな。


「いいぞ。俺もちょっと気になってたし」

「交渉成立、ということで。はい、口を開けてください」


 フォークで一口分を掬い、差し出してくる月凪。

 なんとなく食べさせられる気はしていたし、これも何度となくやっているから抵抗感はないけれど、恥ずかしさが消えるわけじゃない。


 ましてや今は二人だけの時間。

 目に見える範囲には同じ学校の生徒の姿はいない。

 だから、俺の頭が勝手に関係性の認識を切り替えてしまっていて。


「……自分で食べられるけど」

「いつもしている事じゃないですか。喫茶店だから恥ずかしい……と?」

「それもなくはない。一番は恋人のフリの必要がないからだけど。普通、友達同士だと食べさせ合うなんてしないだろ?」

「仲が良ければすると思いますよ」

「異性でも?」

「異性でも」


 淡々と言い切られ、再度考える。


 ……完全にないと否定するには材料が足りないか。


 仲がいい、という言葉一つにもグラデーションがある。

 その中には食べさせ合う異性の友達が含まれていてもおかしくない。


 ここまで退かないのは月凪がそれでいいと納得しているから。

 それ自体は信頼の裏返しだろうから嬉しく思う。

 そして、おかしなことを言っているのは俺の方だという自覚も一応ある。


 偽物でも彼氏役だったから食べさせ合うのを容認していたのに、そうではなくなったから断るのは役割に行動が引っ張られているとしか言いようがない。

 果たしてそれは、俺が選んだ行動と言えるのか。


 などと考えてみるものの、思考がどうにもすっきりしない。

 月凪が告白されたからって独占欲じみたものを感じてしまっているのか?


 それなら正直、多少は腑に落ちる側面がないこともないわけで。


「……曖昧な関係って難しいんだな」

「けれど、それもまた人間関係って感じがします。全部が全部、はっきり色分けされているわけではありません。好悪を併せて抱きながら接することもあるわけですし」

「ダメなところがあったら何でも言ってくれよ。直せるように努力はする」

「そう言われても……ダメなところも愛嬌ですので」

「例えば?」


 試しに聞いてみれば、一旦フォークを引っ込めてから考える素振りを見せ、


「……私を甘やかしすぎるところとか?」

「それは直さない方が嬉しそうだな」

「そういうことです。珀琥も何かあれば遠慮なく」

「うーん……ダメなとこ、となるとパッと思いつかないな。家事とか早起きが苦手なのはダメの範疇には入らないし」

「怠惰ではありますけどね」

「月凪を怠惰の基準にしたら結構な人が引っかかりそうだ」

「思考的な部分も含めて、です。それよりケーキ、食べませんか?」


 再び差し出されたロールケーキを、今度は躊躇いつつもありがたく頂く。


 俺も俺で、怠惰なのかもしれないな。

 色々放棄して、これまで通りに縋ってしまう。


 それも悪くないと思うあたり、手に負えないな。


面白い! 今後が楽しみ!と思っていただけたら、ブックマーク・星など頂けると嬉しいです!!

執筆のモチベーションにも繋がりますのでよろしくお願いします!!

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